COLUMN > 2008.12








こんにちは。スタッフ山本です。今回は「写真」をテーマに書いてみようと思います。写真と言えば、最近知り合いから「デジカメ買いたいんだけど、どんなのがいいの?」なんて聞かれることが多いもんで、「デジカメ入門」みたいな感じでいこうと思ったのですが、そういった類のものはちょっと探せば溢れんばかりの情報があるので、やめときます。

先日、友人宅で鍋パーティーをした時のこと。お腹もいっぱいになり、酒もたらふく飲んで、気が付けば朝方。友達はとうに雑魚寝済みで、起きているのは僕だけ、という状態。テレビでは早朝によくやってるミニドキュメンタリーみたいなものが流れていました(青汁のアレじゃないですよ、笑)。空ろな目でぼんやりと眺めていたのですが、それがなかなかに興味をそそられる内容で、気が付けば見入ってしまってました。

それは1958年の広島が舞台。終戦から13年後なので、まだ戦後復興真っ只中です。そんなさなか、日仏合作である映画のロケが行われていました。映画のタイトルは忘れてしまいましたが、確か、「反戦」+「日本人男性とフランス人女性の恋愛」の二つがテーマになっている作品だったと思います。これに主演していたフランス人女優さんは撮影の合間を縫って、未だ戦争の爪あとが消えない広島の町並みや、そこに生きる子供達をカメラで撮影していました。これらの写真や、使ったカメラなんかはその女優さんの自宅に長い間ひっそりと保管されていたのですが、今年が撮影から50年という節目に当たることもあり、その全てを日本に初公開したら、それは当時の広島を映す克明な記録物として、大変貴重な資料だということが判明したそうなのです。そして現在その写真展が広島で開催されているとのこと。

まあこういう話し自体は取り立てて珍しくもないのですが、ここで僕はふと、「それらの写真は何を持って貴重なのか?」と考えてしまいました。

みなさんは自宅の戸棚の奥にひっそりとしまわれている古いアルバムを、家族でワイワイ言いながら眺めたことってありませんか?両親なんてまだ今の自分と同じくらいの若さで、「わ〜お父さんこのロン毛何?ダッサ〜!」なんて冷やかしたりして。ペイズリー柄のシャツにパンタロンでバッチリ決めているオヤジのいたいけな姿を見るのもそれはそれで楽しいのですが、僕はそういう時、オヤジの背後に写り込んでいる古い自家用車や、チャンネルがダイヤル式の古いテレビ、今より一代前の、自分が住んだことのない住宅やら…の方に強く興味を惹かれてしまうのです。

僕は昔から地元の郷土史なんかに載っている、ウン十年前の町並みの写真を眺めるのがすごく好きで。舗装されていないむき出しの道路や、今は空き地になっている場所に建っている知らない商店…などなど、自分が知らないこの地域の過去の姿を発見すると、何ともいえない興奮を覚えてしまうのです。「昔、あんたのとこの家ではニワトリやら豚やら色んな動物を飼っていたんだよ」とか「別海の少年会館は昔ボーリング場だったんだよ」なんていうお年寄りの昔話を聞くのも嫌いじゃなかったりします。

カメラ自体が高級品で珍しかった昔と違って、今や携帯のカメラで誰でも気軽にパシャパシャやれる時代です。写メなりプリクラなり、暇さえあればパシャパシャやってる女子高生ほどじゃなくとも、普通に暮らしている人であれば、結婚式、会社の宴会、旅行先でのスナップ…たくさんのシチュエーションで自分が写っている写真は知らないうちに増えていってるものです。

それに比べて、自分が住んでいる部屋、乗っている車、周囲の町並み…なんかはどうでしょう?それらはそこに存在していることが当たり前すぎて、写真にわざわざ収めようっていう発想すら沸かないと思うんです。でも30年後を考えた時、それらが形を変えたり、あるいはもう存在すらしていなかったら…?

そう考えると、写真って人間以外の「建物」や「町並み」を写しておくことのほうが重要なんじゃないか、と思うのです。

だから今、アナタが都会のアパートに住むサラリーマン(もしくはOL)だとしたら、転勤や結婚でいずれ引っ越すであろう前に、そういうものを全て写真に残しておいてほしいと思います。例えば休日の朝。起きたら、まず自分の部屋を撮る。出来れば本棚やテレビ、カレンダーが掛かった壁、キッチン、トイレなんかも細かく入念に。次に家を出てアパートの外観を一枚。そして毎日通勤する道のりをいつも通り歩いてみて、途中にある角のタバコ屋さん、いつもガラガラなパチンコ屋さん、毎朝立ち寄る駅前のコンビニ、自分が乗っている電車、会社が入っているビル、昼休みによく利用する定食屋さん…を順々に一枚ずつ。よくある「何気ない日常」風にアートっぽく撮る必要はまったくなし、色気を出してLOMOなんかで撮っちゃダメ。ミスショットに思えるくらい、あくまで「記録」として撮る。

自分の写真なんて、自分でわざわざ撮らなくても誰かしらが撮ってくれているもの。それよりも「自分が生活している場所」の写真は自ら意識的に撮らなければ、絶対に残りません。近所のタバコ屋なんてものは、そりゃあ記憶の中から消えてしまっても大した問題ではないかもしれません。でもそれが写真として残されていて、30年後にそれを眺めた時に、当時の空気や息づかいを思い出せれば、それは幸せなことではないでしょうか。人間よりも「背景」の方が貴重だなんて、皮肉なようですが、それがまた写真の業の深さだとも思います。

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