WOA外伝〜虹色の弾丸〜
第一話 旅立ちの日
秋子「栞ちゃん、しばらくここから離れてみないかしら?」
栞「えっ?」
仕事の精算のために華音ハンターズギルドに訪れていた栞はギルドマスターである秋子に突然の提案を言われていた
秋子「あなただけじゃないわ、名雪も香里さんも佐祐理さんも舞さんも北川くんも久瀬くんもしばらくここから離れて他のギルドに派遣しようと思うの」
栞「どうしてですか? 私たちは必要じゃないんですか?」
秋子「そうじゃないわ、むしろ逆よ。あなた達はこの世界を守るために必ず必要になる存在。だから、色々な経験をして強くなって欲しいの。ここにいるだけじゃ成長に限界が訪れるわ。色々な世界に目を向けて、色々なものを吸収して欲しいのよ。どうかしら・・・」
栞は少し考え、答えを出した
栞「わかりました。祐一さんやおねぇちゃん達と会えなくなるのは寂しいですけど、祐一さんやおねぇちゃん達の足手まといにはなりたくありませんから。その提案お受けします」
秋子「そう。大変だと思うけど、頑張ってくださいね」
栞「はい!」
数日後、栞はアメリカの地を踏んでいた
栞「はぁ、やっぱり日本とは違いますね」
リチャード「文化そのものが違うからな。まぁ、それでも日本料理店も増えてきてるんだぞ」
栞「そうなんですか」
リチャード「まぁ、秋子殿の手料理には負けるだろうがな」
栞「ふふっ」
そんな無駄話をしながら、アメリカのハンターズギルドに向かう二人。
栞がアメリカを選んだのは訳がある
自分の使っている武器が銃であること
世界でも一位を争う銃社会であるアメリカならばさらに自分の腕を上げられると思ったからである
その話しを聞いた銃の師であるリチャードが付き添いをかって出た
もともと、アメリカはリチャードの出身地でもある
道案内やギルドの手続き、修練の継続等を考えてそれがベストだと判断し
瑞穂と秋子が許可を出した
リチャード「そろそろだぞ」
そういってリチャードが指をさした先は巨大なビルだった
栞「お、大きいですねぇ・・・」
リチャード「そうだな。でも、行くのはこっちだ」
リチャードはそのまま指を下の方に向ける
栞「ああ、なるほど」
栞とリチャードはビルに入り5つあるエレベーターのうち右端に乗る
エレベータに乗ったのは二人だけだと確認した後リチャードは操作パネルに手をかざす
おもむろに手が光り出し、収まった頃には操作パネルが地下へ行くものに変化していた
一番最下層のパネルを押すと、上から声が発せられた
「氏名と所属をどうぞ」
リチャード「リチャード・ストライド、現在は華音ハンターズギルドインストラクター、セントラルハンターズギルドマスターの通達が行ってるはずだが?」
「確認します・・・照会しました。リチャード・ストライド及び美坂栞の転属命令が当ハンターズギルドに出されていることを確認。どうぞ、そのままお進みください」
がくんという衝撃の後かなり速いスピードで下がっていくエレベーター
数分で最下層に到着した
エレベーターからでると一本道をひたすら進んでいくと大広間に出た
「ようこそ、いらっしゃいました」
部屋の奥に座っている男性が立ち上がり二人を歓迎した
リチャード「久しぶりだな、アクロス」
アクロス「リチャードこそ、いろいろあったみたいだな。で、そちらの娘さんが?」
リチャード「そうだ、ここに転属になった。美坂栞だ」
リチャードはふと栞を見ると栞は口をぽかーんとあけて惚けていた
無理はない、出迎えの所からすべて英語で会話されており栞には何を言ってるのかさっぱりだったからだ
それに気づいたリチャードがふとあることを思い出した
リチャード「栞、瑞穂から貰った翻訳機をつかえ」
ああ、と腰のバックパックからピアスとペンダントを取り出し身につける
栞「あーあー、大丈夫ですか?」
リチャード「ああ、問題ない」
瑞穂が栞に渡したピアスとペンダントは声を認識し自分と相手の意志をダイレクトに伝えるための魔道具である
平たく言えば、超小型同時通訳機なのである
アクロス「こんにちは、栞さん」
栞「あ、はい。こんにちは」
アクロス「私はアクロス。現在当ギルドのサブマスターです。マスターは今所用のため席を外していますので私が代行しています。さて、栞さん、あなたには早速仕事について貰います」
リチャード「な!? おい、いくらなんでも早すぎるだろ!」
アクロス「そんなことはありません、今、丁度人手が足りないのです。よろしいですか?栞さん」
栞「私は構いません。リチャードさん、私なら大丈夫ですから」
リチャード「むぅ・・・まぁ、栞がそう言うならば。だが、無理はするな?」
栞「はい!」
アクロス「話しは済んだようですね。では、栞さん、エレベータで一つ上の階で仕事の詳細を確認してください。リチャード、あなたはここに残って」
栞が来た道を戻りエレベータに乗っていった
リチャード「おい、何を考えている?」
アクロス「これは、試験なのですよ」
リチャード「試験・・・ほう、栞に試験だって?全く随分なめられたものだな栞も。まぁ、お前らの考えていることは分かるよ。日本人のハンターがどれだけできるか。それを知りたいのだろう?」
アクロス「まぁ、それもありますが、他のものへの見せしめと言ったところですか」
リチャード「くっ、あっはっはっは!」
アクロス「何がおかしいのです?」
リチャード「いや、『見せしめ』な。せいぜい、お前らが見せしめられないように気をつけるこった。栞を甘く見ると痛い目に遭うぞ・・・。悪いが俺は栞についてやらないと行けないんでな。じゃあな」
くるりと背を向けて、リチャードは栞の後を追った
アクロス「ふん、日本人がこの地でうまくやれると思うな・・・」
栞に与えられた仕事は廃墟に発生している怪物の駆除であった
移動はギルドから車を一台貸してくれた
運転はリチャード。その助手席に栞が座っていた
リチャード「なんだ、この資料は。全くもってなにも分からないじゃないか」
お粗末としか言えないほどの情報しか載っていない紙切れをくしゃくしゃに丸めリチャードは投げ捨てた
栞「仕方ありません。現地で情報を収集しながら対処しましょう」
リチャード「そうだな」
リチャードはなにか嫌な予感がしていた
アクロスの態度もどこかおかしかった
まさかとは思うが、栞に何かしてくる気か
栞「そろそろですか?」
栞はなにかを感じ取ったようにそう口にする
リチャード「ああ、もうそろそ・・・」
栞「リチャードさん! 右です!」
栞の突然の叫びに咄嗟にハンドルを左に切る
その直後、なにかが車の右後ろに衝突した
その反動で、車は横転し、数十メートル滑っていった
リチャード「あたた・・・おい、栞、大丈夫か?っていないぞ?」
栞「リチャードさん、大丈夫ですか?」
声はどうやら、車の上から聞こえる
栞は車が横転する寸前に車外に飛び出していた
リチャード「ああ、大丈夫だ。しかし、ドアが歪んで開かないな」
栞「できるだけドアから離れてちょっと待っててください」
言われたとおりにドアから離れて待つと
栞「フレイムモード! ヒートビーム!」
ドアの四方がどんどん切断されていく
栞「リチャードさん、ドアを蹴り飛ばしてください」
リチャード「OK!」
ベゴンと音とともにドアが吹っ飛ぶ
栞「怪我はないですか?」
リチャード「ああ、平気だ・・・栞、お客さんだ」
まわりには車を襲ってきたと思われる怪物が数体
栞「お礼をしないといけませんか?」
リチャード「そうだな、盛大にやってやれ」
栞「了解です」
栞は、腰のホルスターから銃を二丁取り出す
リチャード「ん?エルは使わないのか?」
栞「必要ありません」
そう言うと、栞は怪物の中に飛び込んでいった
そして、リチャードは廃墟のビルの上に多数の人影を見つけていた
リチャード「こりゃまた、ギャラリーが大勢だな。ま、せいぜい栞を見て驚くが良い」
「おい、始まったぜ」
「あの、日本人のガキ、どこまで持つかな」
廃墟のビルの上で大勢の人が栞の戦闘を見ている
ここにいるのは全員先ほどのギルドの人間である
先ほどアクロスが行っていた試験の見物であり、新人の力量を図るために来ているのである
大抵は、どこまでやれるのかおもしろがってみているものばかりだが
しかし、数分後
この者達は、言葉を失うことになる
それは、誰もが予想していなかったこと
そして、たった一人だけこの状況を予想しているものがいる
これが、栞がアメリカのギルドに来てこのギルドに与えた最初の衝撃だった
栞「数は半径300メートル以内に10。アクセルパターンで仕掛けます。アブストラクション!シルフィードダンス」
栞の動きが突如、高速化する
日本にいるときに身につけたスキルの一つ
エルトリムを装備するときに発現する能力を一部抽出して使用するスキル
それがアブストラクション
魔力を必要最小限にとどめることができるため
非常に効率の良いスキルなのである
また、なんらかの状況においてエルトリムを装備できない場合にも効果を発揮する
高速化された栞の動きについて行けない敵は栞に触ることもできずに銃弾を撃ち込まれていく
ものの数秒で10体の敵を沈黙させた
栞「! 気配が増えた」
今度は10や20ではない
膨大な数の敵が空間から湧いてくる
しかし、あくまでも栞は冷静だった
栞「アブストラクション、マジックバレットアンドクイックトリガー!」
今度は超高速の銃撃
それだけではない、360°に渡って襲ってくる敵に対応しているのだ
時には見ずに敵を撃ち抜いている
これが、リチャードとの訓練により身につけた銃技『ノールックファイア』
相手の気配を感じ取り、そこに銃弾を撃ち込む技である
「なんだありゃ・・・」
屋上にいるものほとんどが閉口している
無理もない、まさか、ここまでやるとは夢にも思わなかったからだ
アクロス「ぬぅ・・・おい! アレを出せ」
アクロスが部下に魔物を放つように命令する
「おい、いくらなんでもそれはまずいだろ」
周りからは驚きと不安の声があがる
が、アクロスはその命令を貫く
「一応、俺たちも戦闘準備したほうがいいぞ。もし、あの子が手に負えなかったらまずいからな」
1人の言葉に周りにいるものが次々と準備を始める
栞「ふぅ・・・」
あらかた片づいたあたりで栞は一息ついた
リチャード「大丈夫か? 栞」
栞「はい、問題ありません。それよりもビルの上で誰か見てますが、これは試験か何かですか?」
リチャード「なんだ、気づいてたのか」
栞「はい、リチャードさんのおかげで周りの気配を読む力がつきましたから」
リチャード「全く、お前はどんどん強くなっていくな」
栞「まだまだですよ。それよりも、リチャードさん、スナイパーアタッチメントは持ってきてますか?」
リチャード「ん? ああ、一応車には積んであるが・・・」
栞「すみません、持ってきて貰えますか? どうやら使うことになりそうです」
リチャードが車に戻りアタッシュケースを持ってくるのと同時に地鳴りが始まった
リチャード「なんだ?」
栞「なんだか、私、あまり歓迎されていないようです」
そんなことを良いながら栞はアタッシュケースから色々と部品を取り出す
そして、腰に付けてある三つ目のホルスターからエルトリムを取り出す
エルトリムを手に取ると栞の髪の色が銀色に変化する
栞「おはようございます、エル」
エルトリム「随分と嫌われたな?栞」
栞「まぁ、私はこちらの人から見れば突然来たよそ者ですから。とはいえ、このままやられるわけにも行きませんし」
エルトリム「道理だな。で、どうするんだ?」
栞「超長距離から狙撃します」
エルトリム「なるほど、デモンストレーションというわけか?」
栞「そうですね、本来であればエルのノーマルスタイルで何とかなるのですが、しばらくここにいるのならば良い立場にいたいですし」
エル「ほう、言うようになったな栞」
栞「リチャードさんのおかげです」
ふふっと笑みを浮かべながらエルトリムに追加武装を施していく
栞「よし、できた」
エルトリムに施した武装
それは、瑞穂が構想した様々な状況に対応するための追加武装
今、栞がエルトリムに取り付けたパーツはスナイパーアタッチメント
文字通りエルトリムにロングバレルとストックを取り付けスナイピングをするための武装だ
もちろん、ただのバレルとストックではない
アウターバレルには超長距離に正確に的中させるために様々な魔法補正を装着
また、強力な魔法弾を発射できるように特殊な金属をインナーバレルに使用している
ストックには発射した際に生じる衝撃に反応し反衝撃を発生させ衝撃を軽減する魔法装備を装着
栞「リチャードさん、観測手をお願いします」
リチャード「了解した」
栞は見通しの良い道路に出て地鳴りの方向を向いた
リチャード「ん?」
組み上がったエルトリムをみてリチャードが呻る
リチャード「栞、スコープはいらんのか?」
栞「はい、これもデモンストレーションということで」
一層地鳴りが大きくなる
栞「くる・・・」
突然、5キロほど先の廃墟ビルが倒壊した
リチャード「これはまた・・・でかいな!」
5キロも離れているというのに、見上げるほどの魔物が姿を現した
栞「エルトリムスナイピングモード、フレイムライフルバレットロード・・・」
エルトリムが赤く光り始めると同時に栞の目の色も深紅に染まる
リチャード「栞、額だ、額に打ち込め」
栞「了解。アブストラクション、ホークアイ」
エルトリムの持つ能力の一つホークアイ
装備者の視力を大幅に向上し命中精度を上げる能力である
リチャード「準備ができたらお前のタイミングで何時でも行け」
栞「分かりました」
栞はトリガーに指をかける
大きく息を吸い込み、止める
そして、おもむろにトリガーを引いた
銃口から高速で飛び出す赤く光り輝く弾
それは、避ける間もなく魔物の額のど真ん中に吸い込まれていく
「冗談だろ、あの距離から狙撃しやがったぞ」
「だが、なにもおきないぞ?」
「はったりか?」
距離的には栞達とほぼ同距離に見ていたギャラリーが騒ぎ始める
そんな中1人の男が叫ぶ
「おい、ここら一帯に防御魔法を張るんだ!」
叫んだ男をみてハッとしたギャラリー達は急いで言われたとおり防御魔法を張る
「一体、なんだっていう・・・」
愚痴る間もなく、その答えが起きた
先ほど栞が狙撃した魔物が大爆発した
それこそ、周りの建築物を一緒に吹き飛ばしてしまうほど大きな爆発だった
栞達は、狙撃した後すぐに防御魔法を張って事なきを得ていた
「いやいや、今回の新人はとんでもないやつがきたもんだ」
「全くだ、ははは」
先ほどの栞を見てギャラリーの雰囲気が一転して栞を認めざるを得ないものとなっていた
しかし、1人だけはどうしてもそうはなれないものがいた
アクロス「くそっ、俺は認めんぞ、日本人なんぞに!」
栞「日本人だからどうだというのでしょうか?」
アクロス「!」
いつの間にかアクロスの背後に栞が立っていた
アクロス「一体どうやってここに」
栞「一応、ハンターですから、高度な段差に対しての移動の手段くらい持ち合わせています」
リチャード「まぁ、お前は認めんでも、周りのやつらはすっかり認めてるように見えるのだが?」
「その歳で、アレに対応できるんだからなたいしたものだ」
「そうだそうだ」
周りが一斉にリチャードに賛同する
アクロス「うるさい! 今は私がギルドの責任者だ私の指示に皆従っていればいいのだ!」
「あー、全く、お前をサブにしたのは間違いだったようだな」
1人のフードを被った男がアクロスに近づく
アクロス「お前はまさか・・・」
おもむろに男はフードを取り去る
リチャード「なんだ、ガルドだったのか」
ガルド「いよう、リチャード久しぶりだな。まぁ、再開の話しは後にしてくれ。今、身内の不祥事の処理をするんでな」
リチャード「あいよ」
ガルドはアクロスの方に向き直る
ガルド「アクロス、随分俺の居ないあいだに好きかってやってくれたな」
アクロス「しかし、これは新人の力量を図るためであって・・・」
ガルド「それにしてもやり過ぎだ。どこの世界に新人の力量を図るのに中位の悪魔まで呼ぶのか」
アクロス「・・・」
ガルド「それにさっきの発言も頂けないな。日本人がどうだの。俺に従えだの。人の上に立つものの発言じゃない。まぁ、今回はこのお嬢ちゃんが無傷だったのを考慮して、アクロスお前にはハンタークラスAの降格を言い渡す。もちろんサブマスターは解任だ。意見はあるか?」
アクロス「・・・いえ、ありません」
ガルド「では、ギルドに戻れアクロス」
アクロス「はっ」
アクロスが居なくなりガルドは栞達の方へ向いた
ガルド「悪かったな、うちの者が迷惑をかけたようで」
栞「気にしないでください。それにアクロスさんのおかげで私はここでの地位が確保できましたから」
ガルド「ほぅ、なかなか言うじゃないか。時にお嬢さん、俺の目にはかなりの腕前と見たんだが、日本でのハンターズランクはどのくらいだったんだい?」
栞「えっと・・・」
栞はどうしましょうと言った顔でリチャードを見る
リチャード「まぁ、別に良いんじゃないか?言っても」
栞「クラスAA+です」
「なっ!」
ギャラリーが一様にして栞から一歩引く
栞「やっぱりこうなるんですね・・・」
がっくりとうなだれる栞
ガルド「リチャード、なんでこの娘は気を落としてるんだ?」
リチャード「まぁ、とりあえずギルドに戻ろうや。色々とギルドで話してやるよ」