茶路めん羊牧場便り

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ラムレター 第5号(一部ばっすい)

茶路めん羊牧場 武藤 浩史
発行 小西 徹

 

●●●羊が織りなす豊かな衣食住●●●

 あなたは衣食住をどれだけクリエートしていますか?遊牧民はその大半を彼等の飼う家畜を無駄なく利用することによって得ています。もっとも、最近は遊牧民の社会も経済の波が押し寄せ物資が豊かになり、作るよりも買う時代になっており国が定住化政策を促進しているようですが、少なくとも我々よりは数段クリエーティブで無駄を作らない生活を営んでいると思います。経済が発展し、生活が豊かになるということは、クリエートせずとも何でも手に入り、物だけでなく、あらゆるサービスがお金を払えば受けられる訳です。最近ではそのサービスがすべての職種に広がり、情報がそれをコントロールしており、家にいながらにして電話1本で衣食住が手に入ります。身体を動かして買い物にゆくという仕事までサービスしてしまったのです。情報産業の発展に、サービスと情報の氾濫は、人間が本来持つ能力をどんどん退化させ、一歩間違えば大パニックを引き起こし、自らの首を絞めることになるのではないかと危惧します。世界一高い人件費と土地代に円高が拍車をかけて、一次産業はもちろんのこと工業分野の製造業までが、国内でのその存在を脅かされています。このままでゆくと情報とサービスが膨れ上がり生産を必要としない社会になるのでしょうか?
 ところで羊1頭からいったいどれだけのものが得られるのでしょうか?まず、ヘルシーで安全なお肉。次に、羊毛は紡いで編んで織ってセーターや服地、絨毯やタペストリーとして、衣服やインテリアになるだけでなく、遊牧民はパオやゲルと呼ばれるフェルトのテント住居まで羊毛から作ります。羊乳は北海道でも最近乳用羊を飼って、アイスクリームやチーズを作る牧場がありますが、遊牧民が牛よりも乾燥した気候に適応する山羊や羊を飼い、その乳からチーズやヨーグルト等の乳製品を作ります。ヨーロッパでもロックフォールやペコリーノなど有名な羊乳チーズが知られています。羊毛皮や皮革は防寒具や装身具になり、皮袋の水筒や太鼓の皮にもなります。脂は色々と活用されますが、中近東では、ラクダのコブの様に尻尾に脂を貯蔵する脂尾羊という羊がいて、その脂が料理に不可欠とされています。内臓を含む網脂は肉の固まりを包んでローストするのに使われます。湯せんにして溶かしだし脂を固めればろう燭になるし、化成ソーダを入れれば石鹸になります。また羊毛に含まれているラノリンオイルは化粧品や薬品の原料にもなります。血液はといえば遊牧民にとっては貴重な栄養源であり、屠殺に際しては大地を地で汚すことなく、集めて腸につめてボイルしてソーセージにします。また医学の分野でも免疫反応を利用した薬になったり、赤血球を培地に利用したりします。骨は犬のおもちゃにする前に煮込んでスープストックをとります。内臓はといえば、調理しだいでほとんどすべて美味しく食べられます。
 民族によっては頭や目玉を最高のご馳走として客人に勧める習慣もあります。胸腺や脳味噌は一頭からほんの数十〜百数十グラムしかとれない貴重品で、フランス料理では高級メニューです。そして腸は究極のマルチパーパスな品物です。そのままモツ鍋の材料になるだけでなくソーセージのケージングにもなります。英語で腸のことをGUT(ガット)といいますが、辞書を引くと腸、内臓という意味の他にテニスのラケットのガット、ヴァイオリンのガット弦と出ています。今ではどちらも合成素材が主流となりましたが、もともとすべて羊腸で作られていました。さらに手術の縫い糸も、抜糸できない体の中を縫う糸は獣腸線といって羊腸が使われているのです。こうして考えてみると遊牧民でない私たち日本人も知らない所で羊のお世話になっている様です。日本は世界で有数の羊毛輸入国であり、消費国ですが自給率は限りなくゼロに近く、これは羊肉についても同じで99.9%輸入に依存しています。日本の羊飼養頭数は2万5千頭弱(編者注:'97現在は約1万6千頭)にすぎず、北海道の名産ジンギスカンもほぼすべて輸入肉だということは北海道に住んでいる人さえ知らない事実です。ですから、日本の羊飼いなどあってもなくてもどうでも良い存在なのですが、犬好きの人がいたり、馬をこよなく愛する人がいるように、羊が好きな人もいて、それが意外に沢山いて、しかも様々な分野の人が関わりあっているのには羊飼いも驚かされます。
 羊仲間の紹介コーナーでは紹介しきれないほどの数とバリエーションです。羊飼いは、そんな仲間達に支えられて続けていられるのです。わが家では遊牧民のように、羊から衣食住のすべてをまかなうという訳にはいきませんし、十分俗世間に染まっていますが、それでも1頭の羊をできるだけ無駄なく使い切れるように、羊仲間=お客様に生産物を利用してもらっています。おそらくこの仲間が集まれば衣食住のすべてを羊からクリエートできるに違いないでしょう。

 米までが自由化されようとしている御時世でありますが、都会の消費者はどれほどの問題意識を持っているのでしょうか?問題意識を持つには、あまりに1次産業の生産物と身の回りの衣食住の製品が離れた存在になっているのでしょうね。それは我々生産者にとっても同じことかもしれません。遊牧民にとっての羊は、日本人にとっては稲だったはずです。ほんの一昔前、稲は食としての米だけの為でなく、稲藁は農耕用の役牛の餌になったり、撚って縄にし、藁細工で俵やむしろ、神社のしめ縄、藁靴、蓑笠となんでも作り、納豆だって藁の中にいる納豆菌で作れたし、糠漬けも各家庭で作りました。土と藁を交ぜて土壁を塗り、藁のしんに、い草の表地をはって畳を作り、藁や茅の屋根をふきました。稲は日本の気候風土に適した衣食住の源であったはずです。精米された白米としてしか見ることのできなくなった稲からは、生活文化の香りは感じとれず、それが輸入品に変わったところで大した問題ではないのかもしれませんね。しかしそのことは、経済の発展と生活の豊かさの代償に文化のバックボーンを無くしたように感じられます。経済の先行きに陰りが見え、勢いの衰えた国はもはや更なる成長を目指すよりは現状を維持しながら内面を充実させ成熟した国へと脱皮するべきでしょう。戦後日本とは逆に経済の斜陽を迎えた英国は、当時30%だった穀物自給率を70%までに引き上げました。日本も今1次産業を見直し、生活文化をクリエートすることを考えるべき時期ではないでしょうか。現在日本人の大半は、経済的に豊かで物質文化に恵まれた先進国日本に生まれて良かったと感じていることでしょう。しかし凶悪犯罪が増え、失業率が高まり、子供の教育問題が深刻化し、山川海の環境汚染が広がりつつあるこの国が、21世紀に生まれてくる子供達にとって良かったと思えるように、今一人一人が考え出さなければならない時期ではないでしょうか?羊飼いとしては、自らの生活を羊からクリエートする努力をすると共に、羊というキーワードでつながる仲間とのネットワークにより生産物や情報を相互に交流させ、ギブアンドテークできるように願っています。どうですか、みなさんも遊び感覚で羊とつきあってみませんか?

●武藤 浩史●

 


 

羊子さんのクッキングメモ
−ラム佃煮−

 沢山の人と、一緒に食事をすると楽しいですよね。
子供の頃、食事中にペチャクチャしゃべっていると、よく怒られたものです。でも、いろんなことをおしゃべりしながら、いろんな物を食べて、少々口からポロッと食べ物がこぼれても、賑やかで笑い声のいっぱいある食事は、とても素敵です。
 逆に一人で食べる食事のそっけないこと。私の場合、そんな時は「コーヒーだけでいいや・・・」となってしまいがちです。わざわざ一人分だけ作るなんて、どうもやる気がしません。が、そんな時、常備菜を数種類、冷蔵庫にひそませておくと、便利です。
熱いご飯さえあれば、ちょこちょこっと食べられます。
そこで、ご飯に合う「ラム佃煮」を紹介します。

<作り方>

  1. ラム肉200gは、ごく薄切りにします。
  2. 鍋に、みりん大さじ3を入れ煮きり、砂糖、醤油各大さじ3を入れ、煮立ったところに土生姜の千切り少々と、肉を一枚ずつ入れます。
  3. 肉の色が変わったら、肉だけ取り出し、煮汁を煮詰めます。煮詰まったら、肉を戻し、さっと汁をからめます。(肉を柔らかく仕上げるために、一度取り出すことと、かさを出すために、1枚ずつ入れるのがポイントです。)

 

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最終更新日: 1999/11/15.
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