ものみの丘には古くから物の怪が出るとの伝説があります
その物の怪とは、姿は狐ですが、その正体は通常より遙かに年を取った妖狐とよばれる妖怪です
この妖狐達はこの丘から、私たちの住む街を見ています
良いことも悪いことも全てです

人間達が誤った行いをすると、それを戒めるために妖狐達は厄災としてその姿を現します
妖狐が現れるときは、災いが起きるときとして人々からは厄災の権化として恐れられていました

しかし、決して妖狐は人間が嫌いなわけではありません
むしろ、人間の事が好きなのです
好きな故に、人間には誤ったことはして欲しくはないのです
たとえそれが、人間達から嫌われることになったとしても…

人間の好きな妖狐は、時に、姿を変えて、人として人里、この街に現れます
人とふれ合いたいが為に…
それが、自身の命を縮めることになるとしても…

Wind Of Alchemist 

〜錬金術師の風〜  
ものみの丘の伝説

美汐「これが私の知っているこの丘の伝説です」

祐一「それで、この伝説と天野がここを守っているのがどう繋がるんだ?」

美汐「ここは、私と鈴が出会った場所なんです」

祐一「鈴?」

瑞穂「おそらく、妖狐でしょう。話の流れからするとね」

祐一「そうなのか?」

美汐「はい…」
















昔の私は、友達も居なく、学校が終わればすぐに家に帰るということを繰り返していました
ある日、学校が終わり帰ろうと校門を出た瞬間、意識が飛び、気づくと私はこの丘にいました
回りを見渡してみると、そこには一匹の狐が佇んでいました

どうしてここに?
なぜここに狐が?
そう考えているうちに向こうから私の方に近づいてきました
私の足に顔をなすりつけ、人なつっこい狐でした

しばらく、私は、しゃがんで狐と遊んでいました
不思議とこの子と遊んでいると心が安らぐのを感じました

ある日、私の目の前でその狐は人の姿になりました
聞けば、その子は妖狐という存在で鈴という名前ということでした
人ではなく、所謂、妖怪といわれる存在のはずなのに
怖い、恐ろしいという感情は湧かず、むしろ、好意さえ持つほどでした

それからは、学校が終わると毎日、この丘に通いました


毎日、毎日、毎日…

気づけば、私はこの子に会うのが楽しみになっていたのです
明日は、どんなことをこの子としよう
明日は、どんなことをこの子に話そう

明日は、明日は、明日は…

私はこの関係がいつまでも続けばいいと思っていました
終わる事なんて考えもしませんでした

でも、その時は突然やってきたのです

いつもと同じように学校が終わった後すぐに丘に行くと
そこで、うずくまっている狐姿の鈴を見つけました

急いで駆け寄ると鈴の様子を見ました

鈴は息が荒く、何より体温がかなり下がっていました

私は鈴を親に内緒で家に連れ帰り、看病をしました
しかし、何日たってもどんな薬を与えても鈴が良くなる気配はありませんでした

それから私は学園の資料室で鈴の病気を調べました
学園が開いている時間は全てそのことに費やしました
ハンターにも登録してハンティングの先で情報を集めました

ようやく、鈴の病の原因がシッポが欠落したことによる急激な魔力の低下と分かり
その改善方法まで分かりましたがそれまでかなりの時間を要してしまいました
そう、手遅れになってしまうほど


どうにか、鈴の最期にはそばにいてあげることが出来ました
それまでは、捜し物だ、ハンティングだと忙しくなかなか一緒にいられませんでしたから…
最期の最期まで鈴は笑っていました
今思えば、鈴は出会ったときから笑っていたような気がします

そんな鈴を見て私は気づきました
なぜ、もっと一緒に鈴と居てあげなかったのかと
そう思うと涙が止まりませんでした

それから、私はこのものみの丘を守っているのです
鈴と出会った大切なこの場所を
鈴へのせめての償いとして……















祐一「…」

美汐「…」


瑞穂「一つ聞かせてもらって良いかしら?」

美汐「はい」

瑞穂「この丘にさっきのようなクリーチャーが現れるようになったのはいつからかしら?」

美汐「鈴が居なくなってすぐです」

瑞穂は唇に指を当て、しばらく考えていた

クリーチャーが現れる原因となったのはおそらく、鈴といわれる妖狐が居なくなったから
となると、鈴はものみの丘のゲートキーパー?
そう考えれば、美汐ちゃんが話してくれた伝説は妖狐がゲートキーパーとして
この世界を守護していたことの証明になる

瑞穂「美汐ちゃん、その鈴って子、自分のことゲートキーパーとか言ってなかった?」

美汐「えっ? はい。確かそんなようなことを…」

祐一「師匠、ゲートキーパーって?」

瑞穂「昨日、偶発的、意図的にゲートが開けられるって事は教えたわよね。そのゲートなんだけど、もう一つ特徴があって、出口側のゲートは固定されるのよ」

美汐「つまり、ゲートの入り口はいろいろあるけれども、出口は一つだけだということですか?」

瑞穂「そうよ。入り口が複数あって出口が一つ、これを単出式ゲート複合体っていうけどそのゲート複合体は様々な世界の様々な場所にあるの。それで、ゲートキーパーっていうのはあらゆる世界から紛れ込んでくる者に対して帰還意志のある者に対してはその助力。その世界を害する意志のある者に対してはその阻害を任された者の事よ」

祐一「ゲートキーパーの役割は分かりましたけど、誰が一体ゲートキーパーを決めるんです?」

瑞穂「それはその世界によって様々ね。ここの場合は幻想界の妖狐族がゲートキーパーを勤めているけどそれは私たちの世界にはゲートキーパーになり得る人が居なかったので階層の近い幻想界の住人で人間に対して好意的な妖狐族がなったのでしょう。それに妖狐族にはゲートキーパーの条件として空間を操る能力があるから。これは予測なんだけど、おそらく鈴は妖狐族から派遣されたゲートキーパーで長い間この辺の空間の歪みを監視していたのだけれど、クリーチャーがこの世界に現れ、元の世界に送り返そうとした際に、何らかの事故によって魔力の生成・蓄積を行う尻尾を無くしたのでしょう」

祐一「今の真琴のようにか…」

瑞穂「たぶんですが、真琴は妖狐族が送り込んだ次のゲートキーパーでしょうね。真琴の主たる目的は祐くんに会うことでしょうけど。それで、天野さんに頼みがあるの」

美汐「なんでしょう?」

瑞穂「真琴と契約してもらえないかしら? 昨日、それに今朝のこと見ていたのなら事のあらましは知っているでしょう」

美汐「!!」

瑞穂は美汐が昨日の夜、実習場にいたこと。今朝、真琴の騒ぎがあったときに近くで様子をうかがっていたこと
美汐はうまく気配を隠していると思っていたようだが、瑞穂の感覚のアンテナからは逃れることは出来なかった

瑞穂「鈴を救おうと調べていたのならその理由がわかると思うけど…」

美汐「異世界にて現存するために必要な魔力が欠乏した者を救済するには契約を結ぶことが最大で最適な方法。そして、妖狐族との契約は魔力波動の同等の者と行うこと必要がある」

瑞穂「そう。そして真琴の同等の魔力波動の持ち主は貴方なのよ、天野さん」

美汐「……」

瑞穂「ギルドのデータベースで調べたから間違いないわよ、それに、この探索機も反応してるし」

瑞穂は懐から赤く点滅している探索機を取り出して美汐に見せる

瑞穂「時間はあまりないけど、返事は今すぐにとは言わないわ。色々思うところもあるでしょう。決心がついたのなら明日の放課後、実習場にきて欲しいの」

美汐「……」

しばらく、美汐は考えていたが、無言で頷いた

瑞穂「そう、じゃあ待ってるから。さぁ、行くわよ祐くん」

祐一「あ、はい」

美汐は飛び去っていく瑞穂と祐一をしばらく眺めていた

そして、丘の遠くを見直す

美汐「不思議な人たちです。普段はクラスの人ともあまり話さないのに。あの人達だと何の気兼ねもなく心を許してしまう。ねぇ、鈴。私、あの人達のこと信じてみようと思います。貴方の仲間の真琴の事、助けてあげようと思います。ねぇ、鈴、貴方を裏切るようなことになってしまうけど、許してくれますよね」

そうつぶやくと、突然、丘の向こう側から風が吹いてきた

その風に乗って、どこからか、狐の鳴き声が聞こえてきた

懐かしい、その声

それは、鈴の声のように聞こえた

美汐にはそれが、美汐のつぶやいたことに答えてくれたように聞こえ、涙があふれてきた

久しぶりに聞いたあの声、もうおそらくは二度と聞くことが出来ないあの声

その声を美汐はしっかりと胸に刻み、そしてつぶやいた

「ありがとう」と……

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