賢者の石
それは、錬金術師がめざす錬金術の集大成
使えば、銅や銀などの卑金属は貴金属に成り
生命体に用いれば体は老いることなく、傷はたちどころにふさがる
つまりは不老不死になるのだ
だが、それは自然の理をねじ曲げること
錬金術においてそれはタブーとされる
がしかし、賢者の石を用いなければならない場合もあるのも確か
それこそが、ホムンクルスの完全化なのだ
もしかすると、ホムンクルスのために賢者の石が生まれ
その副産物として卑金属の貴金属化が生まれたのかも知れない
だが、時に万能とも言える賢者の石はよからぬ考えを生むのだ
それを防ぐために錬金術の極意である賢者の石は一子相伝であるのだ
Wind Of Alchemist
〜錬金術師の風〜 竜の血
瑞穂「あなた、錬金術師ならば賢者の石がどういう制約を持つか分かっているはずだけど」
ウォレス「無論だ。しかし、それがどうした。見ろ、この素晴らしい力を!」
いまや、ウォレスにはウォレスの周りの空間が歪んで見えるほど魔力が高まっていた
瑞穂「全く、これだから石に魅入られたものは。仕方ないわね、今一度忠告するわよ。賢者の石を不正に使用するもの、或いは本来の持ち主より奪取するものは錬金術協会より指名された管理者において処分される」
ウォレス「処分? 私の力が見えんのか? 今の私ならば、管理者すら敵ではない!」
そんなウォレスの姿を見て瑞穂は頭を振る
瑞穂「賢者の石が多大な力を与えるのは分かっているわよ。だから、管理者って言うのはその賢者の石を持つ者より強大な力を持つ者じゃなきゃならないのよ」
瑞穂は今まで高めていた魔力を更に高める
ウォレスが周りの空間を歪めていただけに過ぎなかったのが
瑞穂はそんなものでは済まなかった
通常魔力は物質に干渉することは無い
だが、超高密度の魔力となれば話は別である
いまや、瑞穂の魔力は空洞内にある壁という壁に大きな亀裂が入るほど
膨れあがっていた
ウォレス「お前、その魔力量…人間では…」
瑞穂「ええ、私は純粋な人間ではないわ。私の血にはね竜の血があるのよ。幻想界、竜王バハムートの一族の血がね」
竜族
幻想界に棲む種族の一つで
人間界に多くの伝説として残されている
伝説のほとんどが、実際に幻想界から竜が来たものである
高い魔力と身体能力、そして高い知性を持つが
あまりに高い魔力のため界間移動が困難なのである
故に人間界に来た竜族のほとんどがゲートキーパーに認められた
王族クラスの竜なのだ
そして竜王バハムート
幻想界に棲む多くの種族の中で
随一の魔力とカリスマを持つ実質的幻想界の王である
他の種族からの信頼も厚く、幻想界を守る紳士な王である
神界、魔界、幻想界、人間界、冥界
各界の中で人間界の人は基本的に魔力は低い
しかし、その他の界は人間界を一目置いている
それは、人間には秘められた能力、潜在能力が各界に比べるとずば抜けて高いのだ
潜在能力を開花させた人間は各界の者に匹敵するほどの能力を持つ者もいる
瑞穂は、元々高い魔力を持つ竜の一族と
高い潜在能力を持つ人間の一族のハイブリッドなのだ
瑞穂の場合、幼少期はほぼ人間と同じポテンシャルなのだが、
年を重ねるにつれ乗算的に能力が跳ね上がって来た
しかも、未だその能力値は上昇中なのである
ウォレス「ぐぅっ?」
あまりに圧倒的な魔力差にウォレスは思わず後ずさりをしてしまうが
すぐに気を入れ直し瑞穂に対峙する
ウォレス「私が負けるはずがない。私は賢者の石を持っているのだ。こんな小娘に負けるはずがないのだ!!」
突如、ウォレスの魔力が跳ね上がる
瑞穂「バカ、それ以上賢者の石を使ったら!」
ウォレス「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
莫大な魔力と同時にウォレスの姿が変化していく
それは、体に魔力を納めるために賢者の石が体を変化させているのだった
その姿はどんどん、人間とはかけ離れたモノになっていく
瑞穂「まったく、そんな姿になっちゃったら力も何もないじゃない」
瑞穂もまた、更に魔力を上げていく
瑞穂「…少し、本気にならないといけないわね」
瑞穂の体にも変化が現れる
首筋、腕の一部に鱗が出現しだした
それは、竜の特徴である鱗だった
瑞穂は竜と人間のハーフであるために竜になることは出来ない
しかし、魔力を高めることによって竜の特徴である鱗を出現させることが出来るのだ
これは瑞穂にとって境界線なのだ
鱗がでるほどの魔力を上げると所謂リミッターを解除した状態になるのだ
普段は意図的に魔力制限をかけ、魔力の出力を抑えているのだが
この状態だと瑞穂の持っている全ての能力が解放されるのだ
ウォレス「ぐおおぉぉぉっ!」
ウォレスはもう人間とは呼べない状態へと変化が完了していた
言うなれば、獣
四肢は地に着き、口から牙をむきだし、手は鎌のような爪が生え
そして、賢者の石はウォレスの額に埋め込まれていた
瑞穂「さぁ、来なさい。その力存分にふるうといいわ。いかに貴方が賢者の石の力を使おうとも私にかなわないことを教えてあげる」
瑞穂が手を前に出すと
そこの空間が歪み出す
その空間の中から瑞穂は奇妙な剣を取り出す
それは柄だけの剣
刃の部分が無いのだ
しかしそれには理由がある
瑞穂の持つ剣、その名はエレメンタルソード
元素の名を冠するその剣は
火、水、風、地、氷、雷、光、闇
各属性の元素を刃とすることが出来るのだ
魔法剣に特化した剣術を操る瑞穂が生み出した
錬金術と魔法が融合した瑞穂だけの剣
瑞穂「エレメントイン! エアーエッジ!!」
柄から淡い緑色の光を放つ非常に長い刃が現れる
この状態のエレメンタルソードをエアーエッジと言い
風の元素が刃となっているのだ
付加魔法である風魔剣に比べ
風の元素そのものが刃になっているため
通常、物体に魔法を纏うと魔抗という
魔法を纏う際に発生する抵抗が無い
その結果威力は高く、消費魔力は少なくなるのだ
瑞穂「行くわよ…」
砂煙を上げ、ウォレスに向かって文字通り疾走する
瑞穂「雪村神剣流、風式・絶技! 瞬擦交迅剣!!(しゅんさつこうじんけん)」
瑞穂がウォレスと擦れ違った瞬間
ウォレスの両腕が切り刻まれ落ちた
風式・絶技 瞬擦交迅剣
すれ違いざまに無数の必殺の超高速斬撃を繰り出す
攻撃と回避を合わせた技で
相手は攻撃されたことも分からず死に絶える
まさに、神ごとき神速の剣技
あまりに殺傷能力が高いため
瑞穂は普段、この技は使わないようにしていた
しかし、今回は相手が相手
この程度の攻撃では死に追いやるほどのダメージは無いと
考えた瑞穂は躊躇いなくこの技を繰り出したのだ
案の定、切り落としたはずの腕は次の瞬間には再生を果たしていた
瑞穂「ほんと、人間じゃなくなっているわねぇ」
軽口をたたきながらも瑞穂は次の攻撃態勢を取っていた
瑞穂「エレメントイン! フレイムタン!!」
今度の刃は赤く燃える大きな両刃のモノだった
だが、次の攻撃はウォレスからだった
大きな爪を瑞穂にめがけて振りかぶってきたのだ
瑞穂は、フレイムタンを盾代わりにしてそれを受け止める
そしてそのまま、攻撃に転じた
瑞穂「雪村神剣流、炎式、天翔旋炎刃!!(てんしょうせんえんじん)」
炎を纏った剣を回転させながら切り上げ、再度両腕を落とす
そして、間髪入れずに魔法を放つ
瑞穂「アブソリュート・ゼロ!!」
ウォレスの周りの温度が急激に下がる
するととたんにウォレスの動きが鈍くなる
ウォレス「ぐぅっ?」
体温が急激に低下すると生命体は動きが鈍くなり
活動能力が低下する
しかし、瑞穂が狙ったのはそれだけではない
ウォレスの腕が再生していないのだ
切られた腕の断面には氷がまとわりついている
そのせいで、ウォレスの高い再生力は低下し
細胞の活動が停止してしまったのだ
ウォレス「ぐっ…があああああああああ!!!!」
突如、額の賢者の石が光り、ウォレスの体が炎に包まれる
瑞穂「無理矢理、魔法で体の体温を戻したか。仕方ない、ここまで抵抗されたならもう、慈悲なんて掛けられない」
瑞穂のエレメンタルソードが柄だけの状態になり、歪んだ空間内に戻っていった
徒手空拳となった瑞穂は今度は気を溜め始める
その時間は一瞬、『瞬纏』だった
そして溜め終わると同時に攻撃に入る
瑞穂「雪村神体流、蓮華!」
通常の人間、いや、ハンターでさえも瑞穂の動きを捕らえることは難しいだろう
それほど、今の瑞穂は人知を越えた速さで立ち回っているのだ
ウォレス「がっ! ぐっ!」
まるで、ウォレスが踊っているように見えるほどウォレスは為す術が無かった
全く、反撃できないのだ
およそ一分ほどで数百の打撃がウォレスに襲いかかった
だがしかし、体温を取り戻したウォレスは再生力をも取り戻していた
すぐさま、瑞穂に対し、反撃を繰り出す
瑞穂「集纏!」
瑞穂は今度は両手に気を集める
そしてそれをウォレスの攻撃に合わせる
瑞穂「雪村神体流、菊花!」
瑞穂の前方に大きな花が展開する
それは菊の花
それが、ウォレスの攻撃を防いでいるのだ
瑞穂「よし、見つけた」
瑞穂はそうつぶやくと、攻撃を受け流しつつウォレスの背中へと飛び上がる
瑞穂「極纏!」
空中で最大値まで気を高める
そして、着地と同時に技を発動させる
瑞穂「雪村神体流、絶技! 葵花!!」
両手をウォレスの首に当てると一気に高めた気をたたき込んだ
ウォレスの神経回路隅々にまで瑞穂の気が侵入する
ウォレス「があああああぁぁぁぁっ!!」
神経回路を遮断されたウォレスは全身の力が抜けその場に倒れ込んだ
身動きのとれないウォレスに瑞穂が近づく
瑞穂「どう? 私にかなわないことが分かってくれたかしら?」
そういうと、ウォレスの額に埋め込まれている賢者の石を抜き取る
石を抜き取られたウォレスはみるみる元の姿に戻っていく
ウォレス「ぐぅっ…」
瑞穂「ヒールウインド!」
瑞穂は傷ついたウォレスに回復魔法を掛けた
ウォレス「なんの真似だ?」
瑞穂「なんでって、そのままだと貴方死んじゃうでしょ。獣化状態で受けたダメージは元の戻ると数倍になるんだから」
ウォレス「自業自得だろう。それに、お前に私を助ける義理はないはずだが?」
瑞穂「なによ、義理って。そんなものいらないわよ。目の前に死にかかっている人が居るそれだけで十分助けるに値するわ。たとえそれが、直前まで自分の命を狙っていた者だとしてもね」
ウォレス「甘いな、いつか足下をすくわれるぞ?」
瑞穂「すくえるものならすくってみなさい。私こそそんなに甘くないわよ?」
ウォレス「ふふ、たいした奴だ。いいだろう、私の負けだ」
瑞穂「今回の件ね、別に錬金術協会にもハンター協会にも通告しないから。その代わり、貴方も錬金術師の端くれならホムンクルスの事もっと考え上げなさい」
ウォレス「全く、お前みたいな若い者に説教を食らうとはな。だがまぁ、悪い気がせん。────先ほどの戦いで私は一度死んだようなものだ。生まれかわったっと思ってお前の言うこと守ってみるのも良いだろう」
瑞穂「まぁ、当分は私の傘下にいればいいし、さすがにあの人数のホムンクルスは養うには無理があるし。私も居候の身だからね」
ウォレス「そうだな、だが、右京と左京はそちらに任せる。その方が奴らのためになるだろう」
瑞穂「2人ぐらいなら何とかなるわね。わかったわ、じゃ、とりあえずここから脱出しましょう」
ウォレス「ん?」
ウォレスは何を言っているのか分からない顔をした
瑞穂「あ〜、さっきの戦闘でやり過ぎちゃったみたいなのよ」
ごごごっと地鳴りがし出す
ウォレス「! お前が本気出したときの影響か!?」
瑞穂「まぁ、そういうことになるわねぇ…」
ウォレス「暢気に言ってる場合か!!!!!!!」
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