NPO法人エトセトラ / Qでつなごう!幸せの子育て・目次

問題37 「いじめ防止対策推進法」で守られているのは誰?

 ここで、なぜ「いじめ」が法律まで作られて禁止されているのかを考えてみます。
 そのことは第一条(目的)に書かれています。

 いじめが、いじめを受けた児童等の教育を受ける権利を著しく侵害し、その心身の健全な成長及び人格の形成に重大な影響を与えるのみならず、その生命又は身体に重大な危険を生じさせるおそれがあるものであることに鑑み(後略)

 理由は2つです。ひとつは「人格の形成」に影響するということです。もうひとつは「生命又は身体」に影響するということです。短く言えば「心」と「体」に重大な影響を与えるということです。


 東北大名誉教授の松沢大樹氏は、いじめを原因に心の不調を訴えてきた子どもたちの脳を調べ続けました。診察を受けた子どもたちは「いじめ」が原因で、精神不安、睡眠障害、不登校、自殺未遂などを抱えていました。この子たちの脳をMRIやPETで撮影した結果、脳の扁桃核という部分に傷が見られ、萎縮しているという共通点が発見されました。扁桃核は脳の真ん中で「気持ちによる判断」を行うところです。その大事な部分に傷がついているというのです。つまり、「心の傷」というのは「脳の傷」であって、本当に体が傷ついているということだったのです。[11]

 それだけではありません。シカゴ大学のベンジャミン・レイヒー氏の研究によると、いじめている側の子の脳にも異変が起こっていることがわかっています。レイヒー氏は、うそや窃盗、公共物破損、弱い者いじめといった経歴を持つ16〜18歳の少年8人の脳活動を検査した結果、8人が8人とも他者の痛みや苦しみを感じ取る部分が活動していないことが明らかになりました。この結果は、他人を傷付けるたびに喜びが強化されている可能性を示しています。つまり、罪を犯し続けると、他人の気持ちが理解できなくなるとともに、罪を犯すことに喜びを感じてしまうというのです。[12]

 「児童」とは、大人になる前の成長過程の存在です。児童が「いじめ」に遭うと脳が傷つけられます。児童が「いじめ」を行うことも児童の脳を不全にさせます。第四条は定めています。

 第四条(いじめの禁止) 児童等は、いじめを行ってはならない。



[11]中日新聞・連載「いじめと生きる」第4部・「科学的」に考える(1)「心が傷つけば脳にも傷がつく」(2007年3月16日)
[12]ナショナル・ジオグラフィックニュース「人の災難を喜ぶいじめっ子の脳」 November 7, 2008

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