text by Yamamoto

 今月のコラムでは須永辰緒さん別海来訪直前!ということで今空前の盛り上がりを見せる日本の新世代クラブ・ジャズ・バンドについて取り上げてみたいと思います。

 そもそも「ジャズで踊る」というシーンが誕生したのが、80年代後半のロンドンで、それは「レア・グルーヴ〜アシッド・ジャズ・ムーヴメント」と呼ばれました。90年代前半には日本にもその波が押し寄せ、U.F.Oやモンド・グロッソ等のバンドを代表とする、新感覚のジャズ・サウンドが次々に生まれました。

 そのムーブメントも一旦終息しましたが、あれから10数年、世界で再びクラブ・ジャズのシーンが盛り返してきています。興味深いのが、ニコラ・コンテやザ・ファイヴ・コーナーズ・クインテット、イタリアの<SCHEMA>レーベル等の「ヨーロピアン・ジャズ・ムーヴメント」に代表される現在のシーンの方が、当時のアシッド・ジャズより、生音を主体としたリアル・ジャズへより近づいてきているという事。

 「生音が主体」とは言え、もちろんサウンドの方はオーセンティックなジャズとは一線を画しています。オーセンティックなジャズの場合、インタープレイ(メンバー各人が他のメンバーの発する音を聴き、お互いに影響し合いながら演奏していくこと)によって、いかに自分の魂を込めた演奏を聴かせられるかが重視され、そのため曲の尺も長くなりますが、こういうジャズのほとんどはフロアでは通用しません。曲の良し悪しではなく、フロアでは「踊れること」が最優先されるからです。

 これに比べ、ニコラ・コンテやザ・ファイヴ・コーナーズ・クインテット、イタリアの<SCHEMA>レーベルのようなヨーロピアン・ジャズは、「演奏しすぎないカッコ良さ」とでもいいましょうか。インタープレイを重視するのではなく、曲のテーマ(メインとなるフレーズ)をループさせる事に重きが置かれています。クラブ・ミュージックはループを基本とする音楽なので、テーマをループさせるということは=ダンサブルになるということなのです。

 こういったヨーロピアン・ジャズ・ムーブメントに呼応するようなタイプのバンドが、日本国内でも同時進行で続々登場してきています。メジャーからリリースしているバンド以外にも、インディー、もしくは音源はなくてもクラブ・イベント等でのライブをこなしているバンドは相当な数に上ります。

 クラブ・ミュージックを通過したジャズと言うと、モノホンのジャズに比べて演奏力や楽曲性が乏しいイメージがあり、どうしても甘く見られがちですが、彼らはきちんとしたジャズ理論を身に付けているので(音大出身者も多い)、テクニックも相当に持っているし、曲を書いたりアレンジする能力も持っている人が多いので、音楽的完成度は極めて高いと言えるでしょう。加えて、彼らの楽曲は非常にメロディーが豊かで、時には通常のジャズ理論では考えられないメロディーの挿入やコード進行も行われます。ヨーロピアン・ジャズも十分メロディアスですが、彼らには日本特有の美しく、繊細な音階が現れているような気がするのです。

 前置きが長くなりましたが、今回はそういったバンドの中でも特に評価が高く、須永さんも猛烈にフック・アップする代表的な4つのバンドを紹介します。10月27日のパーティー本番に向けての予習という意味も込めて、是非是非チェックしてみて下さい。間違いなく何曲かはプレイされるはずです。


 スリープ・ウォーカー


右から


・中村雅人(Sax)
・藤井伸昭(Drums)
・池田潔(Bass)
・吉澤はじめ(Piano)

 このシーンの先駆者であり、最高峰でもあるバンドがSleep Walker。国内外でも不動の地位を築いている。ジャズとクラブ・ミュージックの融合云々…というフレーズが叫ばれるようになったのはSleep Walker以降と言ってもいい。

  上の解説とはいきなり逆の事を言ってしまうが、彼らの音楽的ベースはヨーロピアン・ジャズではなく、本場アメリカの王道スピリチュアル・ジャズ。インタープレイもたっぷりあって、曲の尺も長め。決してDJフレンドリーというわけでもない。にも関わらずフロアでは圧倒的な支持を得ているのがすごい。普通に考えたらこれは「ありえない」ことだが、これは彼らの楽曲と、沖野修也のDJ的視点によるプロデュースが奇跡的なバランスで調和している事に他ならない。

 沖野氏曰く「Sleep Walker以外にもいいバンドたくさんおるし、Sleep Walkerだけが素晴らしいわけじゃないけど、あんなにも感動できて、尚且つあんなにも踊れるバンドは他にはいない」。観る者を感動と狂乱のるつぼへと誘う圧倒的なライブは死ぬ前に一度は体感すべき。

オススメの一枚
"WORKS"



SLEEP WALKERは『愛の河』、『愛の海』、『The Voyage』の3部作が文句なしの傑作だが、ここに紹介するのは最新作の『WORKS』(文字通りの作品集)。アーチー・シェップのカヴァーで、新曲の『QUIET DOWN』が白眉。



Sleep Walker / The Voyage 【LIVE】

オフィシャル・サイト http://www.extra-freedom.co.jp/artists/sleep_walker/


 クォシモード


右から


・平戸祐介(Pf,Key)
・須長和広(Bass)
・松岡"Matzz"高廣(Perc)
・奥津岳(Drums)

 今一番の急成長株で話題沸騰中なバンドがこのquasimode。デビューはなんとスウェーデンの名門クラブ・ジャズ・レーベル、「Raw Fusion」からの12インチ『Down In The Village』(タビー・ヘイズのカヴァー)。デビューからすでに海外と同時進行で脚光を浴びる事となる。

 音楽的にはラテン・ジャズ度の高いハードバップといった趣であるが、彼らはバンド形態が面白い。通常4人のジャズバンドであればピアノ、ベース、ドラムの「ピアノ・トリオ」編成に、プラス管楽器が加わるといった形が一般的だが、彼らの場合はそうではなく、代わりにパーカッションがいるのが大きな特色。パーカッションがメインに加わると、サウンドがより一層リズミカルになり、フロアで威力を発揮しやすくなる。また、管楽器を敢えてメインにしないということは、逆に捉えると、「管に縛られない」という事でもあり、それは楽曲構成の自由度の高さにも繋がる。

 1stアルバム以降、他アーティストへのリミックス提供等を経て、バンドの演奏力や表現力も急激に成長してきている感があり、楽曲の幅も広がってきている。近日発売の2ndアルバムで爆発的ブレイクを見せるのは間違いなし。

オススメの一枚
"THE LAND OF FREEDOM"



今月5日発売の2nd。iTMSで先行配信された『The Man From Nagpur』が出色の出来。前作にはなかったヴォーカル曲や、ディープでスピリチュアルなチューンにもにも挑戦。メンバーのルックスの良さから女性からも人気が出そう。

quasimode / The Man From Nagpur 【PV】

オフィシャルサイト http://quasimode.ddo.jp/


 ソイル & ピンプ・セッションズ


右から


・元晴(Sax)
・みどりん(Drums)
・丈青(Pf)
・社長(アジテーター)
・秋田ゴールドマン(Bass)
・タブゾンビ(Tp)

 やっぱり外せないのがSoil & "Pimp" Sessions。ご存知の通り、今回紹介する4バンドの中では知名度・セールスともにナンバー1。彼らのサクセスの理由としては、ジャズ・ファン以外、特にロック・リスナーからの爆発的支持が挙げられる。「爆音ジャズ」や「DEATH JAZZ」という名称からも分かるように、音楽的にもロックのテイストがふんだんに取り込まれている。加えて唯一無二の圧倒的な個性、パフォーマンスがロック・リスナーを虜にしたのではないだろうか。かといって彼らの音楽が「紛い物のジャズっぽいロック」というわけでは決してなく、ジャズ・マナーに則った高い楽曲性があることを見逃してはいけない。

 また英の大物ジャズDJ、ジャイルス・ピーターソンの大々的なフックアップで、世界各国で話題となり、2005年には英BBC RADIO1の “WORLDWIDE AWARDS"で「Jon Peel Play More Jazz Award」を受賞。またアワードのトラック・オブ・ジ・イヤー、セッション・オブ・ジ・イヤーの2部門にも3位にノミネートされる快挙を遂げる。

オススメの一枚
"PIMP MASTER"



1stフル・アルバム。国内外のDJがこぞってPLAYし、ソイルの名を世界中に知らしめた『WALTZ FOR GODDESS』収録。ジャイルスが立ち上げたレーベル「Brownswood Records」からもライセンスリリースされた。


Soil & "Pimp" Sessions Live In London for Gilles Peterson at the BBC

オフィシャルサイト http://www.jvcmusic.co.jp/soilpimp/


 ジャバーループ


右から


・後藤大輔(Sax)
・DJ Shinsuke(DJ)
・長友誠(下)(Tp)
・斉藤陽平(上)(Drums)
・永田雄樹(Bass)
・Melten(Piano)

 先頃、メジャーデビューを果たし、須永氏のイベント「夜ジャズ」出演等、数々のクラブイベントの出演を経て、上記3バンドに続く「次世代クラブ・ジャズ・バンド」の筆頭として話題騒然なのがJabberloop。上記3バンドと比べて、オール生演奏ということに変わりはないが、ビートが四つ打ちであったり、ブロークン・ビーツであったりと(Galaxy 2 Galaxyの『Hi-Tech Jazz』っぽい曲もある)リズムがバラエティに富んでおり、最もDJ的であると言える。この「生音と打ち込みのギリギリの境界線」なサウンドはデンマークのジャズ・ユニットのPOVO(ポヴォ)に近い(実際POVOの『The Art Of Blakey』をカヴァーしている)。基本ハードバップサウンドだが、彼らは結成当初にジャズ・ファンクやジャジー・ヒップホップ的な音楽をやっていたためか、そこにフュージョンのテイストも盛り込まれ、ミクスチャー度が極めて高い。またこういったバンドにしては珍しくDJも在籍している。このようなオリジナリティが今後どう実を結んでいくかが実に楽しみなバンドである。

オススメの一枚
"AND INFINITE JAZZ..."



7月にリリースされたデビューアルバム。全曲フロア直結で、実にキャッチー。オススメはUKの「MUKATSUKU RECORDS」から先行シングルカットされた躍動感溢れるハードバップ『UGETSU』。

オフィシャルサイト http://www.jabberloop.com/


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