彼女は目の前で起きたことが理解できなかった

いや、頭が目の前で起きている現実を拒否した

大切な妹が銃で胸を撃ち抜かれた現実を……

頭の中は一瞬にして銀世界

何も考えられなくなった

でも、目という情報収集機関が次々と

現実を脳に叩き込んでくる

胸を打たれ、倒れ込んでいく妹……

それが……

腹が立つほどゆっくりに見えた

Wind Of Alchemist 

〜錬金術師の風〜  魔銃エルトリム

香里「いやぁぁぁぁぁあああああ!」

銃声の後の静寂を打ち破ったのは香里の絶叫だった

リチャード「ミズホ、お前……」

瑞穂「なに?」

瑞穂は栞を殺したというのに平然な顔をしている
リチャードはそれに驚いた

一緒に仕事をした期間は短かったが
その間、ただ一人として瑞穂は人を殺さなかった
それが、どんな極悪人でも……

しかし、この中で、瑞穂の他にもう一人平然としている者がいた

祐一「香里、落ち着け」

香里「っ───! これの何処が落ち付けって言うのよ! 栞が……栞が……」

近くに寄った祐一を振り払うかのように拒否した

祐一「いいか、良く見ろ。栞は死んじゃいない」

香里「えっ?」

祐一「師匠が撃ったのは浄化作用のある聖弾で実弾じゃない。栞の命には別状無い」

祐一は以前、瑞穂が仕事で悪魔にとりつかれた男の子に
聖弾を打ち込むことによって救っていたところを見ていた

聖弾は、祐一が言っているとおり、実弾ではない
分かりやすく言えば魔力を圧縮させた
いわばエネルギーの固まりなのだ

たとえ、肉体に打ち込まれたと言っても肉体的ダメージは皆無
しかし、聖弾の名の通り、光の属性に弱いもの、悪魔などにはこの上ない強力な武器なのだ


瑞穂「う〜ん、でもただの聖弾じゃなかったのよね」

瑞穂は指でクルクルと銃を回しながら栞に近づく

リチャード「───! お前、その銃……」

瑞穂「そ、魔銃エルトリム。まぁ、今ので所有が私から栞ちゃんになったけどね」

リチャード「どういう事だ」

瑞穂「あら、知っているのは名前だけなの? ───今の聖弾ね、契約弾でもあるのよ。魔法蟲を飛ばしたときにおそらく魔力のキャパシティもごっそり持って行かれると思ったからね。それを防ぐのにエルトリムと魂を繋いだのよ。エルトリムにはね、契約者と魂を繋ぐことによって契約者を外傷以外のダメージから守る能力があるのよ」

瑞穂は倒れている栞の近くに銃を置く

魔銃エルトリム
元々の制作者は不明だが、損傷していた銃身を瑞穂は数年がかりで修復した
依頼、瑞穂が契約者として使われていた

リチャード「ふっ、なるほどな。安心したぞ。お前に殺しは合わん」

瑞穂「ええ、自分でもそう思うわ。でも、こうまでしないと貴方に隙が出来ないでしょ」

リチャード「全くだ。しかし、そういうお前も隙だらけだ」

瑞穂「っ! まさか!」

ここで、一つ瑞穂に誤算が生じていた
リチャードの娘の魂の波長と同調しているのは栞だけだと思いこんでいたこと
もちろん、調べようと思えば分からないことではなかった
しかし魂の波長は調べようとしなければ分からない

リチャードは香里も魂が同調していることを知っていた
香里を選ばなかったのは潜在的な魔力保有量も含めて栞の方が上だったからである

リチャードの思惑としては、香里を媒体にしても周りのバックアップがあれば
魂の強制入れ替えは成功すると踏んだのだ

ちなみに、魂の波長が同じ者は極めて少ない
今回、美坂姉妹がリチャードの娘と魂の波長が同じだったのは全くの偶然である


香里「きゃ!」

リチャードはすっかり安心しきって隙だらけになっていた香里を捕らえた
近くに祐一が居たのだが、彼ではそのスピードを捕らえることが出来なかった


リチャード「さて、それでは始めよう。契約に基づき、命を生みし母なる大地よ、逃れぬ鎖で縛れ!グラヴィティダウン!」

魔法陣の中央に移動した香里を中心に瑞穂、祐一を地の魔法で縛り付ける

瑞穂「……」


さて、ここまでは思惑通り
あとは、貴方が自分で香里さんを救ってみなさい
栞ちゃん……
























栞「う……ん」

ゆっくりと目を開ける
そこは知らない部屋だった


あれ? ここどこだろう
なんで、私こんな所で寝てるんだろう


周りを見渡す
とそこには、知らない人が1人
見たことのある人が1人
それに大好きな人が2人

栞「───! お姉ちゃん! 祐一さん!」

どういう訳だか知らないが3人が床に何かに押しつけられるように悶えている

栞「どうしたら……」

なんとか助けなきゃと思うのだが方法が分からない
考えれば考えるほど頭の中は混乱していく

???「おい、そこで頭を抱えている娘」

栞「はい?」

誰かに声をかけられ見回すがそれらしき姿はいない

栞「空耳ですか?」

???「心配するな、空耳じゃない」

もう一度、辺りを見渡すがやっぱり居ない

栞「えっと……あの、もしよければ何処にいるか教えてくれませんか?」

???「なにを寝ぼけた事を言ってる。私はここだ」

栞「あのぉ、ここだと言われても」

人差し指を唇に当てて悩む

???「はぁ、全くミズホのやつめ、私にこの鈍感をくっつけおって……。まぁ、よい。私はこれだ。お前の足下に転がっている銃だ」

はて? とまだ不思議そうな顔をしている栞

???「もういい……。とりあえず、私を取れ。好きな人を救いたいのだろう?」

栞「あ、は、はい!」

「好きな人を救いたいのだろう?」
その言葉で栞は状況を思い出した
言葉を話しかける不思議な銃
どういう理屈で喋れるのか分からないが、今はそんなことを気にしている場合ではなかった

栞はこの銃を信じることにした

栞「はい、持ちました」

???「よし、では、手っ取り早く契約を済ませるぞ?」

栞「け、契約ですか?」

???「そうだ、今はまだ仮契約なのだ。これではお前は私を使うことが出来ない。娘、名は?」

栞「栞、美坂栞です。」

???「ミサカシオリ───うむ、良い名だ……。では、シオリ、私の後について詠唱しろ」

栞「は、はい」
                          ちから
???「契約せしは、我が魂と繋がれしこの銃────」
栞「契約せしは、我が魂と繋がれしこの銃────」

詠唱の開始と共に銃が光を帯び始める

???「────我と共に正しき道へと歩み、その能力を我に与えし其の名はエルトリム!」
栞「────我と共に正しき道へと歩み、その能力を我に与えし其の名はエルトリム!」

極限まで銃に帯びた光が栞に中に吸い込まれていく
そして、栞に変化が現れる
髪が銀髪へ
目の色が七色へ
そして右手に刻印

???「シオリ、契約はここに完了した。これより、我はお前の持ち物だ。我が名を教えておこう……我が名はエルトリム、魔銃エルトリム」

栞「エルトリム……」

エルトリムの契約は2段階になっている
まずは、契約者の肉体に特殊な聖弾を打ち込むことによって
その体に刻印を付ける
これが、肉体の契約

その次に契約の儀式
契約の詠唱を行い、
エルトリムと魂を同調化させ繋ぐ
これが、魂の契約

肉体の契約で契約者の肉体の守護を
魂の契約でエルトリムを使用することが出来る

これらを行うことによって体に変化が表れる
それは、人によって違うらしい
栞の場合は髪の毛、眼球の色に変化が現れた

エルトリム「そうだ。さぁ、主、お前の姉を助けるぞ!」

栞「はい!」



























祐一「ぐぅっ」

未だ、重力に縛り付けられて3人
それを機にリチャードは刻々と儀式の準備を進める


瑞穂「栞ちゃんはまだなの?」

床に這い蹲りながら何とか栞ちゃんの方へ向こうとする
高重力の影響か、空間が歪んで見えた

その歪んだ先に銀髪の少女が立っているのが見ることが出来た


栞「そこのおじさん、お姉ちゃんを離して下さい」

リチャード「?」

栞「離さないと……撃ちます」

エルトリムをまっすぐリチャードに向けて構える

リチャード「ほう、お前がその銃を使えるのか?」

口元を可笑しく歪ませ栞を見据える

エルトリム「やれやれ、本来であれば私の声は契約者のみに聞こえるのだが今回は特別に私の声をお前に聞かせよう」

リチャード「────!」

エルトリム「この娘をなめぬ方が良いぞ。ミズホが私をこの娘と契約させた意味が分かった。この娘、まさに私を使うための能力を保持している」

リチャード「……無色属性か」

エルトリム「その通りだ。本来であれば指向性の持たない無色の魔力は魔術師としては中途半端。しかし、それ故にどの色にもなることができよう。数種の属性の魔弾を撃つことの出来る私にうってつけの能力だ。お前、魔力探知をした際気づかなかったのか?」

リチャード「……」

リチャードは栞の魔力属性が無色と言うことを知っていた
が、それは魂の入れ替えを最重要の目的としていた
リチャードにとってそれは必要の無いことであった。

エルトリム「シオリ、まずはお前の姉を中心に展開している魔法を無力化するぞ」

栞「でも、私、魔法使えませんよ?」

エルトリム「心配するな、私を使え。先ほどお前の体内にいた魔法蟲を飛ばされた影響で眠っていた魔力が解放されている。それが分かるか?」

栞は目を閉じて、意識を体内に向ける
すると、全身を駆けめぐる
清らかで望めばどんな色にも染まりそうなものの流れを感じた

栞「何かの流れを感じます」

エルトリム「それがお前の魔力だ。それを銃を持ちつつ手に集めよ」

魔力を手に集めろと言われてもよく分からないので
とりあえず、手に意識を集中した

エルトリム「よし、うまく集まっている。次はその魔力に色を付ける。これから放つ魔銃技は地属性、色は茶色だ。うまくイメージしろ」

手に集まった魔力に絵の具で色を足すように染めていく
全体に色が染まった瞬間、それは銃に吸い込まれた

エルトリム「魔弾・アースブレット、ロード。シオリ、『フルートレス』と叫びながら姉を撃て!」

栞「……はい! フルートレス!!」

栞は一瞬、ためらったが先ほど、この銃のことを信じたのだ
迷いを振り払い、トリガーを引いた

エルトリムの銃口から眩い高エネルギー体の弾丸が放出される

それが香里に当たる寸前、弾丸が周りの高重力を解放してゆく
それは、香里だけでなく、祐一や瑞穂の縛りをも解放していた

瑞穂「よし!」

瑞穂はこの瞬間を待っていた
高重力状態が解放された瞬間
飛び出し、香里さんを救出した

リチャード「ちっ!」

リチャードはすぐさま、床に手をつき魔法を発動させる

リチャード「アースグレイブ!!」

手をついたところから瑞穂に向かって、床を突き抜けて岩の槍が突き進んでいく

瑞穂「────!」

瑞穂が防御魔法を放つ直前───

栞「リロード、サンダーブレット! エレクトリックスパーク!」

魔弾がアースグレイブを破壊した

エルトリム「シオリ、お前……」

エルトリムは栞の能力を見落としていた
栞の能力は、魔力の無色属性と膨大な魔力量だけではない
手にしたものの記憶を読み取る能力、リーディング
超人的な反応速度
おそらくは、姉を救いたい一心だったのだろうが
栞は無意識的にエルトリムの記憶を読み取り
新たな魔弾を装填し、魔銃技を放ったのだろう


瑞穂「驚いたわね、私より早く反応するなんて。しかも、ロードスピードがほぼ一瞬か」

栞「お願いです、これ以上お姉ちゃんを傷つけないで下さい。じゃないと私…何をするか分かりません」

香里「……」

香里は今の栞の姿を知らない

栞が契約を終えたとき香里は意識が混濁していた
しかし、香里はそれが、間違いなく栞であると確信していた
容姿は違うが、うちに秘めるものが栞であると告げていた

リチャード「お前が姉を救いたいと思うのと同じく、私も娘を救いたいのだ」

栞「でも、それはもう亡くなった方なんでしょ? 死んだ人はそう簡単に生き返らせるものではありません。奇跡なんて起きないんです」

リチャード「黙れ! 方法があるならば試さずにいられるか!」

栞「死んだ人を生き返らせるのは自然の摂理に反しています。もし、お姉ちゃんが死んだとしても私はそれを受け入れます。時間はかかるかもしれないけど……」

栞は少し俯いて銃を握る
しかし、その時間はほんの数秒

そして、リチャードに向かって自分の思いをぶつける

栞「残された貴方がすることは、亡くなった貴方の子のような、そして貴方のような親を決して増やす事じゃありません!!」

リチャード「────!」

一瞬ではあるが、リチャードは栞の姿が娘のエリナに見えた

栞「もし、それでも貴方が止めないというなら私は貴方を全力で止めます!」

強い意志と共にリチャードに光を放つ銃を向け、栞の目に光が灯っていく

リチャード「……ふっ、まさか、娘と同じ年頃の者に説教を受けるとはな」

リチャードの顔に笑みがこぼれる

栞「私も年上の方に説教をしたのは初めてです」

それにつられたのか、栞も微笑む

リチャード「しかし、それが一番堪えた。まるで、娘に言われているようだったよ……」

栞「それじゃあ……」

リチャード「ああ、お前の言うとおり、私がやろうとしていたことは自然の摂理に反することだ。────それにな自然が好きだと言っていた娘を裏切ることになる」

ゆっくりとリチャードは魔法陣に近づいていく
その姿は何かを決意したかのようだった

栞「───何を?」

その姿を見て、栞は一抹の不安を感じた
何かが起きると…

リチャード「始末を付けねばなるまい……」

彼は魔法陣に手を突き出し、体内の全ての魔力をそれに注ぎ込む

リチャード「くっ!」

栞「おじさん!?」

自分の不安は形になりつつある
それを感じた栞はリチャードに駆け寄ろうとするが

リチャード「来るな! 寄ればお前も魔力を吸い取られるぞ!!」

リチャードの怒声に栞は立ちすくむ

彼はすでに起動していた魔法陣を停止させるために自身の全魔力を用いていた
しかし、今の彼に出来ることはその魔法陣を抑制することだけだった

このままでは、魔力がつきてこの魔法陣は暴走を始めるだろう
その前に、何とか彼女たちをここから逃がさなければならなかった

リチャード「私の事はいいから、早く、そこに吊されている彼女達共々ここから逃げるんだ! 彼女たちはまだ生きている!」

栞「でも、それじゃおじさんが……」

リチャード「いいんだよ。私は悪いことをしすぎた。そのツケが回って来たのさ。───シオリと言ったな。色々とすまなかったな……」

栞に背を向け、リチャードは謝った

と────

ガクン!

洋館全体が揺れだし、崩れ始めた

瑞穂「祐くん! 香里さんと栞さん、それに女の子達を連れて先に出なさい!」

香里「先生!?」

リチャード「!? 何を言っている、ミズホ。お前も早く逃げろ、いくらお前でもこれを止める事など……」

瑞穂「祐くん! みんなを連れてフライでここから脱出しなさい」

祐一「でも俺……フライを使ったことありませんよ」

瑞穂「私が祐くんを連れて宙に浮いたことを思い出しなさい。この魔法はイメージが重要よ。大丈夫、今の祐くんなら出来るわ」

祐一は目を閉じ、自分と周りに居る香里達が空中に浮き上がるイメージを浮かべた
そして、魔法発動の詠唱を口にした

祐一「フライ!」

その瞬間、足下から風が巻き起こり、祐一達を宙へと舞い上がらせる

瑞穂「うん、うまくいったみたいね。祐くん! その子達、頼んだわよ!」

祐一「了解!」

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