茶路めん羊牧場便りLAMB LETTERラムレター 第7号(96年12月・一部ばっすい)茶路めん羊牧場 武藤 浩史
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◆今物々交換が面白い________ 今週はいつも楽しみにしているKさんの自家製ゴーダーチーズが届いた。このチーズは酪農家の主婦であるKさんが、農作業と家事に追われる忙しい毎日のわずかな時間を利用して、コツコツとチーズ作りに取り組み技術を高めていった努力の逸品で、市販のチーズのそつのない淡泊な味に比べ、チーズの個性を感じさせる、おふくろの漬物のような暖か味のある味わいがある生きたチーズだ。フランスのチーズ職人が日本の市販のチーズを食して「死んだチーズ」といったそうだが、そのことに同感させられる。このチーズは日本の厳しい食品製造法の元では販売できない品だけに有難さが増す。来週は確か鶏を平飼い(鶏が土の上で飼われている)している後輩のTくんの有精卵(雄鳥が一緒に飼われ自然交配している)が届くはずだ。この卵は殻を破るときにしっかりと抵抗感があり、黄身の膨らみに張りがある健康優良鶏の産物だ。先日は地元白糠の名物で、秋のほんの一ヶ月間の収穫物であるししゃも(柳葉魚)の生干しが漁師の友人から届けられた。都会の炉端居酒屋でお目にかかれるししゃもの大半が偽物だということはご存じだろうか。本当にししゃもと呼べる魚は北海道太平洋岸の7つの河川に産卵のために帰ってくる種類だけである。カラフトから輸入される、ししゃももどきとは別種だと、私もつい最近教えられた。そして白糠はこの7河川の内の2河川が存在する。お腹がはち切れそうに膨らんだ子持ちししゃもをひとかじりすると卵がはじける感触がたまらない。漁師が自家用に作った絶妙の塩加減、干し加減のこのししゃももまた厳しい法律のもとでは非売品である。我が家では牛乳は近所の酪農家で搾りたてを空きビンにいれてもらってくる。鍋で低温殺菌して飲む成分無調整乳は季節によって味の変化が楽しめるこくのある牛乳で、二才になる息子はたまに市販の牛乳をあたえるといやがる。工場で決められた行程で処理されるのまでの牛乳は非売品である。こんな話をするとわが家はいただきもので食生活を営んでいるように思われるかもしれないが、一応お返しにその比率は妥当かどうかわからないが、自家産ラム肉を届ける。時には卵を更に牛乳に交換させるという回し技を用いることもある。こんな風に遊び心で物々交換を楽しんでいると、貨幣の意味や物の価値が何なのか考えさせられてしまう。飽食豊満の日本では世界の品物が揃い、都会では何でも買えそうだが、わが家が物々交換している物は買えない。しかしこれらの商品が法律をクリヤーして安全で高品質な特産品として市販されたとしたら、わが家の家計では手が出ない高額商品になる。そう思うとなんだかとってもリッチな気分になる。
◆◆価格破壊は誰のために________ 昔々狩猟生活をしていた頃、海辺で暮らす人々は山で暮らす人々とそれぞれの産物を直接交換して生活していた。やがて物の交換を円滑にするために物の代替品として貝殻や石でできた貨幣が用いられ、人々の交流が広がり、農耕や畜産を営み、富の蓄積が行われ、生活が豊かになり、同時に貧富の差も生まれてきた。力有る者が権力を持ち、その勢力を広げる為に侵略と交流が繰り返され、行動半径が広がり、地球が丸いことを知った。今や世界はひとつになり、日本で南国のフルーツが年中食べられるようになり、誰でもお金と暇さえあれば海外旅行もできる時代だ。豊かな生活をするためにはお金を稼ぎ、そのお金で豊かさを買う必要がある。さてその買う物の値段は誰が決めるのかといえば、売り手と買い手の評価で決まるはずであるが、実際はそうではない。流通が世の中に物をあふれさせ、いやそれは錯覚で、一部の先進国にだけ物が集中し、パソコンのキーボード一つたたけば、アラスカの鮭が数日後に店頭に並び、北海道産の鮭の値段はさんまより安くなる事態が発生する。友人の漁師は赤字がわかっていて、出漁する。牛の頭数を増やして規模拡大し、収益をあげるように尻をたたかれ酪農家が頑張ったら、牛乳が余ったので、捨てなさいといわれ、タンクの栓を抜いた。野菜農家が天の恵みで作物がよくできたと喜んでいたら、O-157の影響で生野菜はいらないといわれ、畑になったままのレタスをトラクターで敷き込んだ。数年前羊毛の国際相場が暴落した時、オーストラリアでは100万頭の羊がレタスと同じように、穴の中に埋められた。飢餓は世界で起こっているのに........ちょっと話がとりとめもなくなったが、ようするに物の価値、値段は生産者の関与するところではなくなっている。消費者も価格破壊を喜んでいる場合ではない。お友達の小さな商店や、お父さんが勤める零細企業は価格破壊競争に巻き込まれ四苦八苦しているだろうし、消費者物価が上がっていないことが、ベースアップの抑制要因になっているのだから。
◆◆◆現代的自給自足を考えよう________ 私にとってはKさんのチーズ500g、T君の卵70個はいつでもラム肉1kgだし、羊が暴落するほどの生産は不可能だし、たとえ売れ残っても自宅で食べるか、物々交換の相手を捜す程度で処理できるだろう。Kさんは数年前の米不足の年とその翌年の豊作の年の手のひらを返したような一般消費者の対応に憤慨し、「非常事態が起こって、食物がなくなって、売ってくれといってきても、絶対に売ってやらないからね!」と言っていた。長年ルーマニアの農村へ行き来し生活しているエッセイストのみやこうせいさんのお話しだとルーマニアの農村では村の中でほとんど自給自足でき、お金の使い道に困っているという。みんな親切で、みやさんが寒そうな格好をしていたら、ちょっとあんた待ってなさいといって、家の中に招き入れ、自分の家で飼っている羊からとった毛糸でセーターを編んで着せてくれたそうだ。質素だけども豊かな人間味あふれる村に安らぎをもとめて、ルーマニア通いがやみつきになったそうだ。以前みやさんのスライドとお話を聞いた時、なんだかこっちまで暖かい気持ちになったのを思い出す。
緊急ニュース 遺伝子操作作物日本上陸! この事実をいったいどれだけの消費者が認識しているのだろうか?私自身、先月友人に知らされるまでまったく知らなかった。厚生省が遺伝子操作を施されたダイズ、菜種、トウモロコシ他の作物の安全性を確認し、輸入にゴーサインを出し、先ずは米国からのダイズが入ってこようとしている。安全性が疑問視されているが、これら作物は通常の作物と区別されることなく、表示の義務も無いので、我々は知らない内にこの恐るべき遺伝子操作作物を食べることになる。欧米では表示を求める動きが活発化しており、義務化した国もあり、オーストラリアでは輸入を2年間凍結することが決定された。にもかかわらず、日本の厚生省は安全性を確認したという。これを黙認して良いのだろうか?百歩譲ってたとえ99%安全であったとしても、もし1%の危険性が発現したとしたら、これら作物の自給率が諸外国と比べて、限りなく低い日本ではもしもの事態が起こったら被る被害はあまりにも大きい。遺伝子操作作物とは通常の作物に、ある種の除草剤に耐性を持つ遺伝子や、殺虫効果を持つ遺伝子を人為的に組み込んだ結果、除草剤を散布しても枯れる事無く、害虫を寄せ付けない作物を作り上げることである。 |
最終更新日: 1999/11/15.
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