かえで「はぁ・・・完全に出遅れたといいますか・・・」
ほとんどの生徒が食事を終えようとしている食堂には
たいした食事が残っていませんでした
残っていたのはサンドイッチといった軽食系のものばかり
かえで「まぁ、仕方ありません。今日はこれで我慢しましょう」
券売機で、タマゴサンドとハムサンドを購入
厨房で包装されたサンドイッチを受け取ります
かえで「んー。そうだ、小毬ちゃんの所に行ってみましょう」
この時間なら、まだあの場所に小毬ちゃんがいるはずです
私は、食堂をあとにし、階段を上っていきました
リトルバスターズ
Another miracle
Fortunate spiral theory
屋上手前の窓の所に来ると
小毬ちゃんと、直枝くんがいました
なんか、小毬ちゃんが大声を上げています
かえで「?」
ちょっと聞いてみましょう
理樹「神北さん、子どもっぽい下着が好きなんだね」
はい?
直枝くんは一体何を言っているのでしょうか
小毬ちゃんもなんか、困った顔をしていますし
ちょっと聞いてみましょう
かえで「直枝くん、女の子に一体何を聞いてるのですか」
理樹「うわああああ!」
音もなく、直枝くんの背後に忍び寄り、突然声をかけてると
予想したとおりの反応をしてくれました
理樹「ゆ、雪村さん、聞いていたんですかっ」
かえで「まぁ、通りかかったというか。私も屋上が好きになりましたから。さぁ、行きましょう」
直枝くんを先に送り出してから私と小毬ちゃんが屋上に出ます
かえで「それで、なんで下着の話に?」
小毬「えっとね・・・」
小毬ちゃんと直枝くんの話によると
小毬ちゃんが窓を開けると、直枝くんがお先にどうぞと言ったそうです
ふむ、なるほど
屋上に出る窓はしゃがまないと出れません
しかもアングル的に、待つ人は出る人を見上げる格好になってしまいます
スカートなんて履いていたら、スカートの中が丸見えな訳です
それで、お先にどうぞなんて言われたものの
男の子にスカートの中を見られたら恥ずかしい小毬ちゃんは
モジモジしてたところ、なぜか、『今日はくまさん』と言ったそうです
その言葉に察した直枝くんが先程私が聞いた子どもっぽい下着・・・云々とのことです
結局は小毬ちゃんの自爆ということに
かえで「小毬ちゃん、大胆なのか、恥ずかしがり屋なのか分かりませんね」
小毬「ひぅ〜」
かえで「あとは、直枝くんも察しがついたとしてもそういうことは言ってはいけません」
理樹「はい・・・」
全く、私は、二人のお母さんではないというのに
なんでこう、私はこんなにお節介焼きになってしまったのでしょうか
まぁ、とりあえず、お昼ご飯にしましょう
貯水タンクの段差に腰掛けてサンドイッチを広げます
理樹「あれ?雪村さんもお昼まだだったんだ」
かえで「はい。ちょっと宮沢くんと井ノ原くんの様子を見ていましたので」
理樹「あ、あの二人どうだったの?」
私は先程の事の顛末を直枝くんに説明しました
何事も無かったことを知ると、直枝くんはホッとしたような顔をしていました
小毬「直枝君に、かえちゃん。今日は何かご用?」
かえで「私は、お昼をここで取りたいなと思って来ました」
理樹「僕は、ほかに居場所がないなぁと思って」
小毬「居場所なんてどこにでもあるよ。直枝君は、そういう場所見つけるの苦手なんだね」
理樹「神北さんは見つけるの上手そうだね」
小毬「そんなことないよ。私は普通。でも、直枝君はここが居場所になったって事かな?」
理樹「いい場所だしね、ここ」
確かにここは良い場所です
何が?と言われると困るのですが
そうですね・・・
なんとなく
でしょうか
小毬「今日は少し、多めに持ってきたんだよ〜」
小毬ちゃんが、袋からお菓子を取り出します
小毬「はい、ベルギーワッフルだよ」
私と直枝くんに一つずつ渡してくれました
お昼がまだだったのでこれはその後にしましょう
どうやら、直枝くんもそのようです
小毬ちゃんは、タッパーを取り出すと蓋を開けました
中身は、グリーンサラダとホットケーキ
栄養バランス的にはなにか足りないような気がしますが
そういう私もサンドイッチだけ
人のことは言えませんでした
まぁ、小毬ちゃんがおいしそうに食べているのでよしとしましょう
かえで「小毬ちゃん。さっき、お菓子を多めに持ってきたって言ってましたけど」
小毬「うん。だって、直枝君とかえでちゃんがここにきたらお菓子足りなくなっちゃうから」
たりないって・・・
小毬ちゃんの周りにはこれでもかというくらいお菓子がありました
一体私たちはどれだけお菓子を食べると思っているんでしょうか
でも、小毬ちゃんなりの厚意として受け取っておきましょう
小毬ちゃんは良い子ですから・・・
小毬「直枝君、かえちゃん。知っていますか?」
理樹「?」
小毬「お菓子を食べるとちょっと幸せになれるんです」
かえで「幸せ・・・ですか?」
小毬「うん。二人が幸せになったら、私も嬉しい。誰かを幸せにすると自分も幸せになるよね」
誰かを幸せにすると自分も幸せ
すてきな考えだと思いました
さらに小毬ちゃんは続けます
小毬「だから、君が幸せだと私も幸せ。私が幸せだと君も幸せ」
かえで「幸せが繰り返し続いて螺旋になりましたね」
小毬「うん、幸せスパイラル」
世界のみんながこの小毬ちゃんの理論を実践すれば
本当に争いなんてない世界になれるかもしれません
現実的では無いけれど
私は、せめて私だけでもこの理論を支持したいと思いました
かえで「すてきだと思います。その考え」
小毬「えへへ・・・。では、ぽてちでもどうぞ」
まだ、ワッフルにも手を付けていませんでしたが
今の話を聞いてしまっては、断る事なんて出来なくて
かえで「はい。ありがとうございます」
食べられるか分からなかったけど
満面の笑みを浮かべる小毬ちゃんからぽてちを受け取りました
とりあえず、もらったお菓子を後にしてサンドイッチを食べていると
小毬「ああああーっ!」
急に大きな声を上げて小毬ちゃんが狼狽え始めました
かえで「こ、小毬ちゃん。どうしたの?」
小毬「うえーん、フォーク忘れた」
がくっ
お願いですから、そのくらいのことで大きな声を出さないでください
ふむ・・・
かえで「小毬ちゃん、ちょっと待っていてもらえますか?」
小毬「ふぇ?」
私は、いったん屋上から階段の踊り場に出ました
ここは、物置代わりになっていて机やら、椅子やら、挙げ句の果てにはなんだかよくわからない金属くずまでおいてありました
かえで「先程から、気にはなっていたのですが、物置というより粗大ゴミ置き場ですね・・・」
私は、そのよく分からない金属くずを手に取ります
そして、周りに誰もいないことを確認してから
かえで「物質構成確認完了。構成物質はFe。純鉄。分子構成を変更して形質を再構築」
私の手の上で金属くずがみるみる形をかえて・・・
フォークになりました
かえで「ふぅ。よし、出来ました」
お母さんから受け継いだ力の一つ
錬金術
すべての物を完全なものに錬成するために生まれた学問
たとえば銅や銀などの卑金属を金などの貴金属したり
人を不老不死にするための物質を作り出すこともその一つです
錬金術は今や過去の物としてなっていて
現在では、化学、科学が主流となっていますが
錬金術から蒸留の技術、硝酸や塩酸、硫酸や王水なども作り出されています
錬金術があったからこそ、今の化学や科学があるのだと言われています
しかし、錬金術は完全に廃れた訳ではなく
歴史の水面下でその技術を高めていました
結果、私が使った物質の再構築
物質を異なる物質に変化させることや
私のような、人工生命体を作り出すことまでに進化しました
でも、それは、今の世界において行き過ぎた技術であると錬金術師達は考えました
そして自らの技術を悪用されることを恐れ、自らの技術、知識は自分達だけの秘密とし
自分たちが認めた人のみにそれを受け継がせるという方法をとりました
結果、今まで私たちの存在は世界に知られることはありません
錬金術師も普段は一般の人と同じように生活していますし
さて、急いで小毬ちゃんの所に戻りましょう
かえで「小毬ちゃん」
小毬「あ、かえちゃん。おかえりなさーい」
はいと小毬ちゃんにフォークを渡します
小毬「かえちゃん、ありがとー」
小毬ちゃんは本当に嬉しそうにフォークを使ってホットケーキを食べ始めました
そんな小毬ちゃんをみていると私までなんだか嬉しくなってきます
あ・・・
小毬ちゃんの理論、案外当たっているかも知れませんね
理樹「それにしても雪村さん、随分早かったね」
小毬「そういえば、そうだね。食堂に取りに行くにしても早いし・・・」
かえで「まぁ、それは秘密ということで」
先程も言いましたが
私が錬金術を扱えることは内緒なのです
さてと、私は食事を終えましたし
ここらでお暇することにしましょう
かえで「直枝くん、小毬ちゃん。私はお先に戻っていますね」
小毬「もう、行っちゃうの?」
かえで「ごめんなさいね、ちょっと用事があるものですから。お二人はゆっくりしてくださいね」
理樹「じゃあ、また後で」
かえで「はい、では失礼します」
二人にお辞儀をしてから
私は、屋上を後にしました
なんとなく、思っていましたけど
あの二人、良い関係になりそうですね
まぁ、私がいては、邪魔をしてしまいそうですしね
それに、私には恋愛なんて無縁ですし・・・
でも、二人がうまくいくようにお手伝いはしましょう
少々、お節介になるかも知れませんが
放課後
かえで「さてと・・・」
今日は特にこれから何もないのでそのまま寮に戻りましょう
と思ったのですが・・・
すこし、学園内をぶらつくことにしました
しばらく学園内を歩いていると
なんだか、騒がしい事になっていました
私に向かって誰かが走ってきました
「わー、どいてどいてー」
ひょいと、廊下の端によけるとそれは
三枝さんと、直枝くんでした
葉留佳「かえちん、ごめんねー」
理樹「三枝さん、引っ張らないで!」
そして、その後ろを
「こらー、まてー」
赤い腕章をした生徒、数名が追いかけていきました
かえで「あれは、風紀委員ですね。ということは、三枝さん、また何か、しでかしましたか」
事情を聞くために一番後ろを走っていた風紀委員の生徒(おそらく後輩)を呼び止めました
始めは怪訝そうな顔をしていましたが私の顔を見るなり驚いたような顔をして事情を説明してくれました
やはり予想通り、三枝さんが、委員会室にビー玉をばらまいたそうです
悪戯と言ってしまえばそれまでですが、少々、風紀委員の癪に障ったようでした
とまぁ、三枝さんと風紀委員のおいかけっこは日常茶飯事となっているので
特に気にしていませんが・・・
かえで「あ、引き留めてごめんなさい」
風紀委員「いえ・・・」
かえで「ところで、なぜ私の顔をみて驚いたのでしょうか?」
先程、この風紀委員の態度に疑問が湧いたので聞いてみました
風紀委員「それは、いつも喧嘩をしているあの二人を止めた方ですし・・・」
いつも喧嘩をしている二人・・・
ああ、井ノ原君と宮沢君ですか
風紀委員「風紀委員では、雪村さんのことは一目置いているんです」
かえで「そう・・・なんですか?」
意外でした
私自身は特別なことはしているつもりはありませんでしたし
自分の良心に従って、駄目なものは駄目と言っているにすぎません
しかし、どうやら、それがここでは目立っているようです
風紀委員「雪村さんみたいな人が風紀委員に入ってくれれば色々と助かりそうなのですが・・・」
かえで「買いかぶりすぎです。私とて、騒ぎを起こしてしまうかも知れませんし、何より最近は直枝くんの周りで起きる出来事を楽しく思っていますから」
風紀委員「そうですか。残念です」
風紀委員の生徒は言葉通り残念そうな顔をして、三枝さんの後を追いかけていきました
寮へと戻るときに、小毬ちゃんを発見
寮とは正反対の方向を行っちゃいました
あの方向は・・・グラウンドだったはずですけども
ん・・・
追ってみましょう
案の定
小毬ちゃんはグラウンドにいました
そして、そこには小毬ちゃんだけでなく
直枝くん達も一緒にいました
おや、宮沢くんはいないみたいですね
えっと・・・
バットに、グローブ
野球ですか
かえで「直枝くん!」
理樹「あ、雪村さん。どうしてここに?」
かえで「小毬ちゃんを追いかけてきました。さて、これは一体何事なのでしょうか?」
理樹「うん、僕たち、草野球をやることになってね」
草野球ですか
直枝くんや井ノ原くん。小毬ちゃんや棗さんはまだ分かりますが
3年生の棗恭介さんはこんな事してて良いのでしょうか
たしか、就職活動中なはずですけれども・・・
でも、皆さん、笑顔で楽しそうですし
息抜きにはいいのかもしれませんね
恭介「ん、どうした?なんだ、雪村か。雪村も理樹が連れてきたのか?」
理樹「いや、違うよ。雪村さんは神北さんの後をついてきただけみたいなんだ」
恭介「そうか。まぁ、せっかくきたんだしな。雪村も俺たちと一緒にやらないか?」
かえで「やるって、野球をでしょうか?」
恭介「それ以外になにをするんだ?」
かえで「まぁ、そうですけど・・・」
さて、困りました
野球自体は知識としては持ち合わせています
しかし、実際に経験としては全くありません
かえで「うーん・・・」
小毬「大丈夫だよ、私も一緒にやるから〜」
そうですね、小毬ちゃんもこう言ってますし
せっかくのお誘いです
無碍に断るというのも気が引けます
そして、なにより楽しそうだと思いました
かえで「では、よろしくお願いいたします」
恭介「おう」
真人「でだ。雪村もテストするんだろ?」
恭介「当然だ」
かえで「え?テストですか」
なんていうか、あべこべです
やらないかと誘っておいて
入団テストですか
まぁ、この人らしいと言えばそれまでなんですけども
恭介「まぁ、形だけだと思ってくれ。そうだな、雪村には遠投をしてもらおうか」
遠投・・・
どうやら、ボールを遠くに投げればいいようです
恭介さん(棗鈴さんと区別するためにこれからはお二人を名前で呼ぶことにしました)によると
センターからキャッチャーに向かって投げれば良いとのこと。
つまるところの『バックホーム!』というやつみたいです
恭介「よし、良いぞ!雪村!」
キャッチャーは恭介さんがしてくれるみたいです
行きますー!
と声をかけてから
思いっきりボールを恭介さんのミットめがけて投げました
ズバン!
周りにいるみんなが凍り付いていました
はて、なにかやらかしましたか?
真人「雪村、お前一体何者だ?」
理樹「すごいよ、雪村さん!」
小毬「うん、一直線にボールが飛んでいったよ」
鈴「恭介が痛そうだ」
恭介「つー・・・。まるでレーザービームだな・・・」
恭介さんが、ミットから手を抜いて痛そうに手を振っていました
かえで「あ、あの、大丈夫ですか?」
恭介「平気だ。それにしても見かけによらず、良い肩してるなぁ」
恭介さんに誉められるとなんだか気恥ずかしいです
以前もお話ししましたが
私はホムンクルスです
通常の人間より筋繊維、骨格等が強くなっています
結果、今のような事になりました
かえで「えっと、そうですね。体だけは丈夫に出来てます」
とりあえず、ごまかしました
井ノ原くんあたりは、「なるほど・・・」と言って納得してくださいましたが
直枝くんや恭介さんはなにか釈然としない顔をしていらっしゃいました
まぁ、嘘は言っていないのでよしとしましょう
恭介「合格だな。それじゃあ雪村にはセンターをやってもらおう」
センターというと、キャッチャーから見て中央の一番奥の外野だったでしょうか
かえで「わかりました。では、皆さん、これからよろしくお願いしますね」
深々とお辞儀をして皆を見ると
みんな笑顔で私を受け入れてくれました
この草野球のチーム名は『リトルバスターズ』
私は晴れてリトルバスターズの一員となることが出来ました
to be next scene