COLUMN > 2009.7






他人の買い物に付き合うのが好きだ。貧乏人の。「こっちの棚からあっちの棚まで全部ちょうだい」なんていうお金持ちの買い物を見るのもそれはそれで興味深いが、自分の場合そういう人を見ると不安な気分になったり、引いてしまう。それよりも一万円札が財布に入っているだけでソワソワしている人のほうが断然オモシロイ。

最近は節約ブームだから、みんなの財布の紐はガチガチで、とにかく何でも切り詰めて生活している。欲しいものは基本我慢して、食事も節約レシピに載ってる「一食100円以下」の料理で何とかごまかしながらやっている。そういう堅実な人はお金が貯まる。貧乏人はその逆だ。計画性というものが欠如している。手元にお金があればすぐにご馳走を食べてしまうから、次の日にはうまい棒をしゃぶるハメになる。

そういう意味で、僕の友人のTという男は典型的な貧乏人だ。会うと二言三言目には「金ね〜んだよなぁ〜」とほざいている。

Tはそれなりに立派な職業に就いてているから給料もそれなりにもらっている。2LDKのアパートに住んでいるし、家具や家電もいいものを揃えている。一見とても貧乏人には見えないのだが、そういう裕福「げ」な暮らしをしているからこそ貧乏なのだ。

貧乏人には物欲が強い人が多いが、Tはその物欲が無駄に強いものだから、「どうせならいいものを…」といった感じで15万円の薄型ストーブなんかを買ってしまう。アホとしか言いようがない。この間入ったばかりの夏のボーナスの使い道を聞いたら

「自動車税とか諸々の経費に使ったけど、10万円分は貯金したぞ!」

と豪語したが、話を聞いていくうちにそれは全くの逆で、貯金はおろか、10万円の借金の返済に使ったということがバレた。何だその見栄は!!

そういうTと一緒に行く買い物は僕の気分を大きく高めてくれる。二人とも家電好きなので、大抵は家電量販店に行くのだが、ここで僕は店員よりタチの悪い勧誘をTにけしかける。

「Tさ、この前ウイルスソフトの期限切れてたって言ってたけど、今買っちゃえば?」
「コーヒーメーカー欲しいって言ってたよね?良さげなのたくさんあるよ」
「ほらほら、お風呂で観れるテレビこっちにあったよ」
「携帯もそろそろ機種交換したいって言ってたよね?」

完全にうっとうしいおばさんである。Tは僕の提案に何がしかの言い訳をつけてくるが、とことん逡巡した挙句、結局はそのうちの何か一つを買ってくれる。

Tがプレイステーション3(本体)を買ったときは、ここ数年の中でも「ベスト買い物ウォッチング」だった。最初はゲーセンの高額クレーンゲームの中にあったPS3を狙ったTだったが、結局3000円ほどつぎ込んでイカサマだと気づいたTは

「ちきしょう!こうなったら何が何でも今日中に手に入れてやる!」

と激昂し、その足でヤマダ電機に行き、クレジットカード3回払いで本体とバイオハザード5を買ってしまった。ヤケクソというやつである。ヤケクソこそ買い物ウォッチングの醍醐味だ。計画性のある人は「え〜い買っちゃえ〜」なんてやらない。

その後、小汚いラーメン屋に入り、700円のみそラーメン(会計はもちろん僕持ち)をすすりながらTは

「ああ…今月あと3000円で生きていかなきゃいけないよ〜」

と言った。不安感と充足感がないまぜになったTの横顔を見ていると、何だかとても愛おしい気持ちになった。コイツを今晩抱いてやりたいと思った。

誘惑に負けていく人の姿は美しい。誘惑には負けたとはいえ、自宅のアパートに着くなり、高まる気分を抑えきれずに階段を1段飛ばしで駆け上がっていくTは完全に勝者の後ろ姿だった。

いつもそうやってゼエゼエ言ってるTを無計画だとかだらしないとか罵るのは簡単だ。でも不思議なことにTの面構えにみじめさは全くなく、いつも活き活きとしている。それはなぜかというとTは精神的に裕福だからではないかと思う。お金が入ったらすぐに使い切ってしまうが、それで気持ちが満たされるから裕福な表情をしている。15万円のストーブだって分不相応には思えなくなってくる。15万円分の精神的な余裕を買っていると思えば全然高い買い物ではないのだ。いや、やっぱりストーブに15万円はアホかもしれない。


勝者の笑顔。余談ですが、Tは貧乏人くせにお店のポイントカードをこつこつ貯めるのが大好きです。でも結局はそれを財布ごとどっかに落っことしてきます。

むしろ欲しいものを何でも我慢して地道に貯金している人のほうが、いつもしょっぱい思いをしているから、所持金は多くても精神的には貧乏だといえるのではないだろうか。例え将来貯金残高が8桁になろうともその将来が明るいかと言えば怪しいものだ。そういう人は何より表情が下品になっていくし、一緒にいると気分が暗くなる。「世の中金じゃないんだよ」といっているヤツに限って誰よりも金にとらわれていたりする。

貧乏人の周りには貧乏人しか集まってこない。なぜならその人たちが禁欲的な人間を信用していないからだ。日本では一般的に、人間は禁欲的で慎ましく生きていくことが美徳であって、最終的には無欲の境地に行き着くことが崇高だとされているが、そういうことは金と時間と暇をもてあましている人たちに言ってくれ。貧乏人が求めることをやめたらのたれ死ぬだけである。

 

P.S. Tの威信にかけて言っておくと、Tは友人・知人・貸金から金を借りたりして人様に迷惑をかけることは一切ないので、周りの人たちはどうぞご安心して連帯保証人になってあげてください。

 

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