瑞穂「はい、今日の授業はここまで」
本日、最後の授業が終了し
瑞穂が教室から出て行こうとしてふと言い忘れていたことに気づく
瑞穂「祐くん、ちょっと」
自分の荷物を鞄に放り込んでいる祐一を呼ぶ
祐一「ん? 何ですか? 師匠」
瑞穂「悪いんだけど、帰る前に職員室によってもらえないかしら?」
祐一「ええ、構いませんよ」
瑞穂「悪いわね」
Wind Of Alchemist
〜錬金術師の風〜 昔話
祐一「それで、何のようですか?」
瑞穂「体の方はもう平気かと思ってね」
美汐と真琴が契約を結んだ日からもうすでに一週間を過ぎていた
祐一は魔力の絶えかけていた真琴を救うために自分の魔力を真琴に分け与えたせいで
丸三日眠っていた
祐一「もう大丈夫です。魔法も普段通り使えますし」
瑞穂「そう。じゃあ、祐くんが美汐ちゃんを助けたとき、それと真琴ちゃんに魔力をあげたときに使った魔法のこと覚えてる?」
瑞穂の問いに祐一は芳しくない顔を浮かべる
祐一「覚えているには覚えているんですけど、あの時はなんか、自分じゃなかったというか。頭に浮かんだ言葉をそのまま言っただけなんですよ」
瑞穂は人差し指を唇に当てて少し考える
あれは、紋章魔法(クレストマジック)
精霊魔法と違って契約は不要だが、紋章を刻まれた者しかその魔法は使えない
消費魔力は精霊魔法に比べ桁違いに多いが、その魔法はかなりの威力がある
この紋章、普段は見ることが出来ないが、紋章に魔力が通されると
発光し、体の表皮に浮かび上がる
継承方法は血縁の遺伝継承のため現在でも確認される術者は少ない
瑞穂「祐くん、そういえば記憶の方だいぶ戻ってきてるみたいだけど」
祐一「ええ」
瑞穂「お父さん、お母さんのことは思い出した?」
祐一「……」
瑞穂「そう、まだなのね」
祐一「すみません」
瑞穂「いいのよ。そうねぇ、私が祐くんのお父さん達に会ったのは随分前だったかしらねぇ」
「貴女が雪村さんかしら?」
私がハンターとして活動を初めて2年ほど立ったとき、ギルドにいた私に祐くんのお父さん達が声をかけてきた
瑞穂「ええそうですけど、失礼ですが貴女は?」
夏美「私は相沢夏美、これは私の夫で隆行です」
隆行「はじめまして、瑞穂さん」
瑞穂「えっともしかして、今度のハンティングのパートナーですか?」
今回の仕事はギルドの方から私をパートナーとして指名したいというハンターの要望を受けてのものだった
夏美「はい、今回はちょっと二人じゃきびしいもので」
隆行「そこで、ハンターをして優秀だと聞いた貴女を指名させていただきました」
瑞穂「あ、いや、それは嬉しいんですけど、良いんですか私で?」
自分はただ、仕事をこなしていただけだし、優秀だとは自分では思っていなかった
ただ、改めてそう言われてしまうと、嬉しさの反面、恐縮してしまう
夏美「ええ、それに、ハンター界最年少のハンターさんと一緒に仕事してみたかったし♪」
抱きっ
瑞穂「えっ? なに? なになに??」
突然、夏美さんに抱きつかれてしまった
隆行「おいおい、夏美、癖が出てるぞ」
夏美「だって、可愛いんだもんこの子♪」
瑞穂「えっ? 一体これはど〜なってるんですかぁ?」
そう言っている間も夏美さんは私を放してくれない
隆行「すいません、瑞穂さん。夏美は自分が可愛いと思ったものに抱きつく癖があるんですよ」
夏美「ふに〜〜〜」
瑞穂「ふぇぇぇぇ、た、助けてくださ〜い」
瑞穂「ふぅ、お疲れさまでした」
隆行「いやいや、助かったよ瑞穂さん」
夏美「すごいわね、瑞穂ちゃん。その歳であんなに色々な魔法を使いこなすなんて」
無事にハンティングを終えた私達はギルドに戻ってきていた
今回の仕事は時空の歪みから生じたモンスターの殲滅
戦闘の役割は隆行さんが主に攻撃、夏美さんがその補助
私は攻撃と補助の両方を受け持った
瑞穂「いえいえ、まだまだですよ」
隆行「そんなに謙遜しなくても良いですよ、ダブルマジックすらも使ってしまうんですから」
夏美「そうよぉ、剣の腕も結構たつし、確か、一人で15体くらい相手にしてたかしら?」
瑞穂「あぅ」
二人に挟さまれたうえにほめちぎられて、顔が真っ赤になってしまった
夏美「あらあら、瑞穂ちゃんお顔が真っ赤よぉ? ゆでだこさんみたいよぉ?」
瑞穂「あぅあぅ」
隆行「おいおい、夏美、あんまりからかうなよ」
夏美「だって、やっぱり可愛いんだもん、この子」
抱きっ
瑞穂「ああ、もう勘弁してくださ〜い」
それからしばらくして、夏美さん達の方から直接私に会いたいとの連絡があった
おそらくは、また仕事の話だろうと、私はギルドに向かった
ギルドの中には夏美さんと隆行さんそれに一人の男の子がいた
夏美「瑞穂ちゃん、お願いがあるの」
隆行「しばらく、私達の子、祐一を預かってもらいたいんだ」
瑞穂「えっ? 祐一?」
ギルドにある椅子に座っている子。たぶんこの子が祐一くんだろう
夏美「ごめんね、瑞穂ちゃん。私達、しばらくこの子を連れて行けないのよ」
瑞穂「どういう事ですか?」
隆行「私達はこれから魔界に行きます」
瑞穂「それはまた、唐突ですね。で、長いんですか?」
おそらく仕事で行くのだろうがそれは知れたこと
自分に関係しない仕事の詳細は聞かないのがこの仕事の礼儀
夏美「そうねぇ、状況にもよると思うんだけど短くて10年位かしら」
瑞穂「10年…長いですね」
隆行「ええ、ですが今の状態の祐一を魔界に連れていくわけにはいかないもので」
瑞穂「今の状態?」
夏美「祐一ね、今、不安定なのよ。以前に魔力が暴走しちゃって何とかその時は力を封印することで収まったんだけど一緒に記憶まで封印されちゃったみたいなのよ」
瑞穂「夏美さん、封法は高位施錠式結界封滅法を使いましたか?」
夏美「ええ、そうよ。でも、何で分かったの?」
夏美さんは驚いた顔をして私を見た
そうなるのも無理はない
夏美さん自身はこの封法についてなにも言っていないように思っているけど
実はそうでもない
高位施錠式結界封滅法
この封法は相手の深層意識に働きかけ、何らかの障害が生じている部位に対して
結界を張ることによってその部分を封印しアクセス出来ないようにするもの
その影響で、記憶の一部分も一緒に封印されてしまう場合があるのだ
夏美さんが先ほど言っていた『力を封印することで収まったんだけど一緒に記憶まで封印されちゃった』
という言葉。これは紛れもなく高位施錠式結界封滅法の影響
瑞穂「夏美さんは気づいてはいませんが、先ほど夏美さんの言葉にヒントがありましたので。あ、それと一つ聞きたいのですが」
夏美「なにかしら?」
瑞穂「どうして、高位施錠式結界封滅法を使ったのですか? この封法、封印力としては高くないのですが…もし、完全に封印したいのなら…」
夏美「そんなこと、私は望んではいないわ。私はただ、一時的に祐くんの力を制御したかっただけ。もし、彼が望むなら、この結界を自力で解くでしょ? まぁ、自力で解けるくらいならすっかり自分の能力も制御できるだろうし」
瑞穂「すみません、失言でした。そこまで考えていらっしゃったんですね」
自分の浅はかな発言に後悔する
封法は本来、敵の能力を封じるためのもの
だから、封法をかけられた後のことは考えられていない
下手をすれば、精神が破壊され廃人になってしまってもおかしくはない
夏美さんはおそらくそれを恐れたのだと思った
夏美「で、さっきも言ったけど、今の祐一ね、魔力的に不安定な上に魔法、魔術的なことに関してはゼロな状態なのよ」
瑞穂「それも、封法の影響ですか?」
夏美「いいえ、ただ単に教えてなかっただけ。まぁ、祐一から教えて欲しいって言われたら教えてたと思うけど。こればっかりは自分から進んでやらないとダメだからね」
魔法に限らず、何においても自分から進んでやるのと、人から半ば無理矢理やらされるのとでは習得するスピードが段違いに違う
好きこそものの上手なれとはこの事
瑞穂「そうですね。でも、私にお預けになるのでしたら錬金術はたたき込みますよ」
夏美「あ〜、そうだったわね。そうね、錬金術ならあって困るものじゃないし」
通常、錬金術師は単独で生活している
それは、ただでさえ、社会の秩序を変革させる力を持っている錬金術の成果を
むやみに人に知られないようにするためである。
しかし、同等或いは本人以上の錬金術の使い手
または、そうなるために修練をつむものには問題はない
つまり、私の元にいると言うことは錬金術の知識、成果の無用の流出を防ぐために
私の弟子となり、私の元で錬金術の真髄について学び、修練をつまなくてはならないのだ
瑞穂「でも、魔法は教えませんよ。多分、しばらくは錬金術で手一杯になると思いますから。そうですね、もし祐一くんが望んだら教育機関に預けます。それで良いですか?」
隆行「かまいません。貴女もその方が良いでしょう?」
瑞穂「はい」
夏美「あ、それともう一つ祐一に教えてやって欲しいことがあるんだけど」
瑞穂「何でしょう?」
夏美「剣術。祐一には魔法以外の力が必要になる時がきっと来るわ。あなたなら、腕が立つし…ちょっと無理なお願いかしら?」
瑞穂「そうですね、初めのうちは無理だと思いますけど基本的な錬金術の理を会得出来ればあとは私の出す課題をこなすだけになりますからそうすれば、時間が出来ます」
夏美「それでかまわないわ。祐一のことよろしくお願いするわね。あ、それと、もし祐一が私達の事聞いても、魔界に行ったことはしばらく黙っておいて欲しいのよ」
隆行「行くところが行くところですし、万一、帰ってこれないことがあるかも知れないので」
瑞穂「────分かりました、祐一くん、確かにお預かりいたします」
祐一「そうですか、親父とお袋は魔界に…」
瑞穂「ええ、未だ私に連絡が無いからまだ向こうにいると思うけど」
祐一「そうか…そう言うことだったんだ…」
ぼそっと言った祐くんの一言が聞こえてしまった
だけど、聞こえなかったふりをしておこう
瑞穂「そうそう、祐くんの使った魔法は紋章魔法って言ってね。昔、夏美さん…祐くんのお母さんが魔力の暴走した祐くんを抑えるために封印したときにおそらくそれも一緒に封印したのよ。だけど、祐くんの魔力の上昇、および魔力操作の向上によって封印の一部が開放されたのね。紋章魔法は紋章自体に意志が存在するから、開放と同時に術者である祐くんに語りかけてきたのよ」
祐一「そういえば、初めてその紋章魔法を使ったときに何か思い出したような…」
瑞穂「祐くんに使われた封印術、封法は高位施錠式結界封滅法っていう名前で、封印直前に起きた出来事と連結させて封印しているからその出来事と似たものを体験することによって結界が一時的に緩くなるの。その時に力を解放することによってこの封法は解除されるわ。だから、今の祐くんには封法は一切かかっていないはずよ」
祐一「そう言われても、よく分からないですよ」
瑞穂「そうねぇ、じゃあ、久しぶりに試しがてら稽古でもする?」
祐一「そうですね、俺も自分の力を知りたいですし。つきあってもらえますか?」
瑞穂「もちろん。じゃあ、20分後、実習場でいいわね?」
祐一「はい、わかりました!」
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