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【コラム】さっとママの体験M

子どものスピードは8倍ダウン

 子どもに何かを教える時、日本では「お手本」を大切にする文化があります。子どもに模範をやってみせて、実際にやらせてみて、ほめて教えていくやり方です。どの年齢の子どもにも有効だと思いますが、乳幼児には「お手本」をやってみせる時に特に「大人がする八倍の遅さ」を意識するとうまくようです。
 ある日、四歳の息子が「お父さんとお母さんの顔を描くんだ!」とはりきって、折り紙の裏にくれよんで描き始めました。ところが、何分もしないうちに「はみだしちゃったあ」と泣き出しました。「お母さん、どうやったらいいの?ぬり方を教えて」と言われたのです。それで、いつも自分がやっているようにやって見せてあげました。息子は「わかった」と言って再びぬり始めるのですが、やっぱりはみ出すと納得できないようで大泣きします。何枚も何枚もやりなおし、その度に泣く息子をなだめ励ましました。そのうち下の娘まで泣きだして私もすっかり疲れ果ててしまいました。
 翌日、私が相良敦子氏・田中昌子氏の著書「お母さんの工夫 モンテッソーリ教育をてがかりとして」を読み返していると、小さい子にお手本を示す時は「大人の八倍の遅さにスローダウンした動き」がふさわしいというくだりに会いました。前日、息子が「ぬり方を教えて」と言ってきた時のことを思い出しました。私はお手本こそ示しましたが、子どもが理解しやすいスピードのことまで考えてはしていませんでした。息子が色のぬり方を本当の意味で理解するには、お手本のスピードが早すぎたのではないか、何気なく示したことでちゃんと伝わってなかったのではないかと思いました。それで、チャンスがあればもう一度、色のぬり方をやって見せてあげたいと思いました。
 チャンスはすぐにきました。幼稚園から帰ってきた息子が画用紙に新幹線を描きたいから手伝ってほしいと言ってきたのです。私は「色のぬり方を教えるから見ていてね」と言って、見やすいように息子の左側に座りました。そしてまず、新幹線の枠をなぞりました。次にその中をいつも自分がしているスピードより「八倍の遅さ」を意識して、クレヨンを行ったりきたりと、ゆーっくりゆーっくり動かしてみせました。息子はそれを食い入るように見ていました。そして、続きを息子にも少しずつぬらせていきました。
 結果、本人も納得がいったようで大満足で色ぬりを終えることができました。色ぬりを終えた息子は風呂に入る準備のために脱衣所に行きましたが、いつものように甘えたりイライラしたりせず、自分一人で淡々と服を脱ぎ、トイレを済ませ、脱いだ服も全部きれいに裏返しを直して風呂に入りました。その姿は前の日と違い、自信ありげで堂々として見えました。
 実は、息子がぬったところをよく見ると前日のようにはみ出している部分も結構あったのです。でも、前日のように泣いたりいらだったりしなかったところを見ると、おそらくこの日のお手本の示し方が息子にぴったり合っていて、息子なりに「そうか。色をぬるって、こういう風にくれよんを行ったりきたり動かすこ とで色を埋めていく作業なんだ」ということがしっかり理解できたからではないかと思えました。「色がはみ出す」「はみ出さない」は、実はそれほど問題ではなくて「色のぬり方」こそが息子のできるようになりたかったことだったんだなと思いました。

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