茶路めん羊牧場便り

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ラムレター 第3号(一部ばっすい)

茶路めん羊牧場 武藤 浩史
発行 小西 徹

 

農業とは何ぞや?

◆大地は揺れる
 グラグラそれは突然やってきました。10/4の夜、その日は実は私の36回目の誕生日だったのですが、仕事場で肉の解体をしている最中に足元が揺れだし、徐々に揺れが大きくなりまさに大地を揺るがし始めました。昨年の釧路沖地震の感覚がよみがえって来ました。妊婦の妻と一緒にテーブルの下に隠れるとすぐに停電となり、まわりで業務用の大きな冷蔵庫がガタガタと動くのを聞きながら、倒れたらテーブルが壊れるんじゃないかとひやひやしましたが、横揺れはさ程でもないから大丈夫だろうと、比較的冷静に状況判断できたのは昨年の経験があったからです。しかし、20年に一度と言われる大地震に毎年来られたのではたまったものではありません。ようやく揺れがおさまり、築80年のわが家に異常がないのを確かめ(被害は皿5枚)、羊小屋に羊達の様子を見に行くと、やっぱり、昨年の地震後と同様彼等は悠然と牧草を食べていました。今年は戦後一番の夏の暑さにうんざりさせられたり、隣家の落葉松に雷が直撃し、木が真っ二つに折れたり、そしてとどめが地震と、自然の力をまざまざと見せつけられました。自然は我々に多くの恵みを授けてくれますが、時として一瞬にしてすべてを破壊する力を見せつけます。でも決して人間が自然を思い通りにコントロールしようなどと思わないほうが無難でしょう。それは地球のリズムに棹(さお)差すようなものですから、思わぬしっぺ返しを被るだけです。しかし災害に遭うといつも「田舎に住んで百姓をしていて良かったなあ」と感じます。もし都会の真ん中で大地震に遭遇したら密集地帯の不夜城では建物の倒壊、火事、交通事故、次から次へ災害が雪だるま化し、なんとか一時災害を免れても停電、断水が続けば、電化製品に支配された生活では飯は炊けない、フロに入れない、夏なら暖房、冬なら暖房が効かない、水洗トイレは流れないで生活はパニックに陥るでしょう。パニックに乗じた強盗の心配もしなければならないでしょう。ところが我々農家だとたとえ倒壊や火事があっても隣に被害が及ぶことはないし、家の外は全て開けた緊急避難地、停電したらまきストーブに火を起こして暖を取り、ナベを乗せて調理すれば良いし、断水でも井戸水はあるし、いよいよとなれば川で水を汲んでくれば良い。野菜は畑にある。羊肉と交換に牛乳は搾りたて、卵は生みたてをもらってこれる。わざわざ泥棒が訪ねてくることもないでしょう。
 普段不便といわれる生活はこんなにも便利なものです。反対に便利なはずの都会の生活はとんでもない不便さと背中合わせなのです。

◆自然の番人めざして
 最近農産物の自由化に向けて新しい農業の在り方が議論されており、政府の打ちたてる新農政プランではさらなる機械化による省力化、規模拡大によるコストダウン、サラリーマン並み所得と休養のあるゆとりある農業生活が机上で描かれていますが、実現するかどうか疑問視する以前に農家が都会のサラリーマンと比較されるものではないし、ましてや都会の感覚、物さしで価値を測られるのは疑問です。私は都会育ちの百姓入門者ですが、羊飼いになりたくて田舎で暮らしたくて、サラリーマンに向かなくて、なぜだか羊というミステリアスな生き物に魅せられて、この職業を選択したのであって、これが良いという価値観をもっているからいろいろな不便や、危険や、経済的問題があっても続けていられるのだと思います。でももし自分そして家族にとってこの生活が耐えきれないものになった時には止めるつもりです。やめれるという気持ちを持たなければ続ける活力は湧いてこないでしょう。もちろん子供に無理に農業を継がせる必要もありません。
 以前ある百姓に「百姓とは何ぞや」と問いかけられて、答えに窮して、あれやこれや理屈を並べてオロオロしたことがありますが、7年の羊飼いを通じて今考えるに「百姓(農業)とは自然との接点で生活し、その力に恩恵を受けながら、時に驚異を感じつつ、自然との共存を試みる仕事」だと思います。きれいな空気、水、太陽の恵みは多くの実りをもたらしますが、一陣の風が収穫間近の作物を根こそぎさらって行くこともあります。それでもまた土を耕し、種を播いて一から始めるのです。無駄な様でも自然の力は負に働いても、いずれ正に働き安定します。あるいは負に働いているように見えて実は正を含んだ働きであったりします。だから種を播き続けるのです。最近の農業は人間にとって一番必要と思われる部分だけを効率よく生産することに固執するあまりに、自然との接点をなくし、それを破壊するようにすら進んでいます。私自身はまだまだ修行中の百姓ですのでその域に達していませんが、農家のじいさんが空模様を見て明日の天気を予想したり、初霜の到来を言いあてたり、その年の収穫を占ったりできるのは自然との接点に立つ番人の様です。百姓を続けているうちに、いつか五感のすぐれた自然の番人になれればと願っています。

武藤 浩史

 


 

羊子さんのクッキングメモ
−羊肉包子(ヤンロー・パオズ)−

<具の作り方>

  1. 干し椎茸2枚、玉ねぎ150g、ネギ1本を5ミリ角に切る。土生姜少々はみじん切りにする。羊肉120gは5ミリ角に切って塩、酒で下味をつけ片栗粉をまぶしておく。
  2. 1の材料を油で炒め、塩、醤油、コショウで味をつける。好みでゴマ油、砂糖等を加えても良い。

<皮の材料>12ヶ分
A.−薄力粉170g、強力粉80g、ドライイースト5g、砂糖大さじ1、塩大さじ1/2微温湯300-330cc
ベーキングパウダー小さじ1、ラード大さじ1

<作り方>

  1. Aをよく混ぜ合わせてこねる。ボールに入れラップをして温かい所に置く。(第一発酵)
  2. 約2倍の大きさに発酵したら、ベーキングパウダーとラードを練り込み、12等分に分けて先に作っておいた具を包む。
  3. 四角く切った硫酸紙の上に置き、蒸し器に並べる。しばらく置いて(第二発酵)少し大きくなったら強火で15分蒸す。

 

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羊仕切り

最終更新日: 1999/11/15.
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