瑞穂「よし、これで全部ね」

皆が脱出してから数時間後、崩壊した研究所は全て直っていた
しかし今度は、研究所と言うより大きな屋敷のような感じになっていた

ウォレス「瑞穂、これは…」

瑞穂「もう、あの研究所は必要ないでしょう。だったら、住みやすい環境にしただけよ」

ウォレス「そうか、それは助かる」

瑞穂「でも、ちょっとした工房は作っておいたから、賢者の石の製作ぐらいなら出来るわよ」

ウォレス「!」

瑞穂「あなたなら、作れるはずよ。彼らだけの石をね」

瑞穂は新しい家を嬉しそうに見ているホムンクルス達を指す

ウォレス「だといいがな…」

そう言いつつも、ウォレスの顔は朗らかだった

Wind Of Alchemist 

〜錬金術師の風〜 
新たなる敵

瑞穂「さぁて、みんなとりあえず帰るわよ」

ウォレス「色々と借りが出来たな」

瑞穂「そうねぇ、いつか返してもらえればそれで良いわ」

ウォレス「ふ、わかった」

祐一「師匠、準備できました」

あゆをおぶった祐一が瑞穂を呼びに来る

瑞穂「了解。じゃあ、とりあえず、街にいるホムンクルスは後で右京と左京がこっちに連れてくるって事で良いかしら?」

ウォレス「構わんよ」

瑞穂「それじゃ、みんな行くわよ」

瑞穂と祐一はフライで皆を浮き上がらせる

瑞穂「じゃあ、近いうちにまた来るから」

ウォレス「ああ、待ってる」

瑞穂達はウォレス達に見送られ、帰路へついた

名雪「すっかり暗くなっちゃったよ」

瑞穂達が秋子達の家に着く頃には日はすっかり暮れていた

だが、おかしな事に家には明かりが一切ついていなかった
秋子がいるならば、明かりがつかないことはない

瑞穂は異変を感じ、ライトの魔法を使い明かりを確保してから
家の中に入っていった

中にはいると、何かのにおいが鼻をつく

瑞穂「! 血のにおい!」

家の中はむせ返るような血のにおいが充満していた
急いで瑞穂は家中の明かりをつける

すると、リビングに数人が倒れていた
そのうちの一人は夥しい出血をしており
血だまりが出来るほどだった

その人物は家の主、秋子であり
出血部は腹部で刃物で切られたような傷だった

瑞穂「秋子さん! ────風よ! ヒールウインド!」

瑞穂は咄嗟に回復魔法を掛ける

そのおかげで、出血は止まった
しかし、意識までは回復することは出来なかった

瑞穂「血が足りないわね」

次の段階の治療を行おうしていると

名雪「…お母さん」

名雪がリビングに入ってきていた

瑞穂はしまったと思った

今のこの状況を見れば名雪は必ず誤解する
案の定、名雪は錯乱しだした

名雪「いやああぁぁぁぁっ!!」

祐一「名雪! 落ち着け!」

咄嗟に一緒に入ってきた祐一があゆをリビングに寝かせ、名雪を抑えるが一向に収まる気配がない
そこへ、香里が近づき名雪の鳩尾に当て身を加える

香里「はっ!」

名雪「がはっ…」

当て身の衝撃に名雪は意識を奪われ、祐一にもたれ掛かった

香里「ごめんね、名雪」

香里は名雪を止めるために、わざと当て身を加えたのだ

香里「相沢くん、名雪とあゆちゃんを部屋に連れて行きましょう。先生、秋子さんは大丈夫なんですよね?」

瑞穂「大丈夫よ、死なせなんてさせないから。それよりも、名雪ちゃんをお願い」

香里「分かりました」

祐一と香里は名雪を部屋へと連れて行った

佐祐理「先生、私たちは何をしたらいいですか?」

2人と入れ替わりに、佐祐理、舞、潤、美汐、左京、右京が入ってきた

瑞穂「とりあえず、怪我をしているホムンクルス達を介抱してあげて、怪我の治療には魔法を使っても構いません」

佐祐理「分かりました。舞?」

舞「…うん」

美汐「北川さん、そちらの方をこっちに運んでください」

潤「了解だ」

左京「右京君、そっちを持っていてください」

右京「御意」

皆それぞれに怪我をしている者の治療に入る

瑞穂は一番重傷であろう秋子の治療に戻る

瑞穂「とりあえず、治癒力を高めないと」

瑞穂は、秋子の体に手を当てる

瑞穂「契約に基づき、全てを照らす聖なる光よ、傷つきし体に再生の力を! リカバリー!!」

秋子の体が暖かな光に覆われていく

瑞穂「体の機能が止まるのが先か、回復するのが先か、五分五分と言ったところか。それにしても、なんでこんな事に」

後は、秋子の生命力の強さに賭けるしかない
瑞穂はそれを信じて魔法をかけ続けている

それにしても、こんな状況になっているのか
瑞穂は見当もつかなかった

祐一「師匠、なにがあったんでしょう…」

祐一は名雪を部屋に連れて行き、ベッドに寝かしつけて香里に後を任せていた

瑞穂「あ、祐くん。どう? 名雪ちゃんの状態は」

祐一「はい、寝ています…というか、香里の当て身で気絶していると言った方が正しいですね」

瑞穂「そう────そうねぇ、なにがあったかは見当もつかないわね。ただねぇ、あの秋子さんがやられたって事は…」

祐一「師匠、秋子さんってどんな人なんですか?」

瑞穂「ん? 水瀬秋子って人はね、ハンター協会でも右に出るものが居ないって位のサマナーでね、私の所属する、セントラル・ハンターズ・ギルドの幹部だわね」

美汐「幹部…ですか?」

治療を終えた、美汐が二人の会話に入ってくる

瑞穂「あら、美汐さん、そっちはもういいの?」

美汐「はい、大方終わりました」

瑞穂「ご苦労様、で、まぁ、幹部になるくらいだから相当な実力の持ち主と言って良いわよ。眷属を召喚できるのも秋子さんくらいだし」

佐祐理「はぇ〜、そんなにスゴイ人だったんですか」

舞「気づかなかった」

潤「ああ、普通のお母さんって感じだったものな」

佐祐理達も治療を終え、会話に参加する

瑞穂「実力がある人ほど、それを外に出さないものよ。能ある鷹は爪を隠すってね」

美汐「でも、先生はどうしてそんなことを知ってるんですか?」

瑞穂「まぁ、イヤでも情報は来るわねぇ…」

皆の頭の上に?マークが浮かぶ
そんな姿を見て瑞穂は苦笑する

瑞穂「あ〜まぁ、何ていうか…。私もね、セントラルの幹部というかもっと上というか…まぁ、詳しくは追々ね」

祐一「上って…」

美汐「まさか…」

瑞穂「はいはい! 祐くん、とりあえず、ギルドに連絡してから病院に秋子さんを連れて行くわよ」

瑞穂はその場の話を打ち切った

なんとか、秋子の容態が回復しだしたので瑞穂が病院に行く準備を始める
祐一は、名雪を部屋に連れて行き、ベッドに寝かして香里に後を任せていた

祐一「なんで、ギルドに連絡するんです?」

瑞穂「一度、ギルドに連絡してから病院に行けば手続きを無視して入院できるのよ。それに、ギルドにハンターの状態を報告する手間も省けるし。それに、華音市の病院なら、ハンター御用達だし」

ハンターの街の病院は、CHGからリカバリーハンターとして任命されたハンターが医師、看護をしている。それはハンターを言う身分を知られないためとハンターの受ける傷、病気ははほとんどが普通のものではない。それを、短期間に回復させなければならない。そのため、回復技術に精通したハンターが治療を請け負っているのだ

瑞穂「そっちの状況はどう?」

一度、瑞穂は佐祐理達の治療の状況を見る

佐祐理「はい、皆さん、さほど酷くはありません。回復魔法でほぼ回復しました」

佐祐理の言うとおり、怪我をしていたホムンクルス全員、自力で行動出来るほど回復していた

瑞穂「そう、ではちょっと聞きたいことがあるんだけど」

瑞穂はホムンクルスの方に向き直る

瑞穂「誰がこんな事したか分かるかしら? 何か言っていたとか」

「そう言えば、誰かがこの家に来ました。秋子さんは随分驚いていました。確か、『雪村瑞穂と言う方ははいますか?』と言っていました。そのあと、訳も分からないままやられてしまって」

祐一「何故師匠を?」

佐祐理「先生に関わりのある方でしょうか?」

瑞穂「十中八九、そう考えて良いわね。でも、今はそんなことより秋子さんを病院に連れて行く方が先よ」

佐祐理「分かりました」

左京「では、私たちはこれから、ウォレスの館まで皆を連れて戻ります」

瑞穂「了解です。……そうねぇ、みんなもう少し頑張ってくれるかしら? 今後の各自の役割を決めます。私と祐くんは秋子さんを病院へ」

祐一「了解」

瑞穂「美坂さんと倉田さんはこの家に残って留守番。名雪ちゃん、それとあゆちゃんもお願いします」

瑞穂は祐一の連れてきたあゆを放っておく訳にも行かないので、とりあえず、名雪と共にこの家に置いておくことにした

香里「…了解しました」

瑞穂「天野さん、川澄さん、北川くん、右京、左京はホムンクルス達ををウォレスの館へ。もう、夜ですがその方が行動しやすいでしょう。ただ、秋子さんを襲った者がまだこの街にいるかも知れませんからその辺は十二分に注意をすること。いいですね」

美汐「分かりました。では、私が先行してルートを確保しましょう」

美汐は音も立てずにその場から消える

一同「……」

一同、沈黙
瑞穂以外は美汐は一体何者なのかと思ったことだろう

瑞穂「天野さんが先行するなら問題ないでしょう。では皆さん、もうすこし頑張りましょう!」

「「「はい!!!」」」
















アルフ「夜遅くにご苦労様です」

「良いのよ、このくらい。でもまさか、ギルド長がやられるとは思わなかったわね」

アルフ「ええ」

瑞穂はまず、ギルドに行き、アルフに状況を説明した後、すぐに病院へと向かった
そして、アルフを通して病院側に説明
即刻、秋子は入院した

落ち着いたところで、瑞穂とアルフそして、病院の責任者である神流千尋(かんなちひろ)が原因の究明を始めていた
神流千尋もギルドの一員で、瑞穂とは面識がなかったものの、秋子の知り合いと言うことで協力を申し出てくれたのだ

瑞穂「ホムンクルス達の話によると間違いなくターゲットは私ね」

千尋「じゃあ、ギルド長は巻き込まれたってこと?」

瑞穂「そう言うことになるわね」

千尋「! そう言うことになるわね? あなたよくも飄々とそんなことが!!!」

全く感情の入っていない瑞穂の発言が千尋の逆鱗に触れた
思わず、瑞穂の胸ぐらをつかみ上げてしまう
千尋にとって秋子はそれほど尊敬する人物だったのだろう

瑞穂「千尋さん、この手を放しなさい。いい? 今必要なのは状況の確認とこれからの行動の決定。無駄な行動は一切省く。無駄があればあるだけ敵の探索が難しくなる」

千尋「……」

瑞穂「秋子さんのことを思うなら、今は、悲しんだり怒ったりしている時じゃない。自身の能力を最大限に発揮してこのことを対処する。感情的になるのはその後。わかった?」

千尋はゆっくりと瑞穂を放した

アルフ「千尋さん、瑞穂さんは別に何も感じていない訳じゃありません。秋子さんに怪我をさせたものが憎いはずです。しかし、それは敵を見つけ出すには障害となります。ですから、あえて瑞穂さんはそれを封印しているのです。もちろん、それは簡単なことではありません。ですが、瑞穂さんはそれが出来るのです。だから、千尋さん、瑞穂さんの事、分かってあげてください。本当は瑞穂さん自身が一番悲しんだり怒ったりしたいはずなんですから」

千尋「…ごめんなさい」

瑞穂「いいのよ。私ももうすこし、気を利かせれば良かったわね。でも、これが、私のスタイルなのよ」

アルフ「それにしても、どうして瑞穂さんをねらったのでしょうか。目的が見えません」

瑞穂「まぁ、なんだかんだ言って敵は多いからね。魔術協会に聖堂教会…または、全くの別の組織。おそらくはその手の奴ね」

千尋「聖堂教会って何ですか?」

瑞穂「ああ、聖堂教会ってのはね、教会…キリストね。その教会の異端狩りが特化して大きくなったのもと言えばいいかしら。向こうにしてみれば魔術師や、錬金術師は異端だから、まぁ、放っては置かないわねぇ」

千尋「じゃあ、魔術協会とも?」

瑞穂「そうとは、言えないわね。まぁ、仲が悪いのは確かだけど、たまに、協力体制を取ることがあるのよ。吸血種…つまりはヴァンパイアを相手にするときとかね。私達は基本的に、悪者のみを相手にしているから、例え、ヴァンパイアであろうと、悪と見なさなければ相手にはしないし。そこが魔術と聖堂との違いかしらね。向こうさんは、吸血種というだけで、際限なく襲ってくるし…」

アルフ「魔術協会や聖堂教会はこの世界のみで活動しているにたいして、ギルドはほかの世界。精霊界、天界、魔界、冥界等に対してもアプローチしていますから、その辺の厄介事をこちらの世界に持ち込んでいるのも事実ですし、彼らにしてみれば倒すべき敵なのでしょう」

瑞穂「…別に好きで持ち込んでいる訳じゃないんだけどね。あちらさんは、その辺は知ったこっちゃないのよ。こっちは、一般人に被害が及ばないようにギルドの隠蔽、破損の修復やらしてるっていうのにねぇ」

ギルドは基本的に一般人、つまり、魔法などの特殊能力を持たないものにその存在を知られないため、自らを隠蔽する。
それは、もちろん一般人を保護するだけではなく、自分たちが他の権力に利用されない為でもある

瑞穂「…あ…」

瑞穂が突然思い出したように声を漏らした

アルフ「どうかしましたか?」

瑞穂「いや、もしかしたらなんだけど、一つ心当たりがあるのよねぇ…」

千尋「!」

アルフ達の顔に緊張したものになる

瑞穂「この街に来る前に、一つ仕事をしてきてねぇ…相手はたしか、ネクロマンサーだったかしら」

アルフ「ネクロマンサー!?」

千尋「?」

瑞穂「アルフは分かったみたいね。命ある物をこの世に召喚するサマナーに対して、死する肉体にかりそめの命を与え操るもしくはそれに似たものを操るネクロマンサー。似て非なるこの二つはサマナーが光ならばネクロマンサーは闇。で、ネクロマンサーの特性でね、サマナーの能力封印があるのよ。理屈はよく知らないけど」

千尋「では、秋子さんを襲ったのは?」

瑞穂「断言は出来ないけど、ネクロマンサーの可能性が強いわね。あの秋子さんがやられるんだからね。となるとネクロマンサー、秋子さんの肉親を使ったわね?」

アルフ「肉親…まさか…」

瑞穂「水瀬幸信…7年前に事故死したとされる、秋子さんの旦那さんであり、名雪ちゃんのお父さん」

アルフ「ご存じで!?」

瑞穂「まぁね、秋子さんとは古い仲ですから」

千尋「でも、7年も前の人の肉体なんてとうに朽ちているはずじゃ…」

瑞穂「そうね。でも、錬金術を応用すれば、肉体はいくらでも作ることが可能よ」

アルフ「…ホムンクルスですね!?」

瑞穂「ご名答。そう、ホムンクルスの技術を用いれば、死者の魂を入れる容れ物を作ることは可能…」

千尋「私は錬金術には詳しくないんで分からないんですけど、肉体をギルド長の旦那さんに似せて作れるものなんですか?」

瑞穂「何らかの方法で、その人の肉体の一部、髪の毛、爪、血液、体液、なんでもいいわ。そう言ったモノがあれば、その人に似せた肉体を作ることが可能よ」

アルフ「なるほど、これでこれまでの出来事に合点がつきました」

瑞穂「よし、そうと分かれば対策が練れるわね」

千尋「瑞穂さん、なにかお手伝いできますか?」

アルフ「私もお手伝いいたしますよ」

瑞穂「ありがとう。今回の敵の目的がまだ見えませんが、おそらく、私達の身内…性格には身内に似せた偽者を使ってかく乱してくることが予想されます。そういったことを防ぐために、今回の任務に就く者全員に個体識別の魔道具を渡します。アルフは華音学園、相沢祐一以下水瀬家に関わりのある者全員に
。千尋さんは、天野美汐をつうじて郊外の森にあるウィレスという男とその周りにいるホムンクルスに渡してください」

アルフ&千尋「了解!」

瑞穂「魔道具は明日の朝一番に二人に届けます。私はこれから、魔道具を作るから一旦、家にもどりますね」

アルフ「わかりました、では、明日」

千尋「秋子さんのことは任せてください」

瑞穂「お願いします」

瑞穂は魔道具の準備のために病院を後にした

千尋「ねぇ、アルフ」

アルフ「はい?」

千尋「瑞穂さんって一体何者なんでしょうか。年に似合わない雰囲気を持っているというか、私達より全然、威厳を持っているというか、とんでもないくらい知識が豊富だし…」

アルフ「そうですねぇ、ただのS級ハンターでは無いことだけは確かですね。まぁ、そのうち瑞穂さんの方から話してくれると思いますよ」

アルフはそう言って、笑みを浮かべていた

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