第参話
神を信じると云うこと


まひろ「困ります、神様とあろうものがこんなところに居られては」

ちとせ「どうしてよ?」

ちひろ「どうしてって…」

ちとせ「わたしは智也がいるから平気。神社は智也の鬼がいるから平気」

智也「まぁまぁ、二人とも。これくらいで勘弁してください。ちとせ様がここにいるのはわたしの案内をしてくれたのですよ」

まひろ「しかし…」

智也「私だって、神主の端くれです。神様が神社に居られない事の重大さをよく分かっています。ですが、ちとせ様がここに居られたおかげであなた方が助かったことを忘れてはいけません。ちとせ様は神様です。ここ一帯に住む住人の事をよく考えておられます。私に付いてきたのも私の案内と称して異常がないか見ておられたのですよ」

まひろ「…」

智也「でも、勘違いをしてはいけません。神様は無限の力を持っているわけではありません。神様が私たちを守る力、神通力は私たちが神様を信用、大切にする心によって生まれる力です。つまりは、私たちは神様を通して私たち自身で私たちを守っていると言えるのです」

ちとせ「智也、もういいよ」

私の服を引っ張って、ちとせ様が私を制止する

双子の二人を見ると相当堪えたようだ
下を俯いてしまっている

────もしかして、言い過ぎたか?

智也「あ〜、申し訳ない。つい、言い過ぎました」

私が謝罪の言葉をかけると二人同時にスッと顔を上げこちらを真剣な顔して見ている

まひろ「いえ、私たちこそ、浅はかでした。智也さんの仰るとおりです。今日はこれで失礼いたします」

そう残すと二人はあっという間に闇に消えていった
あ〜、何だったんでしょうか。あれは…
最後は随分素直でしたが…
まぁ、考えていても仕方ありません。帰りましょうか

智也「ちとせ様、帰りましょうか」

ちとせ「うん」














帰ってすぐに善鬼に神社の入り口に置いてあった重いものを持ってもらい、中へと運ぶ
運び終わってすぐに、夕食の準備を手早く済ます

智也「はい、出来ましたよ。ちとせ様」

ちとせ「ん」

今日の夕食は、ご飯にみそ汁、豚肉の野菜炒め、そしてたくあんの漬け物
急いでいたのでこんなものしか作れなかった

ちとせ「そんなことない。とてもおいしそう」

そういってくれると、作った方はうれしい
って、また心、読まれてるし

ちとせ「うん、おいしい♪」

どうやら、ちとせ様には気に入ってくれたようだ

夕食が済み、洗い物も一通り終わった後、神社の境内に出た
懐から、符を取り出し、印を切る

智也「来たれ、我が式神、善鬼・護鬼!」

昼間呼び出した、背の高い善鬼と一緒に
今度は、外見は15歳ほどの少女の鬼も呼び出した
まずは、善鬼の方を向く

智也「昼間はご苦労でした、善鬼」

善鬼「労いの言葉、痛み入ります」

次は少女の鬼の方を向く
彼女の名前は護鬼
背は大体150pほど
善鬼と違って護鬼には角がない
いや、正確には見えないのだが…

智也「すみません、護鬼。なかなか、呼んであげられませんで」

護鬼「ん? いいの、いいの。智也、今日は忙しかったもんね」

護鬼は善鬼とは正反対な性格をしている
善鬼が剛なら、護鬼は柔

智也「そのお返しと言っては何ですが、久しぶりにお相手していただけませんか?」

善鬼「ほう…」

護鬼「うん、いいよ」

私は時々、善鬼、護鬼あいてに組み手を行う
自分の鍛錬のためと、組み手を通してこの鬼達との
信頼関係を築いているのだ

智也「二人いっぺんにで構いませんよ」

静かにそして、緩やかに構えを取る

善鬼「手は抜きませんぞ?」

智也「構いません」

護鬼「じゃあ、いくよ!」

まずは、護鬼が私に向かってくる

始め、突進から左手突きを後ろへ飛び退いてかわす
続いて、踏み込みからの上段回し蹴りをしゃがんでかわすと同時に
その状態から反撃、後方宙返り蹴りを放つ

護鬼「おっと!」

寸でのところで、護鬼は回し蹴りをしていた軸足を崩し後方へ倒れ込むように攻撃をかわす
宙返りした私が立ち上がり、次の攻撃に移る前に善鬼が目の前に迫っていた
立ち上がったばかりの私に善鬼が足を大きく振り上げかかと落としを放ってくる

智也「!?」

身を引いてかわそうとしたのだが、ほんの一瞬、体が言うことを聞かなかった
そのせいで、善鬼のかかと落としの対応が遅れた

すでに、かわすには遅すぎる状態になっていた。受け止めるしかない

智也「ぐっ!」

とっさに呪を使って腕との間に障壁を形成して衝撃を和らげたが、それでも
かなりダメージを負わされてしまった

それを機として護鬼が回り蹴りを放ってくる
腕は善鬼のかかと落としを防ぐために使っている
となると、空いているのは足

護鬼の回し蹴りにあわせて足でそれを防ぐ
その勢いで善鬼の攻撃を防いでいた腕を解放する

双方に距離を置くことが出来たので、ここから反撃に出る

智也「反撃、行きますよ!」

まず向かうは善鬼
高速で距離を縮め、相手の鳩尾付近に掌底を繰り出す
善鬼はそれに合わせて、掌底を払おうとするが
それこそ、勝機
さらにそれに合わせて善鬼の後ろに回り込む

智也「破っ!」

気合いとともに、掌底を背中にたたき込む

善鬼「むぅっ」

前屈みに跪く善鬼を横目に次の目標を見定めようとするが
見あたらない

すると、上の方から気配を感じ咄嗟に飛び退いた
護鬼が上空から攻撃を仕掛けてきたのだ

攻撃をはずした隙を見て、水面蹴りを放つ
しかし護鬼はそれを飛び上がってかわす

それを追いかけるように自分も飛び上がり
後ろ回し蹴りを放つ
護鬼はそれを防御するが、空中で受けたため
吹き飛ばされる

護鬼「あいたた…」

吹き飛ばされて地面に叩きつけられた護鬼は
お尻をさすりながら起きあがった
どうやら、たいした怪我をしていないようだ
というか、式神なのでそうそう、怪我はしないのだが

ん? 神社の方から気配を感じる
ふと、見てみるとそこにはちとせ様が居た

智也「ちとせ様、どうしましたか」

組み手を中断し、ちとせ様に近づく

ちとせ「うん、外が騒がしかったから、見に来た」

智也「すみません、もし、気に障るようなら今後、ここでの鍛錬はいたしませんが…」

ちとせ「気にしなくていいよ。ただ、その時は私も居るから」

智也「それは構いませんが…」

ちとせ「うん♪」

あ〜、なんかすっごくちとせ様が嬉しそうだ

善鬼「主殿、続きをなさるか?」

智也「いや、もう終わりにしましょう。今日はいろいろありましたから、疲れました」

今になって気づいたのだが、意外に体の方は疲れているようだ
先ほどの二人との組み手の時もそうだが、体の反応がいつもより遅い

護鬼「智也、大丈夫?」

護鬼が心配して私の顔をのぞき込んできた

私はそんな護鬼を笑いながら頭を撫でてやる

智也「大丈夫ですよ。一晩寝れば回復するでしょう」

護鬼「そっか、じゃあ、おやすみ智也」
















ちとせ様が私の部屋を与えてくださったので
ありがたく、そこを使わせてもらうことにした

今日は本当にいろいろあった
いろいろな人にも会った
この神社の神様、街の人、双子の姉妹

明日から、本格的に神主として行かなければならないが
どうやら、なんとかやっていけそうな気がする

今日はもう寝よう
疲れのせいもあってすんなり眠れそうだ

布団に入り、目を閉じるとさほど時間もかからず
意識は落ちていった


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