NPO法人エトセトラ / Qでつなごう!幸せの子育て・目次

問題9 お母さんの「抱っこ」が一番大切な時期はいつでしょう。

 そして、もうひとつ重要なのは、「3歳までの愛着形成は連鎖する」ということです。たくさん抱っこをされて愛着形成がうまくいった子は脳(偏桃体)が健康に育って愛情深い子になります。成長して親になったときにも自分がされたように惜しみなく自然に赤ちゃんを抱っこして育てます。反対に、愛着形成がうまくいかなった子は自分の子育てにも「恐怖」や「放棄」といった極端な悩みを持ち込んでしまいがちです。 精神科医の岡田尊司氏の次のように言います。[25]
「抱っこは、スキンシップという面と、『支え、守る』という面が合わさった行動である。よく抱っこされた子は、甘えん坊で1見弱弱しく見えて、実のところ、強くたくましく育つ。その影響は、大人になってからも持続するほどである。」

 抱っこをされると、強く、たくましく育つ。

 このことはとても重要です。虐待問題に詳しい西澤哲氏は、反応性愛着障害を引き起こした子は共感性(他の人の視点で物事を考える力)の発達に困難を抱えることを指摘しています。西澤氏の例示が大変わかりやすいのでヒントにさせていただきます。[26]
 たとえば、学校から帰って来た子が家にいるはずのお母さんがいない事態に直面した場合です。共感性の育っている子は、「あっ、お母さんは今、買い物に出かけているのかな」と考えることができます。同時に、「少し待っていたら戻って来るだろうな」と我慢することもできます。しかし、不安が強い子の場合はそれが出来ません。お母さんは買い物に行っているということを考えるよりも、お母さんがいないということに対する不満が先に立ち、家中を探し回ったり、お母さんが帰って来た時にお母さんを強く責めたりしてしまいます。逆に開放型の子は、相手が母親じゃなくてもいいわけですから、自分をかわいがってくれる相手の元へふらっと飛び出してしまうかもしれません。

 もうひとつ例をあげましょう。やってはいけないこと(いじめや万引きなど)にブレーキをかけてくれるもののひとつに「これをやったら親が悲しむだろうな」という思いがあります。杉山登志郎氏はこれを「内なる親のまなざし」と呼んでいます。[27]
 これも、心の中に親の存在が形成されて共感性が育っている例です。いじめや万引きなどは、人の目を盗んで行う行為ですから、その行為にブレーキをかけるのは自分自身が出来なければなりません。心の強さとか道徳心と言うと、どうやって育てたらいいのかは難しい問題になりますが、ブレーキをかける心の仕組の底辺に乳幼児期の愛着形成がかかわっていることは間違いありません。「3歳までの愛着形成」は、その子の脳を優しく健康的にするだけではなく、未来に向かっていく意欲や我慢強さをも育ててくれるものです。そして、その愛着形成の手段として「抱っこ」がとても重要になるというわけです。

出題のポイント

どれも正解ですので、それぞれの理由を伝えることが大切になります。

「抱っこ」の重要性が伝われば成功です。

[19]田下昌明『1に抱っこ・2に抱っこ・3、4がなくて5に笑顔』(高木書房)53-56
[20]山口創『子どもの「脳」は肌にある』(光文社新書)64
[21]篠原菊紀『キレない子どもの育て方』(集英社)137
[22]岡田尊司『愛着障害』(光文社新書)25
[23]水谷修『夜回り先生50のアドバイス・子育てのツボ』(日本評論社)14
[24]山口創『子どもの「脳」は肌にある』(光文社新書)74
[25]岡田尊司『愛着障害』(光文社新書)21-22
[26]西澤哲『子ども虐待』(講談社現代新書)179-180
[27]杉山登志郎『発達障害のいま』(講談社現代新書)101

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