NPO法人エトセトラ / Qでつなごう!幸せの子育て・目次

問題28 8歳までのどんな経験が人間関係力を高める?

 テレビとゲームに関するお話をあと一つずつ紹介します。

 まずテレビ(DVD)です。ワシントン大学での実験です。9ヵ月の赤ちゃんを二つのグループに分けて、片方はDVDによる中国語のレッスン、片方は中国人の先生による中国語のレッスンを実施しました。その結果、DVDでのレッスンは効果が出ませんでした。これは、テレビでは相手との相互的なやりとりができないことに最大の原因があると言われています。つまり、DVDでは一方通行の情報しか流れず、赤ちゃんの反応に対してすぐに反応を返したり、赤ちゃんの注意を引くなどの自然な動機づけができないので効果的な学習が成立しないということです。[32]

 次にゲームの話です。ゲーム機というのは「やれ(GO)」と「止めろ(NO‐GO)」という単純な操作を組み合わせた遊びですが、人間にとっては「やる」より「止める」が難しい動作です。やりそうになるのを我慢して止めるのが「我慢強さ」であり、我慢できずについついやってしまうのが「キレやすさ」です。そして、「止めろ(NO‐GO)」よりも「やれ(GO)」という課題が多いのがテレビゲーム類の特徴です。それに対し、集団での遊びは我慢しなければならない場面がたくさんあります。最初に鬼を決めるジャンケンも負けたら我慢です。隠れるのも我慢です。捕まったら我慢です。ケンカになっても我慢です。一人ではなくみんなと遊ぶのですから様々なところで我慢が求められます。それに対してゲームはやっている最中も「やれ(GO)」の連続な上に、飽きてやめるのも自分の勝手なので我慢の場面は圧倒的に少なくなります。[33][34]

 私は1960年代の生まれです。生まれた時に家にテレビはありませんでした。70年代以降に生まれた人なら生まれた時から家にテレビがあったことでしょう。やがてビデオが登場し、やがてDVDが登場し、家庭におけるメディア機器はどんどん発展しました。今ではお茶の間に大型の液晶テレビが備わっていて、BSやCSなどから何十種類もの番組を選べるのが「普通」になっているのではないでしょうか。1985年は初期型のテレビゲームが家庭に行き渡った年だそうです。この頃から子どもの睡眠時刻が夜10時よりも遅くなったと言われています。今ではゲーム機の種類も豊富になり、「テレビゲームはダメですよ」と言っても「じゃあDSにする」と切りかえされます。父親自身がゲームで育ったゲーム世代というケースも珍しくはありません。

 しかし、子どもと大人は別です。子どもは子どもの発達過程に沿って健康な成長を必要としています。周囲の大人がそのことを理解して、年齢にあった環境と年齢にあった経験を保障してあげなければ時間は取り戻せません。このQを読んだ方が一人でも多くの方に、「幸せの子育て」を広げてくださることを願っています。

[27]澤口俊之『「学力」と「社会力」を伸ばす脳教育』(講談社α新書)123,129
[28]澤口俊之『「学力」と「社会力」を伸ばす脳教育』(講談社α新書)161
[29]澤口俊之『「学力」と「社会力」を伸ばす脳教育』(講談社α新書)163
[30]榊原洋一エビデンスに基づく乳幼児保育・発達障害トピックス』(診断と治療社)31,33,40,149
[31]日本小児科学会の提言2004
[32]小西行郎・遠藤俊彦『赤ちゃん学を学ぶ人のために』(世界思想社)245
[33]篠原菊紀『キレない子どもの育て方』(集英社)27
[34]田中喜美子『ちゃんと「がまん」のできる子に』(PHP)48

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