瑞穂は全身の魔力を高めつつ周囲の状況を確認する
祐一、香里、名雪、栞、佐祐理、舞、潤
その一人ずつにホムンクルスが対峙している
瑞穂(祐くん、香里ちゃん、栞ちゃん、佐祐理さん、舞さんは大丈夫そうね。問題は名雪ちゃんと潤くんか。この二人の能力まだはっきり分かってないのよね)
まい「瑞穂おねぇちゃん」
まいの声が瑞穂の頭の中に響く
瑞穂(まいちゃん?)
まい「わたしが二人をサポートするよ。だから、瑞穂おねぇちゃんは…」
瑞穂(わかってる。じゃあ二人をお願いね)
まい「うん!」
Wind Of Alchemist
〜錬金術師の風〜 モノという命 命というモノ
瑞穂「ねぇ、やる前に一つ聞きたいんだけど?」
瑞穂は目の前にいるホムンクルスに問いかける
左京「はい、何でしょうか? あ、ここを退いてくれって言うのは無しですよ」
先ほどとは違い左京のフランクな口調に瑞穂はすこし調子を狂わされる
そして今気づいたのだがこのホムンクルス、性別ベースが女性だった
瑞穂「そんなんじゃないわよ、ただ、あなた達、本当にあの男に作られたの?」
左京「!」
瑞穂「図星か」
左京「…どうして分かったんですか? 私達がマスターに作られていないということが」
瑞穂「あらあら、大抵、ホムンクルスは製作者の知識を受け継ぐから知っていると思ったけど。いい、ホムンクルスを作るときにある物を入れるのよ。それは製作者の体液。体液を入れることによってホムンクルスと製作者の間に絆が生まれる。絆は束縛であり、力の源。それが、あなた達とあの男には感じられないのよ。でも、あなた達はあの男に従っているわね。そうねぇ、あの男から賢者の石を与えられるかしら?」
左京「……」
瑞穂「わかりやすいわね。でも、いつまでもこの関係は続かないわよ。まず、本来なら製作者から供給されるはずの力が枯渇する。そして、あの男はそんなにホムンクルス思いじゃないって事よ」
左京「そんなことはない! マスターは…マスターは約束してくれました!」
瑞穂「じゃあ、なぜ、あの男はあなた達の事を『モノ』だと言い放ったのかしら?」
左京「そんな…」
瑞穂「なぜ、この世は全て錬金術師の材料なんて言ったのかしら?」
左京「…もし、そうだとしても。もしマスターが私達を利用しているだけだとしても今は、まだ私達のマスターです!」
瑞穂「全く、あの男にあなた達の爪の垢を煎じて飲ませたいわね。でもね、こっちも引き下がる訳にはいかないのよ。あまり時間もないし。さぁ行くわよ!」
瑞穂は全身に纏っていた魔力を開放した
その瞬間、風が全くなかった空間に暴風が吹き荒れる
左京「な、これは…」
瑞穂を除く全員がこの暴風に身動きがとれなくなる
瑞穂「結界集束・固定!」
祐一達の周りの風が突如収まる
いや正確には風が収まったのではなく
瑞穂の周辺のみに風が吹き荒れている
そして、それも徐々に弱くなる
しかし、風は瑞穂の周りを慕うように吹き続けている
瑞穂「固有結界『風辿流操(ふうてんりゅうそう)』」
左京「固有結界ですって!?」
固有結界
魔法を使う者にとって目標であり、到達点である
現実世界における一部分を術者の心像世界にスイッチして
術者有利な状況を作り出す
瑞穂の場合
結界空間の広さを自由に変化させることが出来る。
その際の必要魔力は広さに比例するが一度固定してしまえば二度と魔力を必要としなくなる
空間内に風・大気の流れに関する情報、知識、扱法(そうほう)が詰め込まれており
詠唱、魔力を必要とせず、意識するだけで風を操ることが出来る
さらに瑞穂は固有結界を発動させずともその能力を引き出すことが出来る
それが、詠唱無しの風魔法の発動である
瑞穂がウインドマスターと呼ばれる理由の一つである
固有結界を発動させた瑞穂の強さは計り知れない
実は瑞穂自身実際、他と比較したことがないので詳しくは分からないのだが…
そんな相手に左京が勝てるわけがない
手も足も出ることなく
風による打撃・斬撃を受けることになった
左京「うぐっ…」
たまらず、膝を突きうなだれる
左京はその状態から動くことが出来なかった
それほど、瑞穂から受けたダメージは大きかった
「左京殿!」
突如、左京に飛び寄る影が現れる
瑞穂「あなたは…」
「後生ござる、これ以上左京殿を…」
その男は先日、街を襲ったものだった
瑞穂「大丈夫よ、戦闘不能までは持って行くつもりだったけど命までは奪わないわよ」
「感謝する」
左京「右京君、すみません。ご迷惑をおかけします」
右京「喋るな、体力を消費する」
そこまで言うと、右京は立ち上がり他で戦っているホムンクルスに向かって叫ぶ
右京「皆、止めよ! 拙者はマスター、いやウォルス・シュバインとの契約を解除する。ウォルスは拙者らのことを何とも思って居らん。それは先の話でも明らかであろう!」
その言葉に全てのホムンクルスの動きが止まる
それに呼応して、祐一達も戦闘態勢を解除する
右京「皆、拙者に従っていただき感謝する」
どうやら、他のホムンクルスも今のマスターに疑念があったようだ
そうでなければ、右京の呼びかけに答える事は無かっただろう
右京「貴殿を利用するようで申し訳ないが、ウォルスを止めていただけるか?」
瑞穂「はなから、そのつもりよ」
右京「あの娘も拙者達と同じホムンクルス。同胞を救うことが我らが存在意義にも繋がる。もし良ければ拙者が道案内を致すが?」
瑞穂「それはありがたいけど、そっちの子が…」
左京「……私なら大丈夫です。あなたが手加減してくれたから。右京君を連れて行ってあげてください」
瑞穂「そう、わかったわ。じゃあ、その代わりにこれを使って」
ひょいと瑞穂は小さな小瓶を左京に投げる
左京「これは…」
瑞穂「体の機能を活性化させる飲むタイプの魔法薬よ。ホムンクルスにも効果があるはず。これで少しは楽になると思うわ」
左京「あ、ありがとうございます」
佐祐理「先生…」
佐祐理と舞が瑞穂に声を掛ける
瑞穂「ん? どうしたの?」
舞「…私達もここに残る」
佐祐理「私達がやったので少々心苦しいのですが、他のホムンクルスの方も怪我をなされているみたいですし」
名雪「助けてあげないと」
潤「それにな、帰り道の確保も必要だろ?」
初めてあったときには、頼りなく思ったのだが
短い期間で皆、かなり成長したようだ
祐一「みんな、頼むぞ!」
瑞穂「右京、道案内よろしく」
右京「御意!」
佐祐理「大丈夫ですか?」
瑞穂たちが行った後、佐祐理たちはホムンクルス達を治療していた
香里「美坂流練気術、治癒功」
名雪「契約に基づき、万物の源なる水よ、傷つき者に癒しの力を与えよ。キュア!」
舞「…動いちゃダメ。まい、佐祐理のバッグの中から包帯」
まい「はあ〜い」
てきぱきと治療作業は進んでいく
左京「ほんと、良い子達ね」
そんな佐祐理たちの献身的な姿を見て、つい私はそんな言葉を漏らした
世の中、こんな子たちばかりだったら私たちももっと違っていただろう
今まで私たちが出会ってきた人間はどれも自分のことしか考えない者ばかりだった
私たちの突出した能力だけを必要とし、いざ、必要価値が無くなればその場で破棄される
いわば物同然の扱いだった
だが、この子達は違う
私たちを人間と同じように見てくれている
そして、この子達を育てたのはおそらく
『瑞穂』という女性
彼女こそ、ホムンクルスを人と等価値に見ていた
そして、なにより命というものを大事にしている
それがたとえ、人が作り出した命だとしても…
それは、先ほど、マスター…いやウォルスとのやりとりの中で感じ取ることが出来た
私たちはようやく見つけたのかも知れない
私たちを人として見てくれる人を…
まずは右手、左手を動かしてみる
問題ない
体中、動かせる範囲は全て動かしてみるがどこも異常はない
先ほど、瑞穂がくれた魔法薬のおかげだろう
さぁ、いつまでも寝ていられない
おそらく、ウォルスはここをまともに残しては置かないだろう
その前に、この子達を守らないと
よし! 私は今、ここに誓おう
この可愛い、私たちの理解者を全身全霊を掛けて守り
仕えて行こうと…この身が朽ち果てるまで!
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