COLUMN > 2009.5






久々に本の紹介を。

 

スチャダラパーの8年ぶりの新刊『ヤングトラウマ』を読みました。最高です。『ヤングトラウマ』ってのは彼らが考えた造語で、意味は「多感な時期の僕たちが負ってしまった心の傷。いい意味で」ってことだそうです。そんな通称"ヤントラ"という病を引き起こしたのは、彼らが若く青臭い10代に洗礼を受けた漫画、お笑い、テレビ、歌謡曲、雑誌……などなど。それらを三人が鼎談スタイルで熱く、ディープに語りつくすのが本書のスタイル。

 

ラインナップに挙げられたのは、ドリフ、ドカベン、藤子不二雄、ベストテン、ファミコン、たけし、薬師丸ひろ子、宝島、有頂天、ガロ、みうらじゅん、根本敬、ビースティ・ボーイズ、宮沢章夫…。70年代中盤〜80年代のものです。

 

スチャと自分は世代が一回りくらい違うから見てきたものがかぶらないのは当たり前で、例えば僕の中のドリフは『ドリフ大爆笑』の雷様コント以降の存在で、『全員集合』は知らない。『宝島』は中途半端なエロ本になってからしか知らない。たけしは『元気が出るテレビ』以降。全部微妙に間に合ってないんですよ。ゆえに三人が何を喋ってるんだかさっぱりわからないし、リアリティを持てないんです。

 

これがね、すご〜〜〜く悔しい。三人がキャッキャ言いながら楽しそうに盛り上がってるもんだからなおさら感じる疎外感。HOLLYWOODの御先輩方が「渋谷系」とか「マンチェスター・ムーブメント」とか「ブリット・ポップ」とか「アシッド・ジャズ」なんかの話をしてる時もまさしくこんな感じ。自分もそこに属していたいのに蚊帳の外にならざるをえない状況。悔しいし、羨ましいしっていうコンプレックスの塊と化すわけです。

 

でもそれは決して苦痛なわけじゃなく、むしろ楽しくて心地よい感覚。何喋ってるかわからないけどページを捲るスピードがどんどん速くなっていくんです。書評家的に言えば「グイグイ読ませる」ってやつです。

 

上に挙げたラインナップの中にはこれぞ王道といったものもあれば、そこからはずれるマイナーなもの、所謂「サブカル」的なものも多く含まれています。本人達も言っていましたが、やっぱり10代も終わりに差し掛かってくると男の子はえてして「マイナーなものがかっこいい」という病に毒されるものなんですよ。俺は周りのヤツらとはセンスが違うんだ!ってのを主張したくなるんです。

 

男子諸君、経験ありませんか?好きな女の子との映画に行くなら黙って『タイタニック』観とけばいいものの、エラそうに講釈たれてゴダールなんか観ちゃってさ。でもさっぱりわけ分からん…彼女もだんまり、みたいなの。

 

自分が周りよりも優位に立ってるなんていう勘違いはウザがられて当然っちゃあ当然。自分ではイケてるはずだったのに、周りからは逆に失笑を買い、奇異な目で見られ、「アイツはわけのわからないものにかぶれてる変なヤツ」という烙印を押され、そして結局はそんな自分がかぶれにかぶれまくった「マイナーなもの」の魅力も理解されずに終わっていくっていう。クラスに一人はそんなヤツいたでしょう?ああ、俺だ。

 

当時はそれが錯覚だとも知らずに突っ走るんだけど、歳を重ねて振り返ってみたら、やっぱりとんでもなく恥ずかしくて情けなかった自分に愕然とするんですよね。それはそれは滑稽なんです。でも、これはしょうがない。その時期に発症しやすい病気なんだから。

 

でもね、思うんですよ。「今自分が置かれている環境に安住せず、疑問を抱きながら、みんなが知らない外の世界に憧れ、かぶれていく」っていう情熱。これは尊いものなんじゃないかと。

 

若くて青臭いころはその情熱をうまく対象化する術を知らないから、周りに認めてもらうことができなくて軋轢が生じちゃったりするんだけど、「ここではないどこか」っていう情熱はすごく大事だと思うんです。前にスタッフの戸野君がこのサイトのPLAY TUNEのテキストで「自分が好きなものをちゃんと好きって言えることにすごく時間がかかった」って言ってましたが、あれ、かなり感動的な言葉ですよ。

 

で、この本はそんな感覚を捨てきれないまま、それがさらに捩れて捩れて大人になっちゃった人たちの話なんです。だからこそ一つ一つがよくわからなくても、総じてむちゃくちゃ共感できる。

 

30過ぎると「モテ」が関係なくなってくるから。10代、20代はモテたい一心でしょ。そうするとトラウマはカッコ悪いと葬っちゃう時期があるんだよね。でも、それを乗り越えて30を過ぎると「それ込みでわかってくれ」と言えるようになる。だから、この本を読んでる若者諸君、今思ってるトラウマは決して悪いものではないから。やがてぶり返したりするかもしれないけど、嫌わないでね、と言いたいですよ。 by ボーズ

 

もうね、「ジーン…」ですよ。勇気が出るし、救われるなあ。

 

……長くなっちゃってごめんなさい。でももうちょっと書かせて!


本書には「70年代中盤から80年代のサブカルチャーを総括する」というもう一つの側面もあると思います。3人の個々の歴史がそのまま日本のサブカルチャーの歴史をなぞらえているんですよね。それがゆえの批評性もあると。

 

さっきも言ったように僕は70年代中盤から80年代のサブカルチャーを実体験していないから勝手なこと言えないんですけど、この頃のサブカルチャーって本当に元気があるんだ。サブカルチャーが「サブ」に留まらずに「メインカルチャー」にもぐいぐい入り込んでいってるように見えるんですよ。すごく大きな影響力を持っていたんだなあって。

 

でも2009年の今はどうなんだっていうと、正直ちょっと元気がないんですよね。スタッフ半田さんには「今の時代にサブカルでいくって、生きづらいぜ〜」なんて言われましたが(笑)、本当、そうで。

 

僕なりのサブカルって「好奇心が旺盛で、全方位的に興味が向いていって、なおかつそれが無限に広がっていく」っていう視点のことだったりします。で、その興味の矛先が極めて特種なものだったりするからこそ、カウンターカルチャーにもなりえると。

 

またまた引用すると

 

(みうらじゅんさんが考えた)「マイブーム」って「今ハマっていること」みたいにみんな理解してるけど、そうじゃない。「誰も気づいていないものに着目し、それを積極的に推すこと」なんだよね。  by ボーズ

 

っていう発言が顕著かな。

 

でも今って嗜好のジャンルが細分化されすぎて、そういうものが全て「〜〜ヲタ」っていう一言で片付けられちゃう気がしてて。もしくはアメトークの「〜〜芸人」的な。

 

まあそういう世の風潮もあるとは思うんですけど、一番悲しいのは本書でも触れられている「若手の牽引者の不在」なんじゃないかと。冒頭の疎外感ってここに起因してるところが大きいと思う。自分達の世代から生まれたものがないからなんじゃないかと。

 

サブカルにはその時代その時代にものすごいカリスマ性を持った牽引者がいて、それこそ植草甚一さん、横尾忠則さん、根本敬さん、タモさん、近田春夫さん、湯村輝彦さん、糸井重里さん、いとうせいこうさん、みうらじゅんさん、リリー・フランキーさん、松尾スズキさん、吉田豪さん、ミズモトアキラさん、宇多丸さん……まだまだたっくさんいらっしゃいますが、その方たちの意思を受け継ぐ下の世代が出てきていないんですよね。スチャが「サブカル最後の世代」って言われてるんですが、そんなスチャももうアラフォーっていう…。

 



"レジェンド"のみなさん。 こう見ると肩書きが多すぎて本業がよく分からない人たちばかり(笑)。それこそ「興味の無限の広がり」ってことなんです。

 

確かに、僕がサブカル話をする相手って完全先輩方たちです。同級生もギリでアウト。後輩に至ってはサブカルってなんですか?っていう次元。

 

自分も含めた20代くらいの若い世代って、物事に興味がない人が多い気がします。っていう苦言。いやちょっと違うかな。自分の好きなことにはものすごく深い造詣があるんだけど、それが一転集中型で全く横に広がっていかないというか…。それは「特化」ってのともまた違うわけで。特化ってのは数あるものの中からある特定のものをチョイスして掘り下げるって行為ですから。「それしかない」ってのと特化ってのははっきり違う。当たり前ですけど。う〜ん、何だか上手く言えないなあ。

 

例えば…本当の「音楽好き」って映画とか小説とかアートとか、音楽以外にもカッコいいものがたくさんあるってことを知っている人だと思うんです。逆に言うとただ音楽しか聞いてない人っていうのは「音楽好き」じゃなくてただの「音楽オタク」に過ぎないと思うんですよね。

 

僕が昔から憧れていた先輩やら有名人ってこういう「音楽好き」な人たちばっかりでした。知的で、引き出しが多くて、話が面白くて、遊び上手で、パンキッシュで、人望が厚くて、時にシニカルで、優しい人たち。

 

今の世の中にサブカル的なものは前時代的なもので、その魅力も有効性も完全に失われてしまったんでしょうか。サブカル・イズ・デッド?それって言ったもん勝ちなとこありますよね。

 

メインで王道なものももちろん好きですよ。でもね、サブカルとかカウンター的な視点が途絶えてしまったら、世の中お金になるものしか出てこなくなっちゃうよ。そうやって無意識に飼いならされ、抑圧され、搾取されていくなんて考えただけでゾッとする。それこそ本当に「生きづらい」し、空っぽなんですよ。

 

何か、そういうことを僕ら若い世代がちゃんと考えていかなきゃいけないんだって思います。

 

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