「はぁ・・・お母さん。こんなに荷物送ってきてどうするのですか・・・」

私は大量の荷物の前にがっくりとうなだれしまいました

女子寮の前まで、業者さんが荷物を送ってくれたから良いものの
まだ、自分の部屋がどこなのかも分かりません

とりあえず、寮にはそれを統率する寮長がいるはずです
その人に会って、自分の部屋と誰かにこの荷物の運ぶのを手伝ってもらいましょう

「でも・・・楽しみです」

私は、くるっと振り返り、自分がこれから通う学園を見つめました

リトルバスターズ
Another miracle

転校生

時間は遡って一ヶ月前

「かえで、学校に行きたくない?」

本当に唐突でした

いつもは家にいないお母さんが珍しく帰ってきたと思ったら
そんなことを言いました

私は生まれてこの方学校と言ったところに行ったことがありません

理由は、私が普通の人間ではないから

私はホムンクルス
作られた人間

錬金術という技術で生まれた人工生命体
それが私

けれども、無から生み出された訳ではなく

私は、お母さん・・・雪村瑞穂という女性の卵子をベースに作られました
だから、私はあの人のことをお母さんと呼んでいます

ホムンクルスはベースとなった素体の記憶の一部を持つことが出来ます
そのおかげで私は学校という情報を持ち合わせています

そして、もう一つのホムンクルスの特徴は、成体になるまでの期間が短いと言うこと
私も、この体になるまでに一週間とかかっていないことです

そのような理由で学校に通う必要がありませんでした
これが正確な答え

その私に、お母さんは学校に行かないかと言いました

かえで「お母さん、随分突然ですが、どうしてですか?」

瑞穂「うん、かえでは知識としていろいろなことを持っているだろうけども、やっぱり実際に経験した方が良いこともあるのよ。特に集団生活なんかは経験しておいて損はないわ。それに・・・」

かえで「それに?」

瑞穂「友達、作りなさい」

お母さんが、にっこりと笑ってそう言いました

お母さんの真意はよく分からなかったけど、私は、行ってみたいと思いました
それにいつもお母さんは言っていました
『なるべく多くのものを見なさい。自分の五感を総動員してあらゆるものを吸収しなさい。それが例え、すでに知っていることであってもね』
私もいつの間にかお母さんの言うとおり、知ってることであっても見て聞いて触って感じて確かめるようになりました

かえで「分かりました。お母さん、私、学校行ってみます」


私の答えを聞いて、お母さんは安心したように胸をなで下ろしていました









時間はもどって女子寮前

人工的に作られた生命体である故に私には戸籍というものがあやふやなのです
でも、お母さんが一体何をどうしたのかは分からないけど
編入する際に必要な書類一式はそろえてくれていました

そんなわけで無事にお母さんが紹介してくれた学園に編入という形で行くことが出来ました

かえで「さてと・・・」

本気で誰かに助けを乞わなければならない状況の様です

かえで「と、とりあえず、寮長さんに会わないと、ですね」

寮の中に入り、たまたまいた人に挨拶がてら軽く自己紹介をし、その後寮長さんの事を聞きました
初対面にもかかわらず、快く、私の質問に答えてくれました

「よかったら、連れて行ってあげようか?」
かえで「よろしいのですか?」
「はい〜、わたしも丁度寮長さんのところにいくところでしたから〜」

あたまの両端に二つリボンで髪を留めている可愛い女の子が私を寮長さんのお部屋まで案内してくれました

途中、その子の名前を聞くことが出来ました

神北小毬(かみきたこまり)

それがその子の名前

初対面の私にいろいろと学園のこと、寮のことを教えてくれました
私と話している間、ずっと笑顔で、私まで笑顔になってしまいました

小毬「んああ、ここだここだ」

コンコンと、ノックをして

小毬「失礼しまーす。寮長さん・・・あのですね・・・」

小毬さんが寮長さんに用件を話し始めました
私は、小毬さんの話が終わるまで待ちます

「うん、了解しました。あとで委員会に議題として上げておきますね」

小毬「はい、お願いします〜」

「それで、小毬さん、そちらの方は?」

小毬「ふぇ?」

くるっと、私の方を振り向いた後

小毬「ふああぁぁぁぁ!」

思い切り驚かれました

小毬「ごめんなさい、自分の用件伝えてたら忘れてました〜」

あらあらと、寮長さんに笑われながらも、小毬さんは私を寮長さんに紹介してくれました

「えっと、雪村かえでさんですね。うん、今日から入寮されることは聞いてますよ。部屋は・・・ここですね」

寮長さんが女子寮の簡単な地図を取り出して、ここだと指して教えてくれました

かえで「寮長さん、すみません少し、お手伝いしてもらえませんか?荷物がすこし多くて私だけだと時間が掛かりすぎそうなので」

「んー、ごめんなさいね。私はこれから用事があって手伝えそうにないから・・・そうだ、神北さん、すこし手伝ってあげてくれないかしら神北さんのほうで人数そろえても良いですし」

小毬「はい〜、わかりました〜。じゃあ、何人か呼んでくるね〜」

トテトテと小毬さんが走っていきま・・・

ずるっ、ばたっ!

かえで「!?」

目の前で小毬さんが転びました
つまずくものは無かったと思いましたが・・・

かえで「だ、大丈夫ですか?」

小毬「あぅ・・・ひざ打ったぁ・・・」

見れば、ひざが赤くなっていました
どうやら、少しだけ打ってしまったみたいでした

かえで「ちょっと診せてくださいね」

私は、小毬さんのひざに手を当てます
そして、力を込めます
普通の人にはない力
お母さんから受け継いだ力
それは、魔法の力
それを、治癒の力に変えて小毬さんに当てます

でも、人にこの力のことをバレないようごまかします

かえで「いたいのいたいのとんでけ」

寮長さんがそんな私を見て、くすくす笑います
でも

小毬「あれ・・・痛くなくなったよ?」

かえで「よかった、おまじない効いたみたいですね」

小毬「うん、かえちゃん、ありがとう〜」

かえで「かえ・・・ちゃん?」

小毬「そ、かえでだからかえちゃん」

人差し指をピッと立ててニコニコと笑顔で小毬さんはそう言います

初めてでした
私のことをそう呼ぶのは
でも、なんでしょう
嫌な気分ではありませんでした

かえで「かえちゃん・・・かえちゃん・・・」

気づけば、何度も小毬さんが呼んだ名を繰り返していました

小毬「かえちゃん?」

小毬さんに呼ばれて、ようやく我に返りました
なんだか、無性に恥ずかしくなってしまいました

かえで「あ、はい。ごめんなさい」

小毬「じゃあ、すぐ戻ってくるね。玄関先に行けばいいのかな?」

かえで「はい、今度は転ばないでくださいね」

大丈夫〜とまた、トテトテと走っていきました
今度は、転ばずに

「そそっかしい所があるけど、基本的に良い子だからね」

私たちのやりとりを見ていた寮長さんが顔を出しました

かえで「はい。初対面の私に『かえちゃん』と呼んでくれました」

なんだか、また恥ずかしくなってきました
顔も・・・すこし熱い気がします

「今日は手伝えないけど、何かあったら相談してね」

かえで「はい、これからよろしくお願いします」

私は、感謝の意を告げて深々と頭を下げた後
小毬ちゃんが呼んできてくれた人たちと一緒に
荷物を自分の部屋に運びました







かえで「皆さん、今日はありがとうございました。お礼と言っては何ですが、お茶を飲んでいきませんか?」

小毬「それじゃあ、わたし、部屋からお菓子もってくるねぇ〜」

また、トテトテと走り部屋から廊下に小毬さんが出て行くと

どたん!

かえで「またっ!?」

あわてて、部屋から顔だけ出して廊下の方を見ると

小毬「あうぅ・・・」

鼻を押さえながら立ち上がろうとしている小毬ちゃんがいました
どうやら、たいしたことなさそうなのでそのまま見なかったことにしました

「相変わらずだな、小毬君は」

「小毬さん、だいじょうぶでしたか?」

小毬さんは、二人知り合いを連れてきてくれました
荷物を運びながらお話を聞くことが出来ました

一人は、来ヶ谷唯湖(くるがやゆいこ)さん。スタイルが非常によい女性です
口調から、冷たいイメージがあったのですが、てきぱきと荷物を運んでくれたり
冗談(笑えるか笑えないかは別として)も言ったりしますので
見た目ほど冷たい人では無いのかと思いました

そして、もう一人
能美(のうみ)クドリャフカさん。名前からして、純粋な日本人ではないことは察することが出来ました
聞くとお祖父さんがロシア出身の方。お祖母さんが日本人とのこと。
でも、能美さん自身はお祖父さんの影響で日本語が話せるものの英語等はまるきり駄目だとおっしゃっていました

かえで「はい、お鼻を打ったようでしたけど、平気そうでした」

荷物の中から茶器と茶葉を取り出し、電気ポットでお湯を沸かします

かえで「来ヶ谷さん、能美さん。紅茶で大丈夫ですか?」

唯湖「ああ、かまわない」
クド「はい、大丈夫です」

こぽこぽと紅茶をティーカップに注ぐ

クド「あ、かえでさん。私のことはクドと呼んでください」

かえで「はい、では、クドちゃん」

クド「はい♪」

私が言われた通りに返事をするとうれしそうにクドちゃんが笑っていました

私は、荷物の奥からイチゴジャムを取り出してお皿に四つに盛り分けました

かえで「お待たせしました」

小毬「お菓子持ってきたよ〜」

丁度よいタイミングで小毬ちゃんも帰ってきました

三人に紅茶とイチゴジャムを差し出します

クド「これは、ロシア式の作法ですね?」

かえで「はい、クドちゃんがロシアの血を受け継いでいると聞きましたのでもしかするとと思ってそうしてみました」

小毬「ロシア式?」

かえで「はい、ロシア式の作法は、ジャムをスプーンで舐めながら紅茶を飲むんです。寒いロシアでは、ジャムを紅茶に入れてしまうと冷えてしまって体を温める目的がそがれてしまいます。また、渋みが増してしまいますから」

小毬「でも、紅茶にジャムを入れることもありますよね〜?」

かえで「日本で言うロシアン・ティーというものですね?それは、ロシアンと名が付いていますが紅茶にジャムを入れる習慣はウクライナやポーランドですね。ですから、ロシアン・ティーと言う名は全くの誤解なんですよ」

唯湖「かえで君は随分と詳しいんだな」

かえで「うちのお母さんが、いろいろと教えてくれましたから」

正確にはお母さんの記憶を私が受け継いだのですけれども

小毬「このジャムおいしいです〜。それにイチゴの形が残ってます」

唯湖「そうだな、これだとジャムをなめているというよりは食べているといった方が正しいな」

かえで「これは、素材の形が比較的残っているプレザーブタイプのジャムです。私は素材の味と歯ごたえが楽しめるこちらのジャムの方が好きです」

クド「かえでさんは本当に色々ご存じなのですね」

なんだかまた、顔が熱くなってきました
お母さん以外にほめられる事なんてありませんでしたから
慣れていないせい・・・なのでしょうか

でも、嬉しいです

しばらく雑談をした後、小毬ちゃん、来ヶ谷さん、クドちゃんは自分の部屋に戻っていきました
戻り際に「分からないことがあったらいつでも聞いてね」と小毬ちゃん
「ありがとうございました」と見送って

かえで「さてと、今日中に片付けないと」

明日から通学
この大量の荷物を片付けないといけません
とりあえずは、日常生活に必要なものを開けて
その他のものは今度のお休みの日にでも片付けることにしましょう




・・・

かえで「ふぅ・・・」

なんとか、片付きました
お部屋に備え付けの戸棚があったのでそこに食器類等々を入れて
同じく備え付けのタンスに当面の服をしまいました

ベッドメイクも終わっていたのでとりあえず、シャワールームで汗を流して寝ることしました

かえで「はふ・・・なんか疲れましたけど・・・明日が・・・楽しみです・・・」

ベッドに横たわるととたんに眠気が襲ってきました
今日はこのまま眠れそうです・・・






バタン!ガン!!

かえで「! 何事ですか!?」

急に大きな物音がして飛び起きました
すぐに普段着に着替えて、部屋の外へ

かえで「物音は・・・・こっちでしょうか?」

どうやら、誰かがものすごい勢いでどこかへ向かっているようでした

かえで「なんでしょう。すごく気になりますね。後を追ってみましょう」

私は、その誰かを追うことにしました

to be next scene