瑞穂は、名雪の魔力残渣を追って華音市より南方の町、三咲町に到着していた

三咲町
外から見る分にはごく普通の町である

だが、この町

ギルドが管轄している華音市と同様、裏の顔がある

この町は、遠野家の支配する町なのである

遠野家に生まれる者は何かしらの通常の人にはない能力を持って生まれる
当人達はそれを鬼種との混血とのせいと言っているが定かではない

それ故に、遠野家は影ながらこの町を守護してきた

だから、この町に面倒ごとを持ち込んだ場合、遠野家に黙っているわけにはいかないのだ

瑞穂はとりあえず、追跡を中断し、遠野家へと向かった

Wind Of Alchemist 

〜錬金術師の風〜 
混血の支配する町

瑞穂「こんなに大きいとは・・・」

瑞穂は目の前に建つ巨大な屋敷に声を漏らした

どこぞの貴族のお屋敷かと思うくらいの西洋の屋敷

此処こそが、三咲町を影で支配し、守護する遠野家である

瑞穂「面倒だけど、黙っているわけにもいかないからねぇ」

そう言いながら、屋敷の前の鉄門についてるチャイムを鳴らす

しばらくすると若い女の声が対応してくれた

「はい、どちら様でしょうか?」

瑞穂「申し訳ありませんが、ご当主様はいらっしゃいますでしょうか。ハンターズギルドの者ですが」

「少々、お待ちください」

しばらくすると、門からガチャッと音がした

「どうぞ、お入りください」

どうやら、来訪の許可が下りたようだ

屋敷にはいると、女の子が二人。その片方が先ほどインターホン越しに対応してくれた方のようだ
着物を着ている方の名は琥珀というとのこと。そして、対照的なのがもう一人の方。先ほどから黙っているだけのメイド
名を翡翠というと琥珀が教えてくれた
二人は姉妹なのだという

そんな会話をしているうちに、目的の場所に着いたようだった

「どうぞ、おかけになってください」

応接間らしき、場所に着くと、一人の少女が出迎えてくれた

年齢は名雪や香里に近いくらいに見え、黒髪が腰の辺りまである

「この館の主、遠野秋葉です。ハンターズギルドの方と聞きましたが・・・」

瑞穂「はい、ハンターズギルドマスター、雪村瑞穂です」

秋葉「! マスター自ら何の御用でしょうか?」

瑞穂「現在、華音市ギルドで追っているネクロマンサーがこの町に入りました。つきましては、そのことを一言ご報告に上がった次第です」

秋葉「そうですか。それは、ご苦労様です。現在、こちらも少々混み合っておりますので、こちらからの支援は出来かねますが」

瑞穂「お心遣いありがとうございます。こちらで何とかしますので大丈夫です」

秋葉「そうですか。では、探索中に遭遇するかも知れませんのでこちらのことも少しお話ししておきましょう」

瑞穂「?」

秋葉は、近くに控えているメイド二人に目を配る
メイドは「かしこまりました」と応接間を出て行った

秋葉「あの子達を巻き込みたくないので」

そう、最初に付け加えて話し始めた

秋葉「現在、この町で奇妙な事件が多発しております」

瑞穂「奇妙?」

秋葉「はい、血痕が残されているのですが遺体が全く見つからないのです」

瑞穂「それは単に犯人が連れ去っているのでは?」

秋葉「そうではないのです」

瑞穂「?」

秋葉「遺体が自分で移動しているのです」

瑞穂「! グール!!」

秋葉「ご存じでしたか」

瑞穂「ええ、過去に何度か見ていますから。しかし、グールがいると言うことはこの町にはヴァンパイアがいるのですか?」

秋葉「私自身まだ見ていませんから確証は出来ませんが、おそらくは」

瑞穂「そうですか。分かりました。ネクロマンサー関連の仕事が終了次第、華音市ギルドで秋葉さんの支援に就きます」

秋葉「! いえ、ギルドさんのお世話には・・・」

瑞穂「お一人では無理です。いくら混血のあなたでもヴァンパイア相手では」

秋葉「! 何故そのことを!」

瑞穂「ギルドの情報収集力を甘く見ないでください。世界各国にいる能力者の把握はついています。あなたが鬼種とよばれる生粋の魔と人間との混血の末裔と言うことも分かっています」

秋葉「・・・お見通しなのですね」

瑞穂「はい。秋葉さん無理はいけません。あなたがこの町の守護を誇りとしていることは分かっています。そして、それを義務と感じていることも。でも、あなたが無理をしてもし万が一、あなたが倒されることがあれば誰がこの町を守護するのですか?」

秋葉「・・・」

瑞穂「あなたはこの町に必要な存在です。大丈夫です、秋葉さんのご迷惑になる支援はいたしませんから」

秋葉「そうですか、分かりました。ネクロマンサーの一件が終了したら申し訳ありませんがお願いします」

瑞穂「了解です」

秋葉「そうですね、その方が兄さんも安全ですし・・・

瑞穂「え? 何か言いました?」

秋葉「い、いえ! 独り言ですので。お気になさらずに。では、ネクロマンサー探索中グールに遭遇した時の対処はそちらに任せます。くれぐれもお気をつけて」

瑞穂「はい、そちらこそ。では、失礼します」



























瑞穂は遠野家の屋敷を出る

見送りは先ほどのメイド二人と主人の秋葉

一礼をして、そのまま空へと飛び上がる

下の方で「わ、あの人飛びましたよ?」とか聞こえるが気にしない

そして、再び魔力残渣を探索する

しばらくすると、名雪の魔力残渣を見つけることが出来た







その残渣を追いながら瑞穂は少し考えていた

瑞穂「ヴァンパイアか、なんかあの子が絡んでいそうねぇ」

ヴァンパイア絡みの仕事は今回が初めてではなかった
そして、この仕事にはほぼ必ずある人物が絡んでいた

瑞穂「まぁ、考えてもしょうがない。今は名雪ちゃんが先決と」

今は、名雪ちゃんを助けなければならない
急がないと取り返しがつかなくなると直感していた

いつの間にか辺りはすっかり日が暮れて暗くなりつつあった
先ほどから追っている名雪の魔力残渣が濃くなってきてる





瑞穂「近いわね。それにしても、これは厄介なことになりそうねぇ」

瑞穂が向かっている先、ぼんやりとしか見えないがどうやら、お墓らしき場所に向かっているようだ

瑞穂「光在りし所に存在し闇よ、光に頼らず周囲を見渡せる力を! ダークネスビュー!」

瑞穂が闇の魔法を使い、光を使わず、周囲への視力を付ける
光の魔法、ライトという選択肢もあったが、闇の中で光を灯すと敵に発見される必要があったからだ

瑞穂「よっと」

瑞穂は空から地上へと降り、地を滑るように地を駆け抜けていく

しばらく進むと、普通では考えられないほど大きい墓石の前に辿り着いた

瑞穂「! あれは、名雪ちゃん!」

その墓石の前に倒れている名雪を発見した
だが、様子が何かおかしい

瑞穂「・・・名雪ちゃん?」

瑞穂が近づいて名雪の様子を見る

瑞穂「ん?」

名雪に何か違和感を感じる

瑞穂「! 名雪ちゃんの近くに魔力波動!?」

「────雷よ────」

瑞穂「!!」

咄嗟に名雪ちゃんから飛び退く
と同時に上空から雷が降ってきた

瑞穂「ちぃっ! スキャン!」

名雪の体を魔力探査する

すると、名雪ちゃんから二つの魔力波動を感知した

瑞穂「これは、寄生?」

言葉にして、瑞穂はすぐに首を振る
寄生ならば、瑞穂であればすぐに気づいたはずである

そして、もう一つわかったことがある

この二つの魔力波動、一つは反応が強く、一つは弱い

名雪「出てきませんよ? マスターは」

瑞穂「!」

いつの間にか名雪が瑞穂の背後に立っていた

そして、背後から魔力の集束を感じる

名雪「バーストブレイズ!」
瑞穂「コールドバリア!」

名雪の爆発の魔法と同時に瑞穂は氷の防壁を展開した

魔力で作られた属性防御は術者の魔力によってその強度が左右する
今回は、瑞穂のコールドバリアの強度が勝った

瑞穂「名雪ちゃん、やめなさい!」

氷の防壁を解除しながら名雪に対峙する

名雪「イヤです。だって、瑞穂さんはお母さんを殺したんだから」

瑞穂「!? まさか・・・」

有りもしないことを口走る名雪

考えられることは、洗脳

名雪はネクロマンサーによってありもしない事実を脳にすり込まれている
現に瑞穂が秋子を殺したと誤認している

あの状況
名雪が血を流している秋子を見て錯乱した状態で香里が名雪の意識を奪っている
ということは、ショックと混乱によって記憶が曖昧になっているところに
別の情報を介入させ、記憶を操作するには難しくない

瑞穂「仕方ないわね、ちょっと荒療治よ!」

瑞穂は右手を前に突き出し、魔力を集中させる

瑞穂「全てを照らす聖なる光よ、我に敵為す者の視力を奪え、フラッシュ!」

一瞬昼間かと思うほどの閃光が名雪に降りかかる

まともにその光を視界に入れてしまった名雪は、ほんの一瞬意識を飛ばしてしまった

その一瞬を瑞穂は見逃さなかった

その刹那、瑞穂は、名雪の周りに4本の短剣を囲むように地面に突き刺す

瑞穂「これより放つは、不動の陣。何人たりともその陣内に入ることも出ることも許されじ。雪村瑞穂の名において闇の精霊シャドウよ。この不動の陣内にいる水瀬名雪を縛せよ!」

闇の陣の中から黒い手が名雪をとらえる

名雪「!」

瑞穂はまず名雪の動きを封じてから、名雪の意識を操っている魔力波動の除去に取りかかろうと思っていた
が、次の瞬間、瑞穂の予想を超えた事態が発生してしまう

名雪「ああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

突如、名雪から凄まじい魔力が発生する

瑞穂「これは・・・」

その大量の魔力に先ほど張った不動の陣も吹き飛んでしまった

ふと、瑞穂は思い出した

いつも、眠たそうにしている名雪
普段、かなり早い時間に寝ているのにもかかわらず朝はいつも眠そうなのだ
もしそれが、今の名雪のこの状態の原因だとしたら・・・

瑞穂「封法による、自己魔力の抑制が暴走した?」

「瑞穂さん!」

声がした方を振り向くと、そこには秋子がいた

瑞穂「秋子さん」

秋子「あゆちゃんから話しを聞きました。突然、高魔力が吹き上がったのでもしやと思い、来てみたら正解だったようですね。」

瑞穂「秋子さん一人で?」

秋子「いえ、後から祐一さん達が来るはずです。私は一足先についただけです。それにしてもネクロマンサーは厄介なことをしてくれましたね」」

瑞穂「秋子さんは、名雪ちゃんの潜在魔力をご存じで?」

秋子「ええ、一応、私の娘ですから」

瑞穂「あ・・・なるほど」

秋子「実は、昔にもこんな事があったのですよ

瑞穂「昔・・・」

昔と言われて瑞穂はすぐにピンと来た

おそらくそれは7年前の出来事

あゆちゃん、真琴ちゃんと美汐ちゃん、舞さん、そして名雪ちゃん

5人とも7年前にある人物と接触しているという共通点がある

それは祐一

7年前、形は違えど祐一と接触しているのである。
そして、祐一が力を封印し記憶を失ったときでもあるのだ

秋子「瑞穂さん?」

瑞穂「あ、ごめんなさい。秋子さん、祐くん達が来る前に名雪ちゃんを何とかしましょう」

秋子「そうですね・・・」

瑞穂「!」

突如、名雪の魔力を収まり始める

それと同時に名雪から何かが飛び出してきた

秋子「こ、これは・・・」

秋子は驚いた様子で、名雪から飛び出してきたものを凝視している

瑞穂「秋子さん?」

秋子「瑞穂さん、気をつけてください。今、名雪から出てきたのは7年前に現れたネクロマンサーです」

瑞穂「!」

瑞穂は秋子の言うことに混乱した
確かに自分はネクロマンサーを追っていた
しかし、それがなぜ7年前に現れたものなのか
どうして、それが秋子に分かるのか
そもそも、7年前に現れたネクロマンサーは排除されたのではなかったのか

瑞穂「秋子さん、7年前のネクロマンサーは排除されたのではなかったのですか?」

秋子「ええ、あの時は排除されたと思っていましたが・・・どうやら、名雪の中に潜んでいたようですね」

瑞穂「潜んで・・・まさか!」

おそらく、このネクロマンサーは7年前、魔力の暴走した名雪に目を付け、排除される寸前に何らかの手段で名雪の中に息を潜めたのだろう
そして、その魔力を抑えるために名雪に施した自己魔力抑制の封法によってネクロマンサーごと封印
結果、ネクロマンサーは7年間という間名雪の抑制されていた魔力を吸い、ため込んでいたのだろう

瑞穂「とりあえず、名雪ちゃんを回収しましょう」

「おっと、それ以上動くとこのお嬢ちゃんが真っ黒焦げですよ」

ネクロマンサーが魔力を名雪の方向に向けてこちらを威嚇している

秋子「・・・」

瑞穂「やれるものなら・・・」

無詠唱 時空魔法 タイムフリーズ発動!

残り4秒
名雪にダッシュ

残り3秒
名雪を確保

残り2秒
元のいたところへ

残り1秒
タイムフリーズ解除!

瑞穂「・・・やってみなさい」

「! なにをしたんですか?」

時を止め、名雪を取り戻した瑞穂をネクロマンサーは動揺した
ネクロマンサーからは名雪が瞬間移動したように見えたからだ

瑞穂「あなたはバカですか。敵にみすみす自分の能力を教える人が居ますか」

「なるほど、違いありません。どうやら、やっかいな魔法を使うようですね」

そういうと、ネクロマンサーの周りの空間が歪み始めた

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