NPO法人エトセトラ / Qでつなごう!幸せの子育て・目次

問題41 「虐待」にあたる四つの行為とは?

 最後に、発達障害の側面から虐待を考えます。  発達障害の専門医である杉山登志郎氏は多数の症例を見てきた上で、虐待を受けた子どもたちの症状が発達障害を持つ子どもたちの症状と似ていることを述べています。[23]

 少なくとも、虐待を受けた子どもたちが特別支援教育の対象であることを、子ども虐待を担当したことがある現場の教師は了解できるであろう。「子ども虐待は保護すればそれで終わり」あるいは「虐待の心の傷に対しては心理的治療を行えば十分」。もし、そのような誤解が一般的に広まっているとしたら大きな悲劇である。子ども虐待は脳自体の発達にも影響を与え、様々な育ちの障害を引き起こす。そのマイナスの影響は、時として最良の対応を行ったとしても、生涯にわたる問題となる。それどころか、次の世代へと世代を超えて負の遺産が受け継がれる。(『子ども虐待という第四の発達障害』)

 粗っぽい言い方ですが、5歳になるまでの間に愛着形成ができない場合の障害が反応性愛着障害です。乳幼児期に虐待を受けた子どもは反応性愛着障害になるリスクが高いと言えます。反応性愛着障害の特徴は次の二つです。

 A型…落ち着かない・多動・初めて会った人にもべたべたする
 B型…人に無関心・不安を抱く・拒否的

 A型はADHD(注意欠如多動症)という発達障害と似ていますし、B型はASD(自閉スペクトラム症)という発達障害と似ています。これが「虐待を受けた子どもたちの症状が発達障害を持つ子どもたちの症状と似ている」と言われる理由です。A型にせよ、B型にせよ、子育ての上では困難さを持った子どもだと言えます。問題は、このような症状が虐待や愛着形成の不全から生じたことなのか、このような特性を持っていたから虐待を受けたのかを判別することが難しいという点です。また、発達障害は脳の機能障害ですが、虐待を受けた子どもの脳はMRIなどを使った脳画像からも、正常発達の脳と比べて明らかに体積が小さいなどの異常が見つかっています。これも虐待が先なのか、発達障害が先なのかの判別は難しいでしょう。

 そこで、虐待の連鎖を防ぐことを目的に置いて、この問題を整理してみます。

 @子どもが生まれながらに発達障害を持っていた場合で、その育てにくさから虐待を受けた場合
 A子どもが生まれながらに発達障害を持っていた場合で、その育てにくさを乗り越えて適切な子育てをした場合
 B子どもが発達障害を持っていなかった場合で、乳幼児期に虐待を受けた場合
 C子どもが発達障害を持っていなかった場合で、乳幼児期に虐待を受けなかった場合

 Cは最も正常発達が期待されるケースですが、Aも限りなく正常発達に近い発達が期待できると思います。発達という言葉を使わずに、社会的に成功するか否かというスケールで見た場合には、どちらがより成功できるかはわからないと思います。エジソンや坂本竜馬のように発達障害を乗り越えて社会的に活躍した人物がAの中にはたくさんいます。エジソンの場合はお母さんが、竜馬の場合はお姉さんが、適切な支援をしたおかげで二人の基礎的な成長があったと言われています。いずれにしてもAとCは「虐待の連鎖」の枠の中には入らないケースです。

 問題となるのは@とBです。@とBでは原因が別です。分けて考える必要があります。
 @は発達障害に関する知識の不足が背景にあります。発達障害に対する正しい理解があれば虐待は防げたかも知れません。従って、@への対応方法は「発達障害に対する正しい理解」となります。
 Bは二つの理由が考えられます。子育てに関する知識の不足が一つです。もう一つは親自身が子育てにおける何らかのリスクを負っている場合です。例えば、自尊感情の低さやコミュニケーション能力の低さです。@も大きな問題ですが、Bはより広範囲な社会的問題です。連鎖には遺伝的なものもあれば、社会的なものもあります。「虐待の連鎖」を社会的なものに限定するならば、Bの問題にこそ多くの原因が隠れている気がしてなりません。そして、その原因を破壊する手立ては「教えてほめる」といったプラスの方向の教育、日本人が昔から大切にして来た伝統的子育ての中にあると思います。

[21]西澤哲『子ども虐待』(講談社現代新書)33
[22]杉山春『ルポ虐待』(ちくま新書)261
[23]杉山登志郎『子ども虐待という第四の発達障害』(学研)21

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