text by Yamamoto

 
  CDを買わなくなってしまった。

 まがいなりにもDJという趣味を持ってしまうと購入の割合はCDよりレコードの方が圧倒的に多くなる。ダンス・ミュージックというジャンルはレコード至上主義で、CDは曲の尺が短いから使いづらい(レコードには大抵DJが使いやすいようにオリジナルよりもイントロやブレイクが長いヴァージョンが収録されている)、デジタルの音の質感が嫌い、値段が安い、ただ単純にビニール・ジャンキーだ……等の理由でDJには敬遠されることが多い。自分もそのひとりで、ここ数年CDを買うとしたら、MIX CDか稀にあるCDでしかリリースされないエクスクルーシブな音源だけに絞っていた。

 それでもついこの間、ちょとした衝動でPLAY TUNEでも挙げた吉澤はじめのニューアルバムをCDで購入した。ダンス・ミュージックのクリエイターのオリジナル・アルバムのCDを購入したのは本当に久しぶりだった。このアルバムの12インチのサンプラーはすでに購入済だったが、吉澤はじめは最も好きなダンス・ミュージック・クリエイターの中の一人なので、いい買い物はしたと思っていた。

 家に帰って、あのセロファンの封を開けて、CDをプレイヤーにセットし、ブックレットを手に取り、曲に合わせて歌詞カードを目で追っていくという一連の動作をこなしていると、ふと何とも言えない「間」が顔を覗かせ、懐かしいような、愛おしいような不思議な気持ちになった。「ああ、この感覚忘れていたな〜」と思った。あなただって分かるだろう。子供の頃、待ち焦がれた大好きなアーティストの最新作の発売日。少ない小遣いを握り締めてCDショップに出掛け、帰り道に待ちきれず自転車を目一杯こいで帰宅し、先に挙げた動作をこなし、ドキドキしながらスピーカーから流れてくる曲に耳を張り付かせているあの気持ちを。これはレコードでは味わえない。CDはプラスチックケースで、ブックレットがついていて豪華だ、というつまらない物欲ではなくて、上手く説明できないのが歯痒いが、そういう気持ちにさせるマジックがCDには、ある。
 レコードの魅力を語る時に、「CDは聴いてる最中に部屋の中をうろついたりするけれど、レコードはA面を聴きおえたら必ず裏返しにしなければいけないので、その為にレコードを聴く時間を用意するし、ちゃんとプレイヤーの前に座って聴くから音と真摯に向き合える」というのはよく聴くし、僕もそう思う。だからCDよりレコードの方が愛着が沸くのだと。でも実際CDを聴いてみるとそんな事はない。CDはレコードより明らかにプレイヤーが普及しているので、車の中や友達の家などありとあらゆる場所で聴くことができる。その分聴く機会も必然的に増えるので、ちゃんと愛情は沸くのだ。そして友達に購入を薦めやすいというのも大事な要素だ。

 「これからはレコードと同じ分だけCDを買うことにしよう!」、とまでは言い切れない貧乏な自分なのだが、好きなアーティストの分だけでもちゃんと購入すべきだと思う。好きなアーティストには惜しみなく金を落として「投資する」。これは誰にでも出来るアーティストへのサポートだ。もっと言えば本当にいいと思えるものだけに対価を払い、どうでもいいものには安易に払わない、という行為はある種政治的でもあるのだ。

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