WOA外伝〜虹色の弾丸〜
第四話 探索者
栞はゾンビの海をかき分け、ようやくリチャードの待つ警察署の駐車場までたどり着いた
栞に付いてきた要救助者も無事だ
駐車場には周囲を警戒しつつ栞を待っていたリチャードがいた
リチャードは栞の姿を見るとようやく警戒を解き、栞に声をかけた
リチャード「きっかり2時間だ。よくやった」
栞「はい!」
リチャードは栞の頭を撫でてやった
ふと、また子供扱いをしてしまったことにリチャードは気づくが
栞は満足げな顔を浮かべているので胸をなで下ろした
栞が到着と同時に先程聞こえていたヘリが到着した
リチャード「急げ!ここもいつまで持つかわからん!」
リチャードは要救助者をヘリへと誘導する
乗り込んだ要救助者に栞が駆け寄った
栞「先程の質問ですが・・・」
先程の質問というのは、栞はいったい何者なのかということ
栞「私はハンター。魔法使いであり、ガンナーです」
「ハンター?」
栞「残念ですが、それ以上は答えられません。それに、もうしわけありませんが私たちに出会ったことは忘れていただきます」
栞はリチャードに目配せをし、その意図を汲んだリチャードがこぶし大の機械を取り出す
この機械はメモリイレイサー
文字通り、対象の記憶を消す魔導具である
原理は魔力によって簡易的に時間に干渉し任意の時間帯の記憶をそっくり無かったことにするもの
時間に干渉するのは非常に難しい技術ではあるが、短時間の出来事なら操作できる
リチャード「悪いな、我々の存在を口外されては困るんだ・・・我々のことは知らない方が安全だからな」
そういうと、リチャードはその機械を救助者に向けると、凄まじい光が発せられた
その光を浴びた救助者は、意識が遠のいていった
栞「では、よろしくお願いします」
ヘリのパイロットはその言葉に親指を立てて応え飛び立っていった
無事に救助者を送った栞達にはまだ仕事がある
むしろここからが本番である
この街をこんな状態にした真相を暴かなくてはならない
しかも、このあとまた要救助者がいないとも限らない
そうなれば、今回のような救助方法はとれないだろう
今回はたまたま外でたまたまヘリが降りてこられる広場があった
条件はかなり良かった
しかし、今後は救助者と共に行動をしなければならないだろう
栞は一瞬、不安がよぎる
だが、すぐに気合いを入れなおす
目に映る人をすべて助けたい
日本にいるとき、自分は死の淵から助けられた
今度は、自分が誰かを助けたい
栞「先生、捜索を続行します!」
リチャード「うむ。栞、お前はこの警察署の中を探索しろ。うまく弾薬庫を見つけることが出来れば弾薬には困らないだろう」
栞「はい。先生は?」
リチャード「俺は、この警察を中心に周辺の探索を行う。俺が思うにこの警察署を中心になにかありそうだからな。それと・・・」
栞「?」
リチャード「その先生はやめろと言っているだろう」
栞「何言ってるんですか。先生は先生です。私に色々教えてくれる先生に変わりはありませんから」
栞は、日本にいるときにリチャードから銃の訓練を受けているときからリチャードを『先生』と呼んでいる
呼ばれている本人は、呼ばれ慣れていないせいか、それを嫌がっているが栞はお構いなしに呼んでいる
リチャード「まったく。その話は、これが終わったらゆっくりさせて貰うぞ」
栞「はい」
言葉にしていないが、これは約束
次へ繋がるための約束
生きて帰る
リチャードは栞にそう言いたかったに違いない
そして、栞もその意図を汲んで返事をした
栞「人気が・・・ないですね」
エル「気をつけろ栞。すべての感覚を上げておけ」
栞「了解」
警察署に入るとまず、大きなエントランスが目の前に現れた
中央にはおおきなオブジェ
そして、両端に円を描くように階段が付けられていた
そして、前方両端には扉がある
入り口から見えるのはこのくらいであった
あとは、歩を進めて確認していくしかない
栞「エル、行きます」
まずは一階から
部屋という部屋をくまなく探索する
道中、なぜか窓が板張りになっているところに差し掛かった
栞「なぜ、板張りに・・・?」
エル「今の状況から考えるに、外部からの侵入を防ぐためといったところか」
そんな会話をしていると突如板張りの隙間から無数の手が飛び出してきた
栞「!」
とっさに後ろに飛び退く
エル「栞、どうやらこの板張りの向こう側はゾンビどもがうようよいるようだ。気をつけろ」
栞「はい。エル、この板張りはどうやらゾンビの侵入を防ぐためのようですね」
エル「ああ、それで間違いないだろう」
栞「ということは、この板張りを打ち付けた人はゾンビがここに発生すると分かっていたのでしょうか」
エル「うむ、その推測はあながち間違いでは無かろう」
すると分からないことがある
ゾンビが発生することが分かっていたのならなぜ事前に対処しなかったのか
対処できなかったのか、それとも対処することが無駄だと分かっていたのか?
栞「分からないことが多すぎます」
エル「そうだな。栞、探索を続けよう。なにか手がかりがあるのかもしれん」
栞「はい」
栞は一階の探索を続けた
リチャード「さて、俺も仕事を続けるとしよう」
栞が警察署に入ることを確認したリチャードは周囲の探索を始めた
いるのは、ゾンビと皮膚がただれ骨が見え始めている犬
そして、異様に攻撃的になっているカラス
リチャード「全く、地獄絵図だなこりゃ・・・ん?」
ふと、遠くからヘリコプターの様な音が聞こえてきた
どうやら、先程のヘリとは違うようだ
リチャードはふと嫌な予感がし、ギルドに連絡を取る
リチャード「ギルド、応答願う!」
「こちら、ギルド。どうしましたか?」
リチャード「所属不明のヘリコプターを確認。先程救援に来たヘリは無事か?」
「お待ちください・・・はい、ビーコンをかくに・・・!」
その瞬間、大きな爆発音が聞こえた
リチャード「どうした!」
「ビーコン消失!」
リチャード「なんだって!?まさか!」
「救援ヘリ撃墜を確認。ですが、パイロット、要救助者ともに無事の連絡有り」
リチャード「そうか」
救援ヘリに乗っているパイロットもハンターである
もしもの時のための対処の訓練も積んでいる
リチャード「パイロット、要救助者を救援、また陸路にて搬送を要請する」
「了解、パイロットにはその場で待機するように伝えます」
リチャード「頼む、どうやらこっちにはそのアホたれが来たようだ」
先程から聞こえてたヘリの音がこちらに近づいている
リチャード「ギルド、今回の件、なにかがおかしい。諜報部に探りを入れさせてくれ。こちらも何か情報が入り次第報告する。以上」
「了解、お気をつけて」
一方、栞は警察署内一階の捜索を続けていた
途中、署内にもゾンビがいたが、適切な対処によって事なきを得ている
しかし、不可解なことに、すでに事切れているゾンビも数体いた
状況が未だよく分からないまま栞は、探し求めていた場所にたどり着いた
ドアにはネームプレートが掛けられているが・・・
栞「むに・・・?」
エル「Munitons deport(ミューニションズ デポート) 弾薬庫だな」
栞「す、すみません。エル。英語は全然分からなくて・・・」
エル「気にするな。そのための私だ」
エルは瑞穂によって栞のサポートをするためにすこし改造されている
先程の英語の翻訳も瑞穂が付けた追加機能である
栞「弾薬庫ならば、ここで補給ができますね」
エル「そうだな。緊急事態だ。利用させて貰おうか」
栞「はい」
栞は弾薬庫の中へと入っていった
中はびっしりと拳銃の弾、散弾、ライフル弾などが敷き詰められていた
エル「ほう、これならば補給に困らないな」
栞「ですが、必要分だけ頂いていきましょう」
エル「栞、念のためそこにある、リロードツールも持って行くと良い」
栞「あ、はい」
リロードツール
薬莢(やっきょう)に火薬を詰め、弾薬として使うために必要なツールで
火薬の調合次第では強力な弾薬を作ることが出来るのである
栞「よし、補給完了です」
エル「それでは、ここを拠点に先に進むとしよう」
栞「はい」
栞は弾薬庫を出て二階へと上がった
二階に上がると栞は少し違和感を感じた
栞「エル・・・。私より先に誰かがここにいたようです」
エル「うむ、そのようだ」
栞は床にある何かを引きづったような跡を見つけた
それは、つい先程付けられたようだったのだ
周りをみると2つの像が並んで立っていた
どうやら、片方が意図的に今の場所から違うところにあったようだ
栞「推測ですが、これ、何かの仕掛けだったんじゃないでしょうか」
エル「うむ、そう考えて間違いないだろう。しかし、一体誰だろうな」
少なくとも、ゾンビではないことは確かだ。
ゾンビは、今までの遭遇から知能が著しく低下していることが分かっている
そうなると、この像を動かしたのはゾンビではない人間
つまりは、ウイルスに感染していない人間と言うことになる
栞「要救助者でしょうか?」
エル「いや、署内にもゾンビはいた。そして、数体既に事切れているゾンビとも遭遇している。この状況からみるに、戦闘能力の持つ者がこの署内を探索していることになるな」
栞「敵・・・でしょうか?」
エル「わからん。しかし、用心と覚悟はしておけ」
栞「覚悟?」
エル「一般の人間と戦う覚悟だ」
栞「!」
エルの一般の人間とは、ハンター以外の人間と言うことである
栞は、ハンターの人間はおろか、一般の人間と戦闘をしたことがない
本来であるならば、出来うる限り回避するのが鉄則ではあるが、やむを得ない場合もある
その際は、決して一般の人間を殺してはならないというのがギルドの掟である
栞にはまだ、その覚悟が未だ弱かった
エル「心配をするな、お前はリチャードから最高の銃技をたたき込まれている。それを信じろ」
栞「・・・はい」
エルは不安そうな顔をする栞を励ますが、
栞は自分が、相手を殺さずに戦闘解除ができるというイメージが湧かなかった
エル「あまり深く考えるな。今はただ、ハンターとして最大の仕事をするべきだ」
栞「はい・・・了解です!」
栞は気合いを入れ直した
いくら考えても悪いイメージが払拭できない
ならば、いっそのこと今の現実に没頭してしまった方がよっぽど良いのではないかと考えたからである
一般の人間と戦闘になってしまったらその時はその時である
そう、エルが言っていたように今はハンターとして最大限の働きをするべきだ
栞「エル、すみません。もう、大丈夫です。探索、再開します」
エル「うむ」
栞はハンターとしての技術は高い
しかし、メンタル面がまだ弱い
今回の仕事が、栞を大きく成長させることになるとは本人も、エルもまだ知らない・・・
一方リチャードの方は先程のギルドのヘリコプターを墜落させたであろう者を対峙するための準備をしていた
先程のサイコキネシスを使って遮蔽物を配置
得体の知れない者からなるべく身を隠すためだ
まずは様子をみてからでも遅くはない
リチャードは配置したパトカーに身を潜めた
リチャード「さてと、そろそろ来るな・・・」
ヘリの音はすぐそこまで来ていた
サーチライトを照らしながらヘリはリチャードのいるところからすぐそばの場所でホバリングを始めた
突如、ヘリの扉が開き何かが飛び降りた
リチャード「おいおい、20メートルはあるところから飛び降りやがったぞ」
ドーンという大きな衝撃音を立ててそれは地面に落ちた
それを確認したヘリはすぐさま去っていった
一体何が落ちたのかとリチャードが確認のためにパトカーから少し身を乗り出すと
2メートルはゆうに超える大男が直立不動で立っていた
リチャード「おいおい、あの高さから落ちてびくともしてないだと・・・?」
その大男は容姿が些かおかしかった
体をすっぽりと覆ってしまっているコートを身につけ、顔面は人間の者とはとても思えなかった
リチャード「なんだあの怪物は・・・」
そう、あれは人間の格好をしているが、間違いなく怪物だった
リチャード「ふむ、一度試してみるか」
リチャードは隠れているパトカーから飛び出すとホルスターから銃を取り出し
大男に向かって撃ち込む
一瞬動きが止まるが、すぐにリチャードの方を向く
リチャード「ちっ、全然効果なしかよ。しかも見つかったか」
大男は持っていたロケットランチャーを構えるとリチャードの方へ向かって躊躇なく撃ち放った
リチャード「冗談だろ!」
咄嗟に飛び退いてなんとか回避するが周辺の遮蔽物が使い物にならなくなった
リチャード「参ったなこりゃ・・・」
次の手を考えてると・・・
「こっちよ!」
リチャードの後方から声がした
暗がりでよく見えなかったが、どうやら退路を確保しているようだった
リチャードはとりあえず、その声に従い、その場から撤退した
後ろ姿から華奢な女性であることがわかった
しかし、この惨状の中で単独で行動している
それだけでも、ただ者ではないことがわかった
その証拠に両腰のホルスターに銃が装備されている
その割には随分と軽装だが・・・
リチャードはその女性から警戒を解くことなく
後をついて行った
愛弟子の安否を想いながら・・・