息子が初めて私のパジャマの裾を握った日をはっきりと覚えている。退院したばかりで、なかなか寝付けず泣きじゃくる息子を抱き上げ部屋中を歩いていた時だ。それまで手はグーばかりだった息子が私の背中に手をまわし、パジャマの裾を握った。息子は相変わらず泣き続けていたのに、パジャマを握られて不思議なほど喜びの感情が湧きあがったのを覚えている。パジャマを握ったのは全くの偶然だったのだろうが、まるで自分を頼りにされているように思えて嬉しかった。
次に感動したのは息子を抱っこしながら掃除機をかけていた時だ。ふと気がつくと息子が私のパーカーのひもを握りしめていた。服のすそをつかんでいた息子がもっと細いものを自然と握ることができるようになっていたことに喜びを感じた。そこで彼に握って遊ぶおもちゃを握らせてみることにした。彼の閉じられている手を開き、握りやすい部分を握らせる。最初、握りこぶしは固く、ようやく握らせたと思ったら離してしまう。それでもおもちゃを握ったことに感動して「すごいなあ!」とほめ続けた。ほめらるのが嬉しいのか、毎日毎日おもちゃを握る時間が長くなっていった。
次に彼に見せたのは手でぶらさげて遊ぶ「プーさんメリー」だった。彼はメリーに興味津津で最初は見つめていただけだったのが、次第に右手をのばし、左手をのばし、グーのままメリーに触ろうとし始めた。そして数日後ついにグーだったその手を自ら開き、メリーをつかもうとした。わたしは「プーさん、つかまえられるかな?」る。全然めげないし、飽きない。そのうち、彼の指がプーさんに触れるようになってきた。「嬉しいなあ。もう少しだね」そう言っていたら、彼の指がプーさんをつかんだのである。その時の彼の得意そうな顔!私も思わず声をあげて拍手をし絶賛しまくってしまった。その後、彼は右手左手、それぞれで何度も何度もプーさんをつかんでは満足そうな顔をした。そして今度は「つかむ」から「つかんでひっぱる」ことにも挑戦するようになっていった。
この「プーさんつかみ事件」は他のおもちゃにも波及効果をもたらし、でんでん太鼓を自ら握ったり、握った手を1度離して握りなおしたり、ひもがたくさんついたハンカチを自ら握ろうとしたり、自分の服をつかんだりするようになっていった。はじめは手を握りしめて生まれてきた息子が手を開き、指を動かし、モノをつかむようになっていった。そのモノをつ芋かむ時の指の動きが日に日になめらかになってきている。モノをつかむ行為を通して指の動きが発達し、指の動きが発達することで脳に刺激がますますいくようになるのかなあと思った。
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