「ようやく辿りつきましたねぇ」

一見何の変哲もない道
しかし、私には分かる
丁度一歩踏み込めば、そこは世界が違う
ここから先は、私達が住んでいる世界とは違い妖怪が跋扈している
この世、妖怪なんて信じているものなど一握りもいないだろうけども
この先の世界はそれらが普通に存在している
往々にして、妖怪は人を襲う
襲うといっても、それらは食料として人間を襲う
しかし、人間だけを食料としているわけではないのでそれが救いでもある
私はあえて、その妖怪が跋扈している場所に踏み込もうとしている
理由?

「霊夢のやつは元気にしているでしょうかねぇ」



しばらく、この地に来ることは無かった
自分はすでに隠居の身
後を継ぐ者に任を託してからはこの地より去った
それから数年
ふと、この地が懐かしく思い、また、私の後を継いだものの様子も見たくなった

この地を知るものはここを「幻想郷」と呼ぶ

そして、この地を護る者がいる
それは、博霊の性を持つ者である。

博霊の性を持つ者はこの幻想郷を取り囲む結界の管理
そして、幻想郷にある秩序を護らなくてはならない

私も昔はその任を受け、長い間勤めてきた
数年前にその任を後任である博霊の性を継ぐものに受け渡し
私は幻想郷を離れ、人間の世界へと戻った

博霊の人間は往々にして普通の人間とは違う、なにかしらの特殊な能力を持っている
私は、博霊の中でも稀に見る「長命」の能力を持っていた
それ故に守護に任を受け、長き間勤めた

しかし、長き間おなじ者がその任を勤めるのはあまりよろしくない
後任の者が育たず、最終的には後任の者がいなくなってしまうだろう
また、情にも流されてしまうだろう
博霊の守護者は常に人間、妖怪ともに平等でなければならないのだ

それを危惧した私は、自ら任を受け渡した
博霊の守護を後世まで続けていくために

我が任を受け渡して数年
幻想郷の様子が懐かしくなった
また、我が弟子とも呼べる者の様子が見たくなってきたのも事実
風の便りで幻想郷もだいぶ様変わりしたらしい

幻想郷を向かいながら
昔のことを思い出す
大変でありながら楽しくもあった日々
そこに住む人間と妖怪
おそらく、私の知っている人間はもうほとんど生きてはいないだろう
しかし、妖怪は人間よりはるかに長命
もしかすると、私を覚えている妖怪がまだいるかもしれない

気分が高揚していく
やはり、幻想郷を恋しく思っていたのだろうか
私にしてみれば、幻想郷はもう一つの故郷なのだろう

幻想郷を取り囲む結界がある
むやみに人間が迷い込まぬように
また、むやみに妖怪が出てこられぬように

とはいうものの、力のある人間や妖怪は出入りしているようだ
そういった者も博霊の人間が対処する
幻想郷に入ってしまった人間は内側の博霊の者が
幻想郷から出てしまった妖怪は外側の博霊の者が

昔の楽しかった日々を思い返しているうちに
幻想郷の中にある神社
「博霊神社」に着いた
ここが、幻想郷内での博霊の拠点

なのだが・・・

なんだが、境内から喧騒が聞こえる

みると、博霊の巫女が着る、紅と白を基調とした独特な巫女服を着た、懐かしい姿
それと、黒いひらひらとしたものが沢山付いた服と同じく黒の帽子をかぶった見覚えのない姿

喧騒の断片から聞こえる、なにかを取ったとか取らないとか

「ふぅ、またどうでも良いことで喧嘩をしているのですね、霊夢」

「どうでも良くないわ!だって魔理沙があたしのおまんじゅうを・・・って、ああ!」
「ああ!って一体どうしたんだ。てか、誰だ?」

霊夢の方は口をパクパクさせてこちらを見てます。ついでに指まで指してますね。失礼な(笑)
魔理沙と呼ばれた方は、興味津々と言った様子でこちらをみてます

「元気そうでなによりですよ。霊夢」

「おおおお、お兄様。なぜ、ここにいるのですか!」
「お兄様?霊夢、口調がなんかおかしいぞ?」

久しぶりにあったというのに、随分な態度ですね
まぁ、なにも連絡せずに来たのですから仕方ありませんが

「落ち着きなさい霊夢。それと、初めまして。私は博霊幻夢。どうやら、霊夢がお世話になっているようですね」

「ああ、あたしは霧雨魔理沙だ。で、あんたと霊夢はどういう」
「兄妹です、私は霊夢の兄ですよ」
「ええっ? どうみてもそんな風にはみえな・・・」
「魔理沙それ以上は、寿命を縮めるから言わない方が良いわよ」

まったく、どこまでも失礼な子ですね
まぁ、そういわれてもおかしくはありません

どうみても、私のほうが年下に見えるのですから

「さて、霊夢」
「なんでしょう?」
「なぜ、うちの神社の他に幻想郷に神社があるのですか?」
「な、なぜそれを・・・」

霊夢は慌てふためいているが
私にとっては雑作もない
博霊以外の神力が感じられるからだ。
しかも、なにやら様子がおかしい

「私がどれほどこの幻想郷で守護を勤めてきたか忘れたのですか?変化があれば気づきますよ」
「さ、さすがです。お兄様。確かに、博霊の他に神社が出来まして・・・」
「どこにあるのです?」
「お兄様、まさか、行かれるおつもりで?」
「もちろん。ご挨拶に参りますよ。神社があると言うことは神官がいるのでしょう?」
「はぁ、居ることはいるのですが・・・」
「ならば、挨拶に出向くのはなにもおかしな事ではないと思うのですが。それとも、霊夢は何か私に行って欲しくない理由があると?」
「いえ!滅相もない!」
「ふぅ、霊夢。そんなに堅苦しくなくてもいいですよ。大丈夫、私は隠居の身。なにもしませんよ」

「わ、わかりました。では、少々お待ちください・・・」

霊夢が神社の中から風呂敷に包まれた何かを持ってきた

「お持たせです。手ぶらではお兄様に格好が付きませんので」
「ありがとう。お礼に、帰りにはなにかお土産を持ってきましょう」
「お気になさらずに。では、道中お気をつけて・・・」
「はい、では行ってきますね」

私は霊夢と魔理沙さんに見送られて神社を後にした












「おい、霊夢。あれって・・・」
「ええ、神社にある一番高いお饅頭よ・・・」
「いいのか? あれ、やっと手に入れたって」
「仕方ないわよ・・・。お兄様の機嫌を損ねたらどうなることか・・・」

そこまで言って、霊夢はガタガタ震え始めた。
どうやら、想像してしまったらしい

「てか、お兄さん、道も聞かずにいっちまったけど大丈夫なのか?」
「ああ、お兄様なら大丈夫よ。あの人は絶対に道に迷わないから。どんなに知らない道でもね」
「なんだそりゃ・・・」














「ふむふむ、幻想郷も色々様変わりしましたねぇ」

目的地に向かって歩きながら、色々なところに目を向ける
私がいた頃とは妖怪も人間も入れ替わっている
まぁ、大妖怪ともなれば、そうそう入れ替わることもないが

「ん? あそこにいるのは・・・」

森の獣道を歩いていると、見覚えのあるしっぽが

「ひぃ、ふぅ、みぃ・・・。9つ。もしや」

九つのしっぽを揺らしながら、何かを見ている人影

間違いなく、あれは妖怪。
しかも、私はそれを誰だか知っている。
懐かしい気分になり、私はその妖怪に近づいていった

「なにをしているのですか? 八雲藍さん?」

「誰だ!っておおっ!幻夢ではないか!」

「お久しぶりです。藍。また、人間を襲う算段でも立てているのですか?」
「違う違う。ほらあそこ」

藍が指さす方向には二股のしっぽを持つ妖怪がなにやら一生懸命飛び回っている

「どなたですか?」
「私の式神だ。橙(ちぇん)という。」
「ほう、式神であるあなたが、式神を呼べるまでに力を付けたとは」
「どうだ、私もなかなかだろう。それにしても橙のヤツと来たら・・・」

藍の鼻の下が伸びてますね

「藍、顔がふにゃけてますよ?」
「おおっ! どうしても、橙を見てるとにやけてしまうのだ」

珍しい。式神にそこまで思いを寄せるとは。しかも式神が
まったく、ここは相も変わらず退屈しませんね

「ところで藍。あなたの主様はご在宅ですか?」
「ん?紫さまか?ああ、家にいると思うよ」
「そうですか、出かけついでに寄らせて貰いますね」
「ああ、そうして貰えると紫さまも喜ぶ」
「はい、では、失礼しますね」
「ああ、またな」







さて、少し寄り道をしましょう

八雲紫 『境界を操る程度の大妖怪』と文献には記載されていましたね

私が居たとき、少々相まみえたことがありました
当時はやんちゃな娘で、好き勝手やっていましたねぇ
私が少々、お灸を据えてから、どういう訳か、懐かれてしまって・・・
まぁ、懐かしい記憶です

「ふむ、この辺でしたね」

ここは幻想郷の境目
そこに建つ屋敷に紫は住んでいます

今は・・・たぶん寝てますね

「仕方ありません。勝手に入りますよ?」

玄関を抜けて、奥の座敷に行くと・・・

「やっぱり寝てましたか。まぁ、藍が動いている時点でそんな気はしましたが・・・」

すぅすぅと寝息を立てている紫の近くまでいくと

「紫の秘密を皆に話してもいいですか?」

ガバッ!

「幻夢!それだけはぁあああ!ってあれ?」
「はい、おはようございます」
「幻夢! なぜここに?引退したんじゃなかったの?」
「ええ、霊夢と幻想郷の様子が気になってもどってきてしまいました」
「そう、どのくらい居るのかしら?」
「そうですね、外の博霊から許可をいただいてますのでそれなりには」
「そんなこと言って。どうせ、無理言ったんでしょう?」
「ばれましたか」
「ふふっ、とりあえず・・・」

ふわっと、紫が私に抱きついてきます

「おかえりなさい」
「はい。ただいま」

まるで子どものように抱きついてくる紫の頭を撫でてやりました









数分間そんな状態が続いて
ようやく、紫が私を解放してくれました

そうでした、紫なら何か知っているかもしれません


「紫、さきほど来たときから感じているのですが、新しい神社があるようですね」
「そうなのよ。つい最近出来たんだけど。外から来た神でね」
「外?」
「うん、外の世界で信仰が得られなくなったから神社ごと幻想郷に移り妖怪の信仰を得ようとしたみたいね」
「結末は?」
「霊夢と魔理沙・・・魔理沙って言うのは」
「先程、博霊の境内で会いましたよ」
「なら、話が早いわ。その二人で退治したわ。神社と移ってきた神、それから神官はそのまま居るけど」
「なるほど、紫、神の名前を教えて貰っても良いですか?」
「たしか、洩矢諏訪子と八坂神奈子だったかしら」
「洩矢と八坂ですか・・・」
「まぁ、詳しい話はあとで稗田家に行ってみると良いわ」
「幻想郷の記録番の稗田家ですね。わかりました」






「さて、紫、お邪魔しましたね」
「もう行くの?」
「ええ、実はその神社にご挨拶に向かおうとしていたのですよ」
「・・・幻夢。なに考えてるの?」
「別に。本当にただのご挨拶、ですよ」
「そう、あまり無茶しちゃダメよ。相手が可愛そうだわ」
「失礼ですね。なにもしませんよ。向こうがなにもしなければですが。」
「全く。あ、幻夢。どうせだから神社の近くまで送るわよ」
「そうですか。助かります」


紫が再び私に抱きつこうとしたとき
紫の顔が急に艶っぽくなりました
ふと、嫌な予感がしたときには時すでに遅し
私の頭は紫の胸の中でした

「ちょっと、紫?」
「いいじゃない。久しぶりなんだから。はいはい、暴れたら境界に落ちるわよ」
「むぅ」

私は腑に落ちませんでしたが、境界に落ちて出られなくなるのは嫌なので黙って身を預けることにしました






境界から出るとそこは、妖怪の山と呼ばれる所の麓でした

「この山の一番上に神社があるわよ」
「わかりました。ありがとう紫」

そういって、紫の頭を撫でてやりました

「バカ、恥ずかしいから止めて」

全く、屋敷の中では人に抱きついてきたくせに外に出るといつもこれです。

「はいはい、では、行ってきます」
「幻夢」
「なんですか?」
「帰りに屋敷に寄って」
「ん・・・はい。分かりました」
「絶対によ」
「くどいですね。私は約束を守りますよ。だから、今もこうして会いに行ったじゃないですか」
「!! じゃあ、待ってるから」

そういうと紫は屋敷に戻っていきました

素直じゃないというかなんというか

ああ、外の世界では確か・・・
なんといいましたか・・・

ツン・・・なんとかでしたか?

まぁ、私もそんな紫が嫌いではありません

「妖怪の山。天狗達に会うのも久しいですねぇ」


壱話完