バン、バン

早朝、学園の実技場の一角で銃声が響く
銃を撃っているのは栞
500メートル離れているターゲットに銃を放っている
傍らにはリチャードの姿があった

栞はすっかりと体力を回復し、ハンター学園に復学した
リチャードはあの後、瑞穂の計らいによりギルドに身を置くことになった。
彼が集めていた少女達はギルドを経由して全て元の家に帰った

その数日後、彼は栞を指導することを申し出た
能力を持つ者として栞自身が力の制御を出来るようにと判断し
その手伝いをしようと思ったからだ
また、栞に対しての恩もあった

そのことを瑞穂に告げたところ、瑞穂が麗子に掛け合って
実技場を自由に使えるよう手配してくれた

すっかり健康体になった栞は驚くべき成長をみせていた
意外なほど身体能力が高いのに加え、弾道の軌跡が見えるほどの弾道計算力
銃を撃つための能力が栞にはしっかりそろっていた

リチャード「シオリ、少し休憩しよう。集中が途切れてきている」

栞「────まだ、大丈夫です」

その栞が今、訓練しているのは精神面
最初の内はほぼ一発必中状態なのだが
それが長く続かない。しかも、集中が途切れると戻るまで時間がかかる

リチャード「ダメだ。集中が途切れている時に訓練しても何も伸びない。怪我をするだけだ。休憩も立派な訓練の内だ」

栞「────わかりました」

ざぁっと広場に風が吹き渡る

火照った体を冷やすように寝そべっていた栞は立ち上がり、両手を広げ、風を感じていた

Wind Of Alchemist 

〜錬金術師の風〜  
危険なイタズラ

瑞穂「いじめ?」

麗子「ええ」

園長室に呼ばれ、開口一番に学園内でいじめがあることを告げられた

瑞穂「一体誰が?」

麗子「美坂栞さん」

瑞穂「えっ?」

瑞穂はよく分からなかった
なぜ、彼女がいじめられなければならないのか

麗子「どうやら、おなじファーストクラスの子にされているみたいなんですが……」

瑞穂「それを誰から?」

麗子「同じクラスの生徒からです。でもまぁ、栞さん自身が何とも思っていないからさほど重要視はしていませんが」

瑞穂「そう、それならいいけど……」

栞はああ見えて実は芯が強い
いじめにあった位じゃ折れることは決してない

瑞穂「でも、一体何でいじめられてるのかしら?」

麗子「それを先輩に探ってもらいたいんです」

瑞穂「栞さんがなんと思っていないなら、別に放っておいても」

麗子「そうはいきません。何かあってからじゃ遅いですから。念のためというやつですよ」

瑞穂「相変わらず、先輩使いが荒いこと。ふふっ」

麗子「埋め合わせに今度、甘いものでも……」

瑞穂「わ、ホント?」

女性は甘いものに目がないと言うが
ここの2人も例外ではなかった














瑞穂「は〜い、それでは皆さん始めて下さい!」

瑞穂は午後からのファーストクラスの実技を本来の担当の先生と代わってもらった
授業内容はいつも通り、瑞穂の放った魔法生物を撃破するというもの

瑞穂「さて、しばらく様子を見るとしましょうか」

風を操り、地面から数十センチ浮き上がったところであぐらを組んで生徒達の様子を伺っていた

まだ、ファーストクラスは戦闘慣れしていないのか
スライムレベルのモンスター相手に四苦八苦している

しかし中には、冷静に対処し確実にモンスターを撃破していく生徒もいた
その中に栞の姿もあった
最近始めたリチャードとの訓練が役立っているのは言うまでもない

瑞穂「うんうん、栞ちゃん言いつけは守っているみたいね」

栞が今使っているのは普通の銃
エルトリムは腰のホルスターにしっかりとしまわれていた
ただでさえ、殺傷力の強い銃なだけに加え、完全に使いこなす事が出来るまで
よっぽどのことがない限り普段だけではなく学園内においても使うことを瑞穂は禁止した




そのころ、数人の女生徒達が実技場のすみの暗がりでなにやらよからぬ事を行っていた

女生徒達の足下には召還の魔法陣

「ねぇ、大丈夫なの?」

「大丈夫よ、ちゃんと本の通りにやるんだから」

魔術書らしき物を持った1人が魔法陣に近づく
「呪は呼びかけ、閃光は応え。我が門の錠を解こう。門開かれし時、異世界に棲みしモノよ、我の呼びかけに応え、姿を見せよ!」

詠唱が終わると同時に魔法陣が光を放ち出す
その光はどんどん大きくなり
それは閃光となり、あたりを白く塗りつぶした

「やった、せい、こう……し…た?」

召還が成功したと思い、喜ぶが光が収まっていくと同時に
召還した本人と周りにいる者達は恐怖に凍り付いた

一見すると虎のように見えるが、それは普通ではなかった
ヘルタイガーと呼ばれるそれは、魔界に棲むモンスターで
体格はゆうに3メートルを超え、前足の爪は大きく突出し、口からは牙が2本飛び出している
性格は極めて凶暴。魔界においても少々厄介な相手である

「グルルルゥゥゥゥ」

無理な召還でヘルタイガーは興奮状態にあった

「あ、あんた、なに呼んだのよ!」

「わ、分からないわよ!」

本人達は、自分が何を呼び出したのか全く分からないようだった
それもそのはず、学園内にある書庫内の禁書のある場所から
少し、古代文字を読めるからといって勝手に持ち出してきたのである

召還は魔術の中でも非常に難しい
その理由として、
正確な魔法陣の生成及び、詠唱
異世界とのゲートを開くための魔力
呼び出したモノを縛り付けるための拘束力

このどれを欠いても、召還は失敗し、最悪、術者の命はない

彼女たちの場合、魔法陣、詠唱、ゲート開扉のための魔力。
ここまでは良かった、問題は次、召還されたモノに対しての拘束の手だてがまるでなかったのだ
故に、ヘルタイガーは野放し状態となっているのだ

彼女たちは恐怖で凍り付いた体を無理矢理動かし
ゆっくりと眼前にいるモンスターから後ずさる

「きゃああぁぁぁぁ!」

しかし、その硬直状態が耐えきれなくなったのか生徒の1人が悲鳴を上げて走り出した
だが、これは相手を刺激するだけしかなかった
恐るべき跳躍で一瞬にして生徒との距離は埋められ、そのまま凶悪な爪が振り下ろされた
































「きゃああぁぁぁぁ!」

その悲鳴に誰もが驚き、異常事態であることを感じた

栞「今のは!?」

丁度、彼女らの近くにいた栞と数人の生徒はその悲鳴に向かって走った

瑞穂は悲鳴の前の段階、召還の際の魔力反応を感じて、その発生源に向かっていた

栞と瑞穂が到着したのはほぼ同時
そこで2人は背中をバッサリと切り裂かれた生徒の姿を見る
出血量は夥しいがなんとか生きているようだ

栞「一体何が……」

瑞穂「ちょっと、何でここにヘルタイガーがいるのよ……」

瑞穂は本来いるはずがないモンスターの姿を見て疑念抱いた
が、それは近くに描かれた魔法陣を見ることで解決する

瑞穂「あれか……」

「グゥガァァァアアア」
なぜそんな物があるのか考える間もなく
新たに現れた獲物にヘルタイガーは雄叫びをあげながら飛びかかってきた

栞&瑞穂「────!」

それに反応し、2人は左右に飛び退きそれをかわす

瑞穂「くっ、皆は早くこの場から離脱しなさい! 栞ちゃん悪いんだけどそいつとしばらくやり合ってくれる? 私は、こっちの子の怪我を何とかするから」

戦闘力の低い生徒が離脱したのを確認後
とりあえず、人命優先と言うことで回復魔法の使える瑞穂が怪我の治療
その時間稼ぎを栞が担当することになった
毎日、リチャードと訓練を重ねてきた栞ならそれが出来るだろうと判断したからだ

栞「分かりました!」

栞はヘルタイガーに向き合い、銃を構える
戦闘態勢に入った栞を認知し、ヘルタイガーが強靱な脚力で迫ってくる
それを弧を描くように飛んでかわしつつ、銃弾を撃ち込んでいく

数発、命中しているはずなのだがダメージを与えているようには見えない
ヘルタイガーの体は柔軟性に富んだ分厚い皮膚によって構成されている
よって、与えられるダメージは全て、この皮膚が吸収・拡散されてしまう

栞「えう〜、どうすればいいんですかぁ?」

栞は、ヘルタイガーの攻撃を避けつつ反撃の繰り返ししかできなかった
だが、決定的なダメージが与えられない今、消費されるのは、体力と弾丸のみである

そんな栞を見て、治療中の瑞穂が許可を与える

瑞穂「栞ちゃん、エルトリムの使用許可を与えます!」

その言葉を聞くと、栞は持っている銃を捨て、腰のホルスターから
エルトリムを取り出す
手に取ると同時に栞の髪、目の色が変化する

エルトリム「なにやら、厄介なことになっているようだな」

頭の中、直にエルトリムの声が響く
エルトリムはこれまでの状況を栞を通して全て把握していた

栞「普通の攻撃が効かないんです…」

エルトリム「うむ…シオリ、ウインドブレットをロードしろ」

栞「はい!」

自らに流れる無色の魔力を手に集め、色を付ける
その色は風の属性を持つ緑
緑の魔力をエルトリムに注ぐと同時に
栞の瞳が碧緑に染まり、銃は緑色の輝きを放つ

栞「ウインドブレット、ロード!」

「ガアアァァァ!」

魔弾の装填と同時に
ヘルタイガーがチャンスとばかりに飛びかかってくる
これを先ほどと同じく弧を描くように飛んでかわし
栞は反撃を試みる
                         風の螺旋弾
栞「今、放つは荒れ狂う風の螺旋! スパイラルショット!!」

空中でヘルタイガーに狙いを付け、トリガーを引く
銃口からは、螺旋状の空気の塊が高速で射出される

その魔弾は、相手の体に確実なダメージを与えたのだが
戦闘不能まで追い込むことは出来なかった

魔弾を放ったことでバランスを崩した状態で着地していた栞に、
ヘルタイガーが飛び込んでくる

瑞穂「いけない!」

栞「────!」
とっさに両腕を顔面でクロスさせ防御する
しかし、その防御も気休め程度にしかならないだろうが
無いよりはマシだ
爪が振り下ろされる瞬間、栞は目を閉じ
これから与えられる痛みに備えた

「雷牙!!」

「グオォォォアアアァァァ!!」

闇の中、誰かの声と獣の叫び声が聞こえた

ゆっくりと目を開ける
はじめは光の筋だけだったモノが
映像へと変わっていく

すっかり目開くとそこには、ヘルタイガーが痙攣した状態で
横倒れになっていた
状況を把握するために周りを見渡す
すると、自分と先生のほかにもう1人いた

「大丈夫ですか?」

へたり込んでいる自分にその人は声をかけてくれた

栞「あ、はい。大丈夫です。────えっと…」

復学してしばらく経ったとはいえ、まだ、自分のクラスメイトの名前と顔が一致していなかった

「天野美汐です。瑞穂先生が退避命令を出されたんですが、少々心配になって見に来たんですが危ないところでした。でも、怪我が無くて何よりです」

そういうと、笑みを浮かべながら手を差し出し栞を立ち上がらせた

瑞穂「ありがとう助かったわ、天野さん」

美汐「いえ……」

瑞穂「栞ちゃん、あの子の怪我の治療済んだから悪いんだけど一緒に救護室まで連れて行ってあげて。私はこれを何とかするから」

これとは、ヘルタイガーのこと
地面に倒れてはいるが、痙攣しているだけで死んでいるわけではないので
このまま、放置しておく訳にもいかないのだ

美汐「では、私も……」

瑞穂「うん、ありがとね」

美汐「はい」

美汐が転送陣で転送したのを見ると、瑞穂はヘルタイガーにヒールをかける
すると、痙攣が止まり瑞穂の方を向いて座った

瑞穂「どう?落ち着いた?ヴェリス」

瑞穂は目の前にいるヘルタイガーをヴェリスと呼んだ
以前、瑞穂は魔界に居たことがある
その時、まだ、小さかったヴェリスと知り合う
先ほど、記述したが本来、ヘルタイガーは凶暴なのだが
このヴェリスは瑞穂に心を許し、瑞穂の前では非常に穏やかな性格となる

ヴェリスは額に三日月状の模様がある。
それを見て、瑞穂はヴェリスだと気づいた

ヴェリス「────すまない。無理な召還で気がたってしまってな」

ヴェリスは人語を話すことが出来る
この手の種族では非常に珍しい部類に入る

瑞穂「ごめんねぇ、うちの生徒が勝手なことしちゃって」

ヴェリス「私も我を失ってつい暴れてしまった。先ほど傷つけてしまった娘には悪いことをした」

瑞穂「いいのよ、手遅れにならなかったし。まぁ、良い薬になったでしょ。それで、どうする? こっちに来るにはこれたんだけど、なんか、帰れなさそうよ?」

ヴェリス「ん?」

瑞穂「無理な召還だったのねぇ。召還の際に貴方の魔力がごっそり持ってかれてるわ。多分、このまま、帰ろうとすると、ゲートを通りすぎる前に霧散するわね」


ヴェリス「まぁ、仕方あるまい。人間には悪いが、どこかで静養させてもらおう」

瑞穂「そうね。とりあえず、秋子さんに相談してみるかな。────ヴェリス悪いけど、もうしばらくここに隠れていてくれない?」

ヴェリス「わかった。では、なるべく目立たないところにいるとしよう。準備が出来たら教えてくれ」

瑞穂「了解。じゃ、行ってくるわね」



瑞穂はまず、これまでの状況を報告に麗子に会いに行った


ヴェリス「私は成長したが、瑞穂の姿は変わらんな・・・」

残されたヴェリスは実技場の隅の木陰に横になり、そうつぶやいた

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