NPO法人エトセトラ / Qでつなごう!幸せの子育て・目次

問題20 毎回同じ本ばかり「読んで!」の攻撃にどう対処

 私の師である向山洋一氏は子どもの頃のことを次のように書いています。[7]

 「私は、小さい頃、両親から絵本の『読み聞かせ』を、毎日してもらった。同じ話である。私は、その話をいつしか、覚えてしまい、小学校に入学して、担任の渡辺先生に認められ、みんなの前で語ってみせた。」

 向山氏は自分の娘さんにも読み聞かせをしています。[7]

 「夜寝る前に、絵本を読んであげたというのはとてもすばらしいことです。わが家も、娘が小学校二年生ぐらいまで、三冊から五冊ほど、毎晩読んでやっていました。私の担当は週に一回でしたが…。」

 向山洋一氏は大人になり、小学校の教師となりました。日本に学校制度ができて以来、最もたくさんの本を書き、最も大きな教師の教育研究団体「TOSS(トス)」を創り上げることになります。また、その娘さんの向山恵理子氏は、「アニャンゴ」という名のミュージシャンとなりました。東アフリカのルオ族の伝統楽器 「ニャティティ」の世界初の女性演奏家です。ケニア政府から「日本ケニア文化親善大使」に任命されるほか、2009年Newsweek誌(日本語版)による「世界が尊敬する日本人100人」にも選ばれ、世界で活躍しています。
 二人の著名人が、小さい頃に「読み聞かせ」で育ったのは偶然ではなく伝統です。それは、その家の伝統でもあり、日本の伝統でもあります。私の家も、さっとママの家も、知らず知らずのうちに、その伝統を受け継いだ子育てをしていました。私の娘たちは世界で活躍するような有名人ではありませんが、素直で、真面目で、たくさんの人から愛され、幸せな人生を送っています。さっとママの息子さんはまだ6歳ですが、きっと幸せな人生を歩んでくれると思います。「読み聞かせ」は知識と愛情を注ぐ時間です。「読み聞かせ」で育った子には、たくましく生き抜く自信と人を思いやる優しさが身につくのではないでしょうか。

【答え】

同じ本を読み続けてもいい

出題のポイント

同じ本だからこそ自信が育ちます。百回、二百回読んでも飽きないかもしれません。答えを単純に言うなら「飽きるまで読んでかまわない」ということになります。

 江戸時代の子どもたちは6歳頃から百人一首を覚え始め、10歳までにひと通り覚えてしまったそうです。百人一首と言えば平安時代、鎌倉時代の短歌です。大人の色恋を詠ったものがたくさんあります。6歳の子どもには意味まではわからないでしょう。それでも多くの子どもたちが大人から教わり、繰り返しの中で自然に覚えてしまっていたそうです。そのリズムや言葉づかいがその後の人生の大きな糧となることを大人たちは知っていたのだと思います。
 名文詩文を覚えてしまうことを暗唱と言います。学校の授業でも暗唱は子どもたちに人気です。繰り返し読んで覚え、覚えたことを口にするという勉強を子どもたちは「楽しい」と言います。子どもは繰り返しが好きなのです。わが家の四女は暗唱が大好きでした。小学校二年生のときに学校で「寿限無」という落語の一節を習ってきました。物凄いスピードで、「寿限無 寿限無 五劫の擦り切れ 海砂利水魚の水行末 雲来末 風来末…」という長い台詞を家族の前で得意気に披露しては、いろいろな人から「すごいねえ」と言われていました。「繰り返し」は、繰り返すそのこと自体に面白味があり、繰り返して覚えてしまったあとに自信が持てるというすぐれたシステムなのだと思います。

[7]向山洋一『向山家にみる日本の伝統的子育て』(NPO TOSS授業技量検定)51

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