NPO法人エトセトラ / Qでつなごう!幸せの子育て・目次

問題45 有名中学に合格する子に共通した家のつくりとは?

 ミサワホームの取締役や住宅都市工学研究所理事長などの経歴を持つ三澤千代治氏は日本の古い生活文化について次のように説明しています。[34]

  日本の古い家屋は、ふすま障子で仕切られていたので、家の中の音が筒抜けになっていました。プライバシーが保てないことから欠点のようにいわれてきましたが、子どもの成長や高齢化社会を考えた場合、家の中に誰かがいるという気配が安心感を与えます。昔は台所で母親が夕飯の支度をしている音を聞き、匂いを感じることで「ご飯ができましたよ」のひとことで家族がすぐにそろって食事をすることができました。現在は同じ家に住んでいながら、家族バラバラに食事をしています。何かが抜けているように感じます。

 この説明は奥が深いです。母親のひとことで家族が急に集まるわけではありません。支度をしている時からその音や匂いによって状況を察知し、お互いに心づもりをした上で家族が集まって来るというわけです。「見える」「感じられる」住居には、こうした生活文化が根付いていたということです。

 また、三澤氏はふすまの効果について次のように取り上げています。[35]

  ふすまの効果により、間接的に聞くことによって説得力が生まれ、相手の意思がきちんと伝わることがあります。ふすま越しに父母が話している家計のこと、子どものしつけのことなどを、盗み聞くのではなく、自然と耳に入ってくるので、自分の立場を理解し自立していくのだと思います。良い関係の家族とは、それぞれの気持ちを隠すことなく理解しあい、察しあうということだと思います。ふすまの効果によって人の気持ちを察するという、社会に出るための第一歩を自然に勉強していることになります。

 この説明からは「見える」「感じられる」という空間を積極的に利用していることやそのことが自然に人を育てる環境になっていたことがわかります。

 このように「見える」「感じられる」は住居の形と結びついた日本の生活文化でした。それを「見えてしまう」「感じられてしまう」というマイナス面でとらえて切り捨ててしまったところに一つ目の落とし穴がありました。もう一つは欧米型の住宅の形だけを取り入れて西洋の生活文化を考慮しなかった点です。たしかに欧米では個室のある住居が主流ですが、家族のコミュニケーションを大切にする文化(ルール)があり、「子ども部屋は寝る時だけで家族はなるべくリビングで過ごす」といったことが強く決められています。『わが子を天才に育てる家』の著者・八納啓造氏は欧米の子ども部屋を次のように説明しています。[36]

  基本的に、部屋には一人で寝るためのベッド、自分で服をたたんでしまう習慣を促すための棚などがあります。特別なケースでないと、個室に学習机などは入れないし、日本とは違って、学習専用机というものはほとんど存在しないのです。本家本元のアメリカやヨーロッパの子供部屋の考え方を知ると、日本の子供部屋がどれだけ特殊なものかが実感できるでしょう。

 こうした文化の違いを考慮せずに個室に走ってしまったのが戦後の日本です。高度成長と学歴社会がその後押しをする形となり、子どもには勉強部屋という名の個室を与える風潮が強まりました。「小学校に入学した時には学習机を与える」「年頃になったら個室を与える」といった風潮は今でも強くありますが、その背景にはこうした文化の違いや住宅が変化してきた歴史があります。現在の私たちが子育てをする時に、どのような選択をするにせよ、こうした背景を知っておいて損はないはずです。そして、その上で、「勉強ができる子はどんな環境で生活しているのか」という最近の状況を見ていくことにしましょう。

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