text by Yamamoto

「ニューヨークやシカゴの近場でDJするときはレコードを使うんだけど、それ以外はCDでプレイするんだ。というのも、以前のツアー中に空港でレコードを盗まれたことがあってね。それ以来、レコードは持ちまわらないことにしたんだ」
ケニー・ドープ(MAW)

「パソコン1台だけでDJするのって見ていて面白くない。どうしてもDJの動きが小さくなりますからね。やっぱり今、普通の人はレコードなんて買わないだろうし、お客さんはDJに何か特別なことを求めていると思うんです。見た目のクールさも必要なんじゃないでしょうか。だから重たくても、我慢してレコードを持ち運んでいます」 ― ケン・イシイ

「レコードと違ってPCは大量の音源を簡単に持ち運ぶことが出来る。ただPCが突然故障した時のために少量のレコードも持ち歩くようにはしているけどね。日本のクラウドはまだレコードでのプレイを楽しみにしているようだったよ。」
DJスピナ

 いきなりな書き出しでスミマセン。今回は今巷を賑わせている「レコードからCDもしくはPCへと移行しつつあるDJの現在について」みたいなテーマでちょっと語ってみたいと思います。なんか僕いっつもこんなことばっかり書いてますけど…。まあこの話題は最近HOLLYWOODスタッフの間でも、ちょくちょく議論になってるんで…。

 まあ結論から言ってしまうと僕はレコード派です。レコードに惹かれる理由としては、このHPでもよく清野が口角に泡飛ばしながら熱弁していますが(笑)、「モノ」としてのフェチズムですよね。僕がDJを始めたのは今からちょうど7年前の18歳の冬だったんですが、その時は今みたいにCDもしくはPCオンリーでDJをするなんて考えられない時代だったっていうのもありましたけど、やっぱり確固たる「レコードへの憧れ」みたいなものはありました。当たり前のように「DJはレコード使ってナンボだろう」と思っていて、クラブでDJするときも重たいレコードバックをよいしょよいしょと腰言わせながら担いでいくのがカッコイイんだと(笑)。


レーベル面を見られて次の曲がバレちゃう事も…(笑)

 それからHOLLYWOODに今までゲストインしたトップDJの方達の「レコードを扱う手さばき」を見て、尚更レコードへの思いが強くなったていうのもありますよね。普通のクラブってDJブースがフロアより一段高くなっているのが一般的なんですが、HOLLYWOODのDJブースってお客さんと同じ目線の高さにあるんですよね。で、ついたてみたいなものもないからDJの手元が全部見えるんですよ(右図参照)。それはわざとそうしてるんですけど、やっぱ須永さんも大江さんも池田さんもMUROさんも沖野さんも、一流のDJっていうのはレコードを触る手つきがめちゃめちゃエロい…もといセクシーなんです!けっこうその手つきにやられる婦女子もいるくらいで(笑)。これがマウスをカチコチとクリックするだけのモーションじゃ萌えないんだな〜(笑)。特にHOLLYWOODは初めてクラブというものを体験するお客さんも毎回必ずいるから、「レコードで魅せる」って実はすごく重要なんです。

 まあその他の利点として「レコードの方がCDやPCの音楽ファイルより音質が暖かい」というのもあるんですけど(ロラン・ガルニエさんは「レコードとCDの音質の違いなんてオーディエンスには絶対分からない!」と仰ってましたが、イコライジングをしなかったらある程度はわかっちゃいますよ、ガルニエさん。)、まあレコード派を続ける理由はこんなもんです。

 でも僕、CD・PC派の言い分もすごく良く分かるんですよね。上のケニー・ドープの盗難騒ぎの話なんて本当に同情するし、「CD・PCならレコードじゃ出来ない、ループ機能みたいなトリッキーなプレイができる」とかね。あとは例えば海外にDJしに行って、そこのオーディエンスが何を求めているのか全く分からないんであれば(極端な話、自分はハウスのDJなのに、そこではドラムンベースしかウケなかった…みたいな)ものすごい量の音源を持っていかなければいけないんであって、そうなったらレコードじゃ物理上無理がある、っていうのも頷けます(つうかそもそもの段階で、プロモーターがそのDJがどういうジャンルをかけるのか把握していないっておかしくない?とお思いかもしれませんが、こういうことは往々にしてあるそうです)。

CDターンテーブルの定番『PIONNER CDJ』

DJソフトの定番『TRAKTOR DJ STUDIO』

 う〜ん…答えが見えない…。でもこのままDJがどんどんCD・PCに移行していったらレコードが無くなるのも時間の問題なんじゃないかと…。実際ニューヨークなんかではレコ屋バンバンつぶれちゃってるらしいし。それは困る!!って言うかイヤだー!!東京に遊びに行って意気揚々と宇田川町に行ったのにDMRで面出しされてるのは全部CD!とか、ディスクユニオンが全フロア『CD館』になっちゃったら…東京に行く意味がないじゃないかー!!(笑)。もう一つ例えて言うなら、僕、レコ屋のバイヤーの「海外買い付けブログ」みたいなのが大好きでよく読むんですけど(あと須永辰緒の“そのレコードオレが買う!”もね)、行く先々でDJ SHADOWの影に怯えてるとかさ(笑)、もう読んでて最高にアガるんですけど、これが「ディーラーの倉庫に眠るお宝CDの山!」とか「レアなMP3ファイルをトレード!」とかなったら…萎えるな。まあレコードがなくなったらそもそも“買いつけ”って行為もなくなりますけど…。

 まあ現在のDJ業界が重要な過渡期に入っているのは間違いないでしょう。これからどうなっていくのかは分かりませんが、ただ一つだけ言えるのは「利便性ばっかりを追求すると大切なものを失ってしまう」ということでしょうか。それは“DJ魂”みたいなものに限らず、セールス面においてもアーティストが自分の首を自分で締めることにもなりかねないんじゃいかと。このことについてエスカレーター・レコーズの仲社長が鋭いご指摘をなされていたので、引用して終わりたいと思いますが…「また引用か!」って言わないで!コレ、的を得てると思いますよ。以前僕が書いた文章と言ってること被っててちょっと嬉しかったんですけど(笑)。ちょっと長いけど、特に最近DJを始めた若い子は必ず読んで!

 「この前「CDでDJするのは僕は嫌いです」って言ったんだけど、CDでDJするのは仕方がないかなって思ってて。僕が言いたかったのは、最近ダウンロードして…まあダウンロードもお金を払ってるんなら良しとして…何て言うの?違法ダウンロードみたいなのとか、友達に借りてそのままCDRに焼いたりして金が派生しないやつ。あれってCD1枚にさMP3で100曲くらい入るわけじゃない?それを2枚くらい持ってってPCと共にDJするのよ。特に最近のベテランと、最近の若者は。多分若者はベテランを見てやり始めたんだと思うけど、そりゃあベテランは昔はレコード買ってたでしょう。まあそれをやめて「腰も痛いし、重いし、ちょっとコンピューターとか使っちゃってナウいじゃない?」っていうかさ(笑)、そういう老人感覚でやってらっしゃると思うんだけど、若者はさ、まだレコード買ってないわけですよね。買ってないうちにそれを見てカッコイイと思っちゃいますと、お金もないわけだから違法ダウンロードして同じ真似をしてしまうと。で、同じことが出来てしまうというね。そんなさぁ違法ダウンロードした音源でその時だけDJやってたヤツなんて、多分2・3年後には就職と共に音楽聴かなくなりますよ。

 あとは見た目だよねやっぱり。音楽なんて何でもある程度は見た目なんだよ。例えばヘヴィメタのギタリストなんて、テクニックだけがあればいいなら、蛭子さんみたいな人でもいいわけじゃん(笑)。何でヘヴィ・メタルっていう様式美があるかっていうと、ヘヴィメタのあの格好あってこそだろうとか。あれだから意味があるんだろうって。DJもレコードだから意味があるんだよね。いくらコンピューターが発達したからってPCでギター弾いたフリ…それもある意味難しいけど、そんなことやってヘヴィメタ・キッズが許すか?っていう話で。だからどんなにテクノロジーが進化したってギターはギターでやってるじゃない?DJもそうですよ。CDJだったらDJみたいにできるからまだいいけど…。あとはやっぱ「ブツ」だよね。探して探して買ったレコードと、適当にダウンロードして得た音源は、かける価値と意味が違うというね。それでDJは決まると僕は思うわけですよ。

 だってね、テクニックなんてある程度まではみんないくっていうか…まあ言ってみればDJ KRUSHみたいのはさ、例えば「富山のDJ KRUSH」とか「新潟のDJ KRUSH」みたいなの死ぬほどいるんですよ。DJ KRUSHは確かにすごいテクニックだけど、「DJ KRUSHくらいテクニックのあるヤツ」は絶対にいるんですよ。じゃあなんでDJ KRUSHが選ばれるのかって言ったらテクニックじゃなくて、“センス”と“スタイル”だよね。テクニック+そこなわけで。あとは運とかツキみたいなものもあるけど。だからDJをやれる人ってのはもう選ばれてるわけだからさ、そこでそういうことをしてしまうと職務を放棄してしまってるというか、全うしてなくてね、そんなんじゃ運もツキもなくなっちまうよ!っていうさ。警告ですよこれは!自分に対してもね。」

 みなさんどうお思いになったでしょうか?今後もこの論争は続いていってほしいところですね。僕もCDは仲社長と同じで正規盤を金出して買ってるならそれをかけてもいいって意見ですね。まあレコードでリリースされてるものは、なるべくレコードでかけるべきだとは思うんですけど。あ、でもこの前見た某レゲエDJが全部CDだったのには正直下がったなあ…レゲエって7インチの文化なのに。しかもろくにつなぎもせずに、曲の最後になったらCDJのジョグダイヤルでキュルキュキュル〜って逆回転させて(しかもその逆回転の音がCDJのデジタルで作り出した人工音だから、すごく違和感があった)次の曲ポンみたいな。あれはイカンですねさすがに…。

 ダウンロードはと言うと、実は頻繁に使ってます(もちろん有償のですよ)。iTMSなんかは海外のインディレーベルのこんな曲まで?っていうブツまであるから実に便利ですよねぇ。でもこれはあくまで試聴用というか。CDに焼く事もありますけど、現場では使わず、PCのスピーカーじゃなくてDJ機材を通すとどういう鳴り方をするかとか、この曲と相性はいいか、みたいな確認用ですよね。それで使えるなってなったらレコードで買い直すという。この男気はぜひとも評価して頂きたいんですけど(笑)。


iTunes Music Store

 まあ結局思うのは、「正当な理由があってCDなりPCなりを導入するのはいいけど、“重いから”とか“お金がないから”とかいう横着な理由による導入は許さん!」といったところでしょうか…。DJやってるみなさんもこの機会にぜひぜひじっくり考えてみてください。

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