茶路めん羊牧場便り

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ラムレター 第8号(97年12月・一部ばっすい)

茶路めん羊牧場 武藤 浩史
発行 小西 徹

 

-----遺伝子操作作物の静かな上陸------


 前回のラムレターNo.7でお知らせした遺伝子操作したダイズ、ナタネ、トウモロコシが輸入され、店頭に並んだ商品が既に混入している。植物油には確実に入っているだろうから、かなりの部分の食品に含まれていると思われる。
今まで存在しなかった新たな作物を作り出す技術である。たとえば、ダイズについていえばある種の除草剤に抵抗性を持つ土壌細菌の遺伝子をダイズの遺伝子に組み込み、除草剤に抵抗性を持つダイズを作り出した。その結果除草剤を蒔いても雑草は枯れるがダイズは枯れずに生育する。しかし、今まで地球上に存在しなかった作物を大規模に栽培した場合の環境への影響や、それを毎日摂取した人間への時間を経て起こる影響については、詳しく調べられないまま企業による安全性試験の結果をもとに認可され、日本の厚生省、農水省はアメリカの提出した書類を審査しただけで輸入を許可した。直接関係はないが、種の壁を越え、本来起こりえないことが起こるという危険性については、昨年話題となった狂牛病で思い知らされた(ラムレターNo.6に掲載)。遺伝子組み替え作物の詳しい説明については参考書籍を紹介するが、ここではこの問題が我々に提起している本質について、考えてみたい。

●知る権利と選択する権利はどこに
 まず輸入解禁にいたるまでの一連の動きがあまり大きくマスコミに取り上げられず、多くの市民がよく知らないまま認可され、一部の消費者が、問題意識を持って行動したときには既に輸入は阻止できない状況にあった。そして、ある程度の事実を知った結果、遺伝子操作作物がどこにどれだけ含まれているのか知りたいと思っても、食品業界は厚生省が安全と判断したから表示の必要は無いと主張する。いったい誰のための行政なのか?何よりも、まず、その本質で間違ってる。遺伝子組み替え作物を食べたくない人が選択する自由が認められていない。実際、自給率の低い日本においては今回許可された作物を国産の原料だけで調達することは不可能に近く、安全食品の流通業界においてもお手上げの状態で、家畜の餌や肥料の原料にもなっていることを考えれば、農家の選択の権利も奪われているのである。茶路めん羊牧場ではダイズ、トウモロコシの使用は止めたが、今後更に認可品目が増加し、国内の種子にも適用されればもうお手上げである。ここでは専門家でない立場での安全性についての論議は控えるが、何も知らない一市民として、安全性についての情報が、企業や行政サイドの十分とはいえない根拠(実験)に基づく肯定論のみで飾られている事に不安を感じる。最近世の中を騒がせている動燃の問題でも明らかなように、情報公開が原則でありながら、大事なことは国民に知らされないまま密室で取り決められ、マスコミも政府の顔を伺いながら報道しているように感じる。四半世紀前に平和利用、クリーンエネルギー、石油、石炭の資源枯渇の危険を大義名分に推薦された安全なはずの原発が、莫大な浪費を伴ったとんでもなく危険な次世代への負の遺産になってしまった現状とオーバーラップする。遺伝子操作などの技術は低農薬で経費削減可能な、安全で鮮度品質の良い作物を作り、収益を増大させ、来るべき食糧危機への切り札となりうると宣伝しているが、裏をかえせば土を荒廃させ、末期的状況にあるアメリカ農業の現状(日本は確実に追随している)を新たなビジネスチャンスととらえたベンチャー企業とそれを支える政治が研究開発に巨費を投じた結果、資金回収をはかる為に強力に推進している未完成かつ危険な技術といえる。しかも、もし危険な部分が爆発すればチェルノブイリの爆発以上に広範囲な被害を生み、人類の破滅にも繋がりかねない。
☆EUは種子、飼料、農産物について遺伝子操作作物の表示義務を決めており、表示なしのまま輸入許可している日本への昨年と比較して飛躍的に作付け面積の増大したアメリカ、カナダの遺伝子組み替え農産物が集中するのは必至である。

●●バブルの崩壊と民主主義の危機
 バブルの崩壊後、ダメージを回復できない日本経済は景気の回復の為の消費の拡大を推進しているが、この事は国民生活を更に圧迫している。一部の人間の私欲の為に行われた投機とその崩壊のつけが結局国民に回された。行政改革の名のもとに行われている金融再編や地方分権、規制緩和による価格破壊を助長する流通革命も結局、バブルのつけを解消する為の手段ではないか?国民生活は増々厳しい状況にさらされているように思われてならない。私は民主主義の元での自由経済を守ることは、何より大切な事と思うが、日本の行政や企業の振る舞いを見ると、民主主義を隠れ蓑に国民をないがしろにして、一部の利益を守る拝金主義としてしか写らない。緑十字や野村証券の事件などはその一部を垣間見る思いである。この1世紀で大きく変貌した農業技術はより収益をあげ、コストを抑える効率化を求めて機械化、薬品漬け品種改良を進め、その結果、土は荒廃し、山は削り取られ、動けないケージの中で鶏たちは薬品混じりの餌をせっせと食べ卵を生み、お米はみんなコシヒカリの親戚になってしまった。
先進国で開発された技術は生活を豊かにするとして、途上国へ押し売りされ、大自然を抱えるそれらの国々は生態系を破壊してせっせと先進国へ貢いでいる。遺伝子を操作した作物が同じようにして広まることは、技術や安全性の良否以前に、誰の為に、何を目的としているのかよく考えるべきである。遺伝子操作作物の見切り発車的な許可の影に、農業の分野に鐘の鳴る木を求めて暗躍する企業や政治家の姿が見え隠れする。

●●●地球の構成員としての人間の使命とは
 21世紀を目前にして私達は次世代への負の遺産を残さぬよう地道な努力をする事が求められている。そういう意味では技術革新も来世紀を見据えた長期的視野で慎重に進められるべきである。今年話題となったクローン羊の成功にしても、「人間に用いない事を前提に役立つように推進する」との見解が述べられているが、羊飼いとしては、クローンで生まれた羊がどうなるのか心が痛む。クローンや遺伝子操作や原子力なくしては、本当に来世紀の人類の幸せな存続はないのだろうか?それらの推進そのものが、存続を脅かす原因になっているのではないだろうか?ほかに手段は無いのか?あるとすれば私達は今、地球の構成員として、自ら考え、行動しなければ危機は回避できない。来年開催の京都会議に向けて日本政府が提案したCO2の5%削減目標は現在の3倍規模の原発を設けることを前提としている。経済活動や生活レベルを現在のままに保ち削減することを目論むとこのようになるらしいが、生活レベルを10年前に戻せば簡単に達成できるという。経済活動を停滞させると、現在の裕福な生活を維持できなくなり不幸になるように脅したり、「原子力はCO2を出さない地球の未来を考えたクリーンなエネルギーです。」というラジオのCMを聞くと肌寒く感じる。そろそろ押しつけの裕福感から脱皮する努力をすべきである。
地球誕生の混沌の中から、気の遠くなるような歳月を経て生まれた単細胞の生命体から、更に延々と行われた生命活動の結果生まれた我々人間は、何を使命として生まれたのか。それは、大切な命の受け渡しである。そして農業もその使命を受けて行われている。土の中の微生物や細菌の命が植物の命の基(養分)を作り、植物の命が動物の命の基となり動物は再び土へ還る。そして親は子に命を受け渡している。それは単に親の細胞の一部を受け渡しているだけでなく、愛情を注いで育て子孫が他の生命との共存の中で、穏やかに命の受け渡しを継続できるよう今を生きる者達が英知を持って謙虚に負の遺産を残すことのないように、見守ることが使命である。しかし、最近の先端技術は人間が誕生する以前から受け継いできた命の鎖をブツブツと切り裂いているように思えてならない。DNAの暗号を解読しても、命の暗号を解読できなければ、地球の命が人間の命を地球全体の膿として排除する日は近いのかもしれない。

(武藤 浩史)


■遺伝子操作作物に関する書籍
○「見分けて選ぶ輸入食品Q&A」食品生活研究会編 (農文協)
○「複製人間クローン」熊谷善博(飛鳥新社)
○「遺伝子組み替え<食物編>」天笠啓祐(現代書館)
○「遺伝子組み替え食品」天笠啓祐(緑風出版)
○「誰にでも分かる遺伝子組み替え食品Q&A」渡辺雄二(青木書店)
○月刊誌「世界11月号 特集−私達は何を食べているか−」(岩波書店)


 

--羊子さんのクッキングメモ
〜ラムのぶどう酒煮--

★寒い冬には、煮込み料理がピッタリ。ワインとブランデーの甘酸っぱい香りが食欲をそそります。

材料(4人分):ラム骨付(ネックやスネ)800g、小玉ねぎ12個、マッシュルーム12個、ベーコン6枚、パセリ、小麦粉、塩、コショウ、サラダオイル、バター、(a)(赤ワイン1カップ、スープトニック1−2カップ、ブランデー50cc、ブーケガルニ、ドミグラスソース(粉末)大さじ1)

<作り方>

  1. ラム肉に塩、コショウをする。
  2. マッシュルームは3mmの厚さにスライスする。
  3. ベーコンは小口切りにする。
  4. フライパンにサラダオイルを熱し、1に小麦粉をまぶして表面を焼き、取り出す。
  5. 鍋にベーコンと小玉ねぎを入れて炒め、4を戻す。
  6. (a)を加えて煮込む。
  7. 仕上げに2をバターソテーにして加える。
  8. 器に盛りつけ、みじん切りにしたパセリをふる。

 

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羊仕切り

最終更新日: 1999/11/15.
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