
第弐話
闇に蠢くモノ
智也「う〜む」
私は腕を組み唸った
先ほど、ちとせ様にこの神社の中を色々と案内してもらったが
なにせ、長い間ちとせ様しか生活していなかったせいか
生活用品がほとんど無い
いや、一応あるにはあるが、古すぎて私には使い方が分からないものばかりなのだ
掃除は毎日、ちとせ様がしていたと言っていたとおり
綺麗なものだが、さすがにこれでは、私が生活できない
幸い、なぜか電気は通っているのでモノさえあれば何とかなりそうだ
もう、そろそろ夕方になってしまうが仕方ない、少し仕入れをしてくるか
智也「ちとせ様、申し訳ありませんが少し買い出しに行ってもよろしいですか?」
私の横に立っていたちとせ様に許可をいただく
ちとせ「私も行きたい」
また、この神様は無理な事を言う
智也「ちとせ様はここの神様なんですから、そうそう神様が居なくなるわけにはいかないでしょう?」
ちとせ「行きたい」
智也「ちとせ様!」
ちとせ「行きたいの!」
ああ、ダメだ。
この神様は、一度言ったら聞かない
う〜む……まぁ、いいか
智也「────分かりました。その代わり、これに留守番をさせましょう。それでいいですね」
私は懐から、符を一枚取り出す
それを人差し指と中指に挟み、呪を唱える
智也「来たれ、我が式神よ。善鬼!」
スッと前方にはなった符がかき消え、その代わりに頭に角の生えた鬼が現れた
善鬼「お呼びか、主殿」
智也「すみませんが、しばらくこの神社の守護を頼みたいのです。聞いてくれますか?」
善鬼「御意」
善鬼はそう答えると、すぅっと姿を消した
おそらくは、自らの考えで長く自分の姿を見える状態にしておくのは良くないと判断したのだろう
これで、ここの守護は大丈夫だろう
さぁ、行こうとちとせ様の方を見るとその方は私の方を凝視している
はて、何かやらかしましたか? 私は
ちとせ「智也、鬼を操れるの?」
ああ、それでしたか
私が召喚した鬼、善鬼、それともう一つの鬼、護鬼
これは、私が幼少の頃より使役していた式神
どうして、この二つの式神を使役できるのか
実は私自信もよくわからない
気づいたときには私はこの鬼達と共に暮らしてきた
一説によればこの二つの鬼はかの有名な陰陽師、安倍晴明が使役していたと言われるが
私の家系には、安倍晴明に繋がる家系はない
よって、私の親やら親戚達もなぜ、私が善鬼・護鬼を使役できるのか全く分からないのだ
智也「ええ、まぁ。小さい頃からの縁です」
有耶無耶な返事をしてしまったが、これは事実なので嘘は言ってない
ちとせ「そっか。それじゃ智也、早速買い出し行こ」
どうやら、ちとせ様は私のこの答えに満足してくれたようだ
そして早く早くと私を急かしてくる
石段の入り口まで進んだ後、ここに来たときの事を思い出す
智也「────あぁ、長いんでした、この石段」
これから、あの長い石段を下りるのかと思った途端
日が暮れるまでに帰ってこられるのか? と思ってしまった
ちとせ「それは、私が結界張ってるから。智也には結界外しておくね」
ほぼ無意識に、口から漏らしてしまったのがちとせ様に聞こえてしまったようだ
なるほど、来るべき者ではない者を避ける結界ですか
人は行きたいところにどうしても行けない場合がある
それは、その人がまだその場所に行くべきではないとの暗示だと言われている
つまり、この石段の結界は来る者が来ればどんなに時間がかかろうと
登り切る事が出来る
逆に来るべき者ではない者は、どんなに努力しても登り切る事は出来ない
ちとせ様が、石段の降り口に立つと
すぅっと左手を右から左へ振る
ちとせ「智也、石段の下の方見て」
言われたとおり、ちとせ様の横に立ち石段の下を見る
ちなみに、登る前に下から石段を見上げたときは
頂上は見えなかった
だが、今はさほど遠くない距離で下が見える
智也「おお、これなら時間もかからずに降りられますね。ありがとうございます、ちとせ様」
ちとせ「ん」
私がお礼を言うとちとせ様はものすごく嬉しそうな笑顔になった
智也「では、参りましょうか」
私は、ちとせ様の手を引き石段を下りていった
智也「やれやれ、やはり暗くなってしまいましたね」
いろいろと買い出しをしながら挨拶回りもしたのでかなり時間を食ってしまった
ただ、横にいるちとせ様のおかげで驚かれるやら、からかわれるやら
どうやら、街の人がこの方が、神様だという事を知っているようだった
まぁ、街の人がちとせ様を嫌っていない事が分かっただけよしとしよう
今持っているのは、とりあえず、今晩の夕食になる食材だけ
あとの現在の最低限必要な電化製品は店の人に配送してもらう事にした
さすがに、神社の入り口の石段の近くに置いてと頼んだら変な顔をされたが
仕方ないだろう。配送業者の人はあの神社には登る事が出来ないから
まぁ、電気屋の社長さんが事情を店員に説明してくれたので納得してくれたけど
ちとせ「ねぇ智也、早く帰ろ」
ちとせ様が私の服の裾を引っ張って帰りを促している
智也「あ、すみません。そうですね、早く────」
「「きゃあぁぁぁぁぁああぁぁ!」」
私の言葉は突然の悲鳴にかき消された
智也「! 今の悲鳴は」
ちとせ「智也!」
智也「はい!」
ちとせ様に促され、悲鳴の聞こえた方向へ走る
私は全力疾走しているはずなのだが、なぜか私の隣にはちとせ様が居る
さすが神様、あり得ないことをしていらっしゃる
もうほとんど暗闇と化している住宅街を突き進んでいく
すると、二人の女の子が道の真ん中でへたり込んでいた
服装もなにやら、巫女のような服装をしている
なぜ、こんな時間にこんな格好をして女の子がここに居るのか不思議に思ったが
周りにこの世の者ではない者が浮遊していた
智也「あれは、妖魚?」
頭以外はすべて骨の状態の妖魚と呼ばれる低級の妖怪が二人の女の子の周りを大量に浮遊していた
一つ一つはさほど問題になる事はないが、群れをなすと一変して厄介な相手になる
大量に群がられる事で、まず障気に当てられ身動きが取りにくくなる
そして、動けなくなっているところを一気に襲いかかられる
私が見つけたときの状態は、獲物に襲いかかろうとする直前だった
もはや一刻の猶予もない
素早く、印を結び呪を唱える
智也「邪なる者に光の戒めを、正しき者に聖なる加護を! 滅・消・光・裂・爆────破邪光滅印!!」
辺りに眩い光が降り注ぐ
その光に触れた妖魚は光の中に溶けてゆく
しばらくすると、二人の女の子の周りの妖魚は完全に消滅した
改めて、女の子の様子を確認する
……固まってますね
智也「もしもし、大丈夫ですか?」
彼女たちの目の前に立って声をかけてみるが反応無し
もしかすると…
智也「障気に当てられすぎみたいですね」
ちとせ「智也、ちょっと退いて」
ちとせ様が私と女の子の間に割り込んでくる
退けといわれたので素直に退ける
ちとせ「大丈夫。もう大丈夫よ」
手で扇ぐように女の子の周りを祓う
間もなくして二人同時に意識が回復する
智也「二人とも大丈夫ですか?」
改めて私が彼女たちに問いかけると「はい」と元気に答えてくれた
話を聞くと、二人は退魔師の卵だそうだ。
いつもは彼女たちの師である彼女達の祖父と共に退魔を行うそうだが
今夜は、彼女たちだけで来てしまったそうだ。
修行中に起こりやすい、自身の能力の過信が起きてしまったのだろう
智也「えっと、それで君が────」
まひろ「杜若(かきつばた)まひろです」
智也「で、こっちの方が────」
ちひろ「杜若(かきつばた)ちひろ!」
二人は双子だそうだ
見分けとしては、姉であるまひろちゃんの方が髪が長く、おっとりとした印象がある
妹のちひろちゃんは髪が短く、活動的で元気がいい
とりあえず、今の時点でこれくらいしか分からない
まひろ「遅くなりましたが、助けていただきありがとうございました。それで、えっと…」
智也「ああ、私の名前ですね。私は水無月智也」
まひろ「水無月さん」
智也「ああ、名前でかまいませんよ。堅苦しいのは好きではありません」
まひろ「はい、智也さん。────あの…智也さんはどこからいらっしゃったんですか?」
智也「これは失礼。私は、富士の麓にあります富士霊照宮からこの街の水裳神社に神主として派遣されました」
ちひろ「ああ、それでお兄ちゃん法術が使えるんだ」
法術というのは先ほど妖魚を祓った術の事だろう
それにしても、ちひろちゃんはいつの間にか私の事を『お兄ちゃん』と呼んでいる
もともと、兄弟の居ない私にとってはそう呼ばれる事に嬉しくも思うが恥ずかしいと思う方が大きい
智也「ええ。私の術は主に陰陽術がベースになってます。ですから、神道、仏道、風水、卜占など様々な法術が取り込まれています」
後ろ頭をポリポリと掻きながらそう説明する
まひろ「でも、水裳神社は上れないって聞いた事がありますが…」
ちとせ「上れないのはその人が今上るべき時ではないから。智也は今必要な人、だから神社に上れるのよ」
まひろ&ちひろ「!!」
彼女たちの邪気を祓ってからずっと私の後ろに隠れていたちとせ様がひょこっと顔だけだし二人に説明する
突然現れたちとせ様に驚いたのか、はたまた神様がこんな所にいるのが驚いたのか定かではないが
二人とも口をぱくぱくさせている
言う事を言ったらちとせ様はまた私の後ろに隠れてしまった
智也「えっと、まぁ、今のはちとせ様と言って…」
まひろ「それは存じております」
ちひろ「それよりも私たちが聞きたいのは…」
「「なぜ、神様がこんな所いらっしゃるのですか!!」」
あちゃあ、やっぱり怒られましたよ。ちとせ様
ちとせ「ん?」